NATE

15. グッズ

　フライパンに卵を落とし、数分ほど焼く。
　卵の縁がほんの少し茶色に焦げついた頃、出来た目玉焼きをトーストに乗せる。
　
　10月7日、午前10時。私はテレビの前で、いつも通りの朝食を迎えた。

　アナウンサーがNATEについての新しい情報を伝える。私は目玉焼きトーストをかじりながら、快活なその声に耳を傾けた。


　『NATEはオンラインサイトにも、大きな影響を及ぼしています。
　先日、若者向けのアパレルサイト"Bショップ"は、NATEのTシャツを1000点販売しましたが、既に完売したとのことです』


　画面に、背にNATEのロゴが入ったTシャツが映る。アナウンサーはその服を試着し、『綿とポリエステルの組み合わせで、着心地も抜群です』と朗らかな表情でコメントする。

　私はそのシャツをまじまじと見つめ、何度も瞬きをした。

　NATEのシャツを着たアナウンサーは、隣にいたデザイナーにマイクを向け、コメントを伺う。
　デザイナーの女性は、髪を後ろへ退かしながら、早口に説明した。

　
　『NATEについては、アパレル業界でも話題になっています。
　Bショップだけでなく、競合他社のCショップやDショップでもデザインが開発され、販売の準備が進められています。

　我々は先手を打ち、どのサイトよりも早くNATEの服をお届けしました。

　NATEを販売する上で、しばしば著作権についての懸念がありましたが、今はそのような問題はありません。
　それは定義不能であり、目視不能であり、UFOのようなものです。NATEは誰にも所有されない存在ですから、安心してご利用いただけるでしょう』


　デザイナーが自信ありげに顎を上げ、ハイヒールを鳴らす。

　どうやら、巷ではNATEのグッズ販売もされているらしい。
　画面はTシャツからマグカップ、鞄へと切り替わり、次々とNATEのロゴを映した。

　NATEは市場にも影響を与えつつある。私は日記を開きながら、しばらくニュースに聞き入った。


　ニュースが終わった頃、スマートフォンの通知が鳴ったので、私はメッセージを見た。
　メッセージはリンダからのものだった。


　『今日は久しぶりの再会ね。楽しみで、昨日はあんまり眠れなかったわ。
　約束通り、正午にW公園の時計下で待ってるから。遅れちゃ駄目よ』


　リンダは私の友人だ。高校からの知り合いで、時々連絡を取っている。
　彼女との約束を忘れていた私は、ぎくりとしながら返事を考えた。

　時刻は午前10時30分。W公園までは30分ほどかかる。
　まだ時間はたっぷり残っていた。私は胸を撫で下ろし、『OK』とメッセージを送った。