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58. 病室
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『10月22日、午前10時よりニュースをお伝えします。
昨晩の21時頃、NATESと名乗る犯行グループがNテレビ局に侵入し、放送を乗っ取りました。
グループは30秒間に渡って声明を行った後、テレビ局から脱出し、地上のグループと合流しました。
地上では約50名による暴動が発生していました。数分後に警察が出動しましたが、グループが警告を無視したため、発砲したとのことです。
警察の発砲により、10名が緊急搬送されましたが、いずれも軽傷でした』
病室のテレビから、ニュースが流れている。
今朝のニュースは、NATESとJACKのテレビ乗っ取り・暴動事件で持ち切りだった。
私はベッドにもたれるリンダに視線を移した。
「もっと早く通報すべきだったよ」私はリンダの前で項垂れる。
「事件が起こる前、ダンに言われていたんだ。『俺たちを通報するか、テレビの生中継を見届けるか』って。
だけど、私は通報しなかった。そのせいでリンダは怪我をした。全部私の責任だよ」
私は椅子に座ったまま、頭を抱えた。
リンダは私の肩にそっと触れ、私をなだめた。
グループの先頭に出ていたリンダは、真っ先に左肩を撃たれた。
幸い軽傷で済んだが、彼女の肩は包帯で巻かれ、病院で治療中だった。
「自分を責める必要はないわ、エマ。私は自分の意思で闘ったんだもの。
それよりも、私は警察が許せないのよ。私たちは武器なんて持っていなかったのに、銃を使うなんて不合理じゃない」
今回の事件について、インターネットでは様々な声が上がっていた。
特に、警察の発砲については、『犯行グループの自業自得だ』と罵る者もいれば、『銃を使うのはやりすぎだ』と同情する者もいた。
リンダが片手でスマートフォンをスクロールし、SNSの投稿を確かめる。
私は痛ましげな彼女の肩を眺めながら、そっと呟いた。
「ダンはどこにいるんだろう」
「わからないわ。事件の後、彼は失踪してしまったから。
彼は別のビルから発電機のハッキングをしていたの。だけど、彼とザイオンは、私たちの前から途端にいなくなってしまった」
「ダンを止めないと」私は椅子から立ち上がり、カバンを手に取った。
「だけど、場所がわからないんでしょう?」
「まだ、XビルやYビルにいるかもしれない」
「警察が調査をしているに違いないわ。今のタイミングで行くのは危険よ。あなたが関係者だってバレてしまう」
「別の場所にも、思い当たりがあるんだ。もしかすれば、カフェやバーに……」
「エマ」リンダが低い声で、私を諭す。
「どうか落ち着いて。今むやみに動くのは危ないわ。しばらくはじっとしていないと」
「そうだけど」
「あなたはいつも通り仕事をしているの。少なくとも、一週間は。
それよりも、私はあなたともっと話がしたいわ。次はいつ会えるかわからないんだから」
リンダが澄んだブラウンアイで、私を見つめる。
私はしばらく立っていたが、黙って椅子に座った。
「治療が終われば、私はきっと警察から事情聴取を受けるわ。
エマは私の友達だから、それだけで色々と聞かれるかもしれない。今面会に来ていることだって、とってもリスキーなのよ。
私、あなたを巻き込むことだけはしたくないの。だから、せめて今日だけでもたくさんお話しましょう」
リンダはごく落ち着いた様子で私に言った。
私は彼女を長い間見つめていた。途端に自分が情けなくなり、私はその場で再び項垂れた。
私たちは何十分も話していた。
リンダの怪我について、これからの進路について。
「私はきっと仕事を辞めさせられるわ」リンダが少し悲しげな声で言う。
「だけど、私はめげない。NATEがそばにいるもの」
リンダが血の滲んだハンカチを胸に当てる。
私は心苦しくなりながら、その様子を見守る。
「NATEはいつも私を正しい方向へと導いてくれる。だから、きっと新しい仕事だって見つけてくれるわ」
「リンダ……」私は声にならない声で、リンダに訴えかけたが、言葉に詰まった。
私は何も言えなかった。リンダはハンカチをぎゅっと握りしめ、いつまでもNATEについて語っていた。
昨晩の21時頃、NATESと名乗る犯行グループがNテレビ局に侵入し、放送を乗っ取りました。
グループは30秒間に渡って声明を行った後、テレビ局から脱出し、地上のグループと合流しました。
地上では約50名による暴動が発生していました。数分後に警察が出動しましたが、グループが警告を無視したため、発砲したとのことです。
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病室のテレビから、ニュースが流れている。
今朝のニュースは、NATESとJACKのテレビ乗っ取り・暴動事件で持ち切りだった。
私はベッドにもたれるリンダに視線を移した。
「もっと早く通報すべきだったよ」私はリンダの前で項垂れる。
「事件が起こる前、ダンに言われていたんだ。『俺たちを通報するか、テレビの生中継を見届けるか』って。
だけど、私は通報しなかった。そのせいでリンダは怪我をした。全部私の責任だよ」
私は椅子に座ったまま、頭を抱えた。
リンダは私の肩にそっと触れ、私をなだめた。
グループの先頭に出ていたリンダは、真っ先に左肩を撃たれた。
幸い軽傷で済んだが、彼女の肩は包帯で巻かれ、病院で治療中だった。
「自分を責める必要はないわ、エマ。私は自分の意思で闘ったんだもの。
それよりも、私は警察が許せないのよ。私たちは武器なんて持っていなかったのに、銃を使うなんて不合理じゃない」
今回の事件について、インターネットでは様々な声が上がっていた。
特に、警察の発砲については、『犯行グループの自業自得だ』と罵る者もいれば、『銃を使うのはやりすぎだ』と同情する者もいた。
リンダが片手でスマートフォンをスクロールし、SNSの投稿を確かめる。
私は痛ましげな彼女の肩を眺めながら、そっと呟いた。
「ダンはどこにいるんだろう」
「わからないわ。事件の後、彼は失踪してしまったから。
彼は別のビルから発電機のハッキングをしていたの。だけど、彼とザイオンは、私たちの前から途端にいなくなってしまった」
「ダンを止めないと」私は椅子から立ち上がり、カバンを手に取った。
「だけど、場所がわからないんでしょう?」
「まだ、XビルやYビルにいるかもしれない」
「警察が調査をしているに違いないわ。今のタイミングで行くのは危険よ。あなたが関係者だってバレてしまう」
「別の場所にも、思い当たりがあるんだ。もしかすれば、カフェやバーに……」
「エマ」リンダが低い声で、私を諭す。
「どうか落ち着いて。今むやみに動くのは危ないわ。しばらくはじっとしていないと」
「そうだけど」
「あなたはいつも通り仕事をしているの。少なくとも、一週間は。
それよりも、私はあなたともっと話がしたいわ。次はいつ会えるかわからないんだから」
リンダが澄んだブラウンアイで、私を見つめる。
私はしばらく立っていたが、黙って椅子に座った。
「治療が終われば、私はきっと警察から事情聴取を受けるわ。
エマは私の友達だから、それだけで色々と聞かれるかもしれない。今面会に来ていることだって、とってもリスキーなのよ。
私、あなたを巻き込むことだけはしたくないの。だから、せめて今日だけでもたくさんお話しましょう」
リンダはごく落ち着いた様子で私に言った。
私は彼女を長い間見つめていた。途端に自分が情けなくなり、私はその場で再び項垂れた。
私たちは何十分も話していた。
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「私はきっと仕事を辞めさせられるわ」リンダが少し悲しげな声で言う。
「だけど、私はめげない。NATEがそばにいるもの」
リンダが血の滲んだハンカチを胸に当てる。
私は心苦しくなりながら、その様子を見守る。
「NATEはいつも私を正しい方向へと導いてくれる。だから、きっと新しい仕事だって見つけてくれるわ」
「リンダ……」私は声にならない声で、リンダに訴えかけたが、言葉に詰まった。
私は何も言えなかった。リンダはハンカチをぎゅっと握りしめ、いつまでもNATEについて語っていた。
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