NATE

九時木

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43. エスカレート

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 「送信機はバラしておこうぜ、ザイオン。証拠品が見つかっちゃマズいからな」

 ダンが事務的に後片付けをする。ザイオンはドライバーで送信機を分解し、パーツをポリ袋に入れる。


 「どうして電波ジャックなんて……」

 彼らが後始末をしている中、私はほとんど消え入りそうな声で言う。
 ダンは私の方を振り向き、ごく落ち着いた調子で返した。

 「抗議のためさ。さっき宣言した通り、俺たちは警察の取り調べの危機にさらされている」

 「だからと言って、ラジオを乗っ取るなんて御法度じゃないですか」

 私は声を詰まらせる。ダンは私のもとへ歩み寄り、静かに説明した。

 「抗議に必要なのは、事件性だ。
 今どきは動画サイトやSNSなんかが主流だが、それで発信するだけじゃ効果がない。

 事件を起こせば、俺たちの抗議はニュースを通してあっという間に広まる。

 テレビをジャックするには、もっと強力な電波装置が必要だ。だが、ラジオなら俺たちの力で簡単に乗っ取れる。

 今の俺たちの置かれている状況を伝えるには、十分な方法さ」

 「俺たちの行為に同意できないのなら」ダンがしゃがみ込み、私の肩にそっと手を置く。

 「今すぐ抜けたっていい。だが、お前はメンバーがなぜNATEに興味を持っているのかを知りたい。そうだろう?」

 「私は……」

 「『社会の影を見逃すな。抑圧された若者たちの言葉を聞け』」

 ダンはラジオで発信した言葉を繰り返す。私はその場で固まり、頭を抱える。

 「第一の密告者にならないことを願うばかりだな」

 私の反応を見たダンが短く笑い、その場から立ち上がる。
 彼らは装置をバックパックに詰め込み、重たげなそれを背負って退出した。


 取り残された部屋で、私は一人腕に顔を埋める。
 彼らの行為は、同意しかねるものだった。しかし、私には警察に伝える勇気もなかった。

 「密告」することが、正しいことなのかすらわからなかった。
 彼らは自分たちの信念のために行動している。それに水を差していいのか、私には判断できなかった。

 『デモでもなんでもやってやるさ。黙ってちゃいられないんだ』

 NATESとJACKは、これから勢力を拡大していくのだろう。
 止めるなら今のうちだ。私は立ち上がり、急いでJACKの会場へ戻った。


 会場はすっかり沸き立っており、中央での殴り合いはピークに達していた。
 私はその中からリンダを見つけ、彼女の腕を強く引っ張った。

 「こんな所にいちゃだめだよ、リンダ」

 リンダはすっかり興奮しきっていた。彼女は引っ張られた手を見て、私をぎっと睨みつけた。

 「嫌よ。私、せっかくここに誘われたんだもの。
 あなたがこの前言っていた、ダンって人が教えてくれたのよ。ここって何だか、スリリングで素敵じゃない!」

 「ここに居続けるのは危ないから」私は血まみれになった男たちに視線を移しながら、リンダを説得する。

 「危険なんかじゃないわ。皆、仲間のために闘っているもの。私たち、皆NATEを信じているのよ。NATEでつながっているんだわ」

 リンダは情熱的な目でメンバーたちを見つめる。私はリンダを再び引っ張ったが、今度は勢いよく振りほどかれてしまった。

 「リンダ!」私はどんどんと前方へ向かっていく彼女を止めようと叫ぶ。

 「先に帰っててよ」リンダはもう帰る素振りすら見せず、画面中央に見入っていた。

 「私はずっとここにいるんだから」
  
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