NATE

九時木

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34. 日記4

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 『10月12日土曜日 午後23時45分

 今晩は討論はなかった。その代わり、『NATEー謎の存在を語る』をNATEのメンバーと視聴した。

 どうやら、毎週土曜日はこの番組について皆で意見を出し合うらしい。
 彼らは番組に聞き入っており、終了後は様々な議論を交わしていた』


 NATESから帰宅後、私はいつも通りソファに腰掛け、日記を書いていた。
 私はテレビをつけながら、今日の出来事を振り返った。

 
 『社会心理学者カーライルは、NATEの暴行事件について、インターネットが事件を加速させていることを指摘していた。

 まず、若者はインターネットの使用率が高い。彼らはネットを通してNATEの暴行事件を知る。

 そして、NATEについての情報を繰り返し見るほど、その情報に対して親密な感情を抱きやすくなる。

 その結果、若者の暴力に対する警戒心は薄れ、他人と衝突した際に、自らも暴力で訴えるようになる。

 若者は、インターネットを通して暴行事件について触れる機会が多いため、他の年齢よりも暴力に寛容になりやすい。それがカーライルの見解だった』

 『しかし』と、私は次の段落へ移る。
 ペンが自ずと進み、次々と文字を足していく。

 『メンバーは、カーライルが若者を一般化していることに疑念を抱いていた。

 レオは、NATEは特殊な立ち位置であることを強調していた。
 暴力に訴えず、話し合いによって問題を解決すること。それがNATEの方針だった』

 それはレオらしい意見だった。
 私は、彼が昔上司から暴行を受けていたことを打ち明けられた。

 彼は暴力に対して一貫した否定的な姿勢を取っている。もしかすれば、彼は他人が自分と同じような目に遭うのを見たくないのかもしれない。

 レオの背景について考えていると、付けっぱなしのテレビがニュースを報道した。


 『速報です。今日午後22時、N・ストリートにて、再び暴行事件が発生しました。

 加害者と被害者は、いずれも20代の男性。NATEについて話し合いをしていた所、議論がエスカレートし、暴行に至ったとのことです。

 事件は今回で10件目です。NATEをめぐる事件は、増加傾向にあります。
 最近の暴行事件について、街の人々はこのように伝えています』


 場面が切り替わり、街のインタビュー画面になる。
 年配と思われる住人が、顔を伏せられた形でインタビューに答えていた。


 『最近、この通りではNATEの暴力事件がよく起こっています。
 私はその事件に巻き込まれないか、不安です。いつか家を壊されてしまうのではないかと思って。
 
 だから、夜は必ず窓をシャッターで閉めています。早く治安が元に戻ると良いのですが……』


 どうやら、住人はNATEの暴力事件を警戒しているようだ。
 日に日に増す事件。私はホットミルクをゆっくり飲みながら、ニュースを見る。
 
 NATESが平和的解決を掲げる一方で、街では暴行事件が相次いで起こっている。
 私は少し嫌な予感がした。しかし、その予感はたちまちレオの言葉によってかき消された。

 『NATESは暴力で訴えない』。私はこの言葉を信じる他ないのだろう。
 私は日記を閉じ、ソファに横たわったまま、しばらく天井を見上げていた。
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