NATE

九時木

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11. 会場

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 腕時計の針が20時55分を指す。
 私はXビルの前に到着し、ダンを待っていた。

 ビルは築30年ほどで、やや古ぼけた見た目をしていた。
 雨がぱらぱらと降り始めていたので、私はビルの影に隠れ、じっと身を固めていた。


 「待たせたな」

 21時を過ぎた頃、ダンが姿を現した。
 彼は夕方と同じ黒いジャケットを羽織っており、私に軽く挨拶した。

 「こっちだ」と言い、ダンがビルの階段を上っていく。私はその後へ続き、2階へ向かった。


 会場は既にざわついていた。
 部屋は1クラス分の広さがあり、大きなラウンドテーブルが3つ設置されている。
 メンバーたちは盛り上がっており、身振り手振りをしながら議論に熱中していた。

 ダンが1つのテーブルに歩み寄り、1人の肩に手を置く。
 振り向いた男は30代頃で、顎に短い髭を生やしていた。

 「ダニエルじゃないか」その男は驚いた様子を見せる。

 「1週間ぶりだな」ダンが微かな笑みを浮かべながら、男に返す。

 「そっちの嬢ちゃんは?」

 「今日会ったダチだ」

 「エマです」私はその男に向かって、軽くお辞儀をする。

 「俺はレオだ。よろしく」レオは愛想よく振る舞い、自己紹介をする。


 「君、ここに来るのは初めてだよな?」

 「エマは見学をしに来たんだ」ダンがレオに説明する。

 「どうやらNATEに興味があるらしい。ウチにはもってこいの人材だと思うが」

 「メンバーになるのか?」レオが小さく丸い目をダンに向ける。

 「まあ、ひとまずは様子見ってところじゃないか」ダンが首元をさすりながら話す。

 「そうか。とにかく、ゆっくりしていくといい。なんせ、議論はたっぷり2時間続くもんだから」

 レオがテーブルに振り返り、議論を再開した。
 ダンが私を壁際に導き、メンバーを見守るように促す。
 私は小走りでダンのもとへ向かい、壁に背をつけた。


 「面白い場所だろう」

 会場が賑わう中、ダンが隣で私に話しかける。
 
 「コワーキングスペースを借りて、丸ごと議論の場にしたんだ。

 1日の定員は24名。1つのテーブルに8人座って、2人ペアになる。4組のうち、1組は司会進行係、もう1組は賛成派と反対派の議論係、最後の1組は書記係だ」

 「役割分担があるのですね」私は会場を見渡しながら、話を聞く。

 「皆NATEについて話しているが、テーブルによってトピックは違う。興味があるなら、近くで聴いてもいいんだぜ」

 ダンの言葉に、私は目を輝かせる。
 私は目の前のテーブルをじっと見つめ、メンバーたちが真剣な顔つきをしているのを観察する。
 
 私はそっとそのテーブルに近づき、メンバーの話に耳を傾けた。
 テーブルを囲う人々のうち、司会者と思われる1人が、他のメンバーを見渡しながら声を張った。


 「それでは、ただ今より第11回目の議論を始めます。
 テーマは『地球滅亡の原因~NATEが太陽の寿命を縮ませているのか?~』です。賛成派の2人は、意見をどうぞ」
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