崖先の住人

九時木

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3章: 奔走

26. 暴動

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 路上を転がっていく目玉を、僕は無我夢中で追いかけていた。
 外は大勢の人で賑わい、行手をとことん遮られる。
 まるで祭り騒ぎのようだ。何か催し物でもあるのだろうか。

 人混みをかき分けていると、頭上に何やら固いものが当たった。
 僕は空を見上げた。すると、一粒、また一粒と錠剤が落ちてきた。


 「来たぞ、錠剤の雨だ!」

 誰かが歓喜の声を上げる。次の瞬間、路上がざわめきだし、大音量の声が湧き上がった。

 真っ赤な錠剤が次から次へと降り注ぐ。足元に落ちた錠剤を見ると、表面には「10mg」、「15mg」と表記されていた。

 「そいつを寄越せ。俺のものだ」

 「渡さないわ。私のものよ」

 群衆は押し合いへし合いになり、混乱状態に陥った。
 僕は背後から押し出され、思わず転びそうになる。周囲のざわめきは止まらず、群衆はしゃがみ込み、その場に落ちた錠剤を狂ったように拾い集めている。

 すぐ隣では、男同士が殴り合っているのが見えた。
 鈍い音があちこちで響く。僕は急いでその場を切り抜けようとする。

 「俺の分を拾うな」

 「一発お見舞いしてやる」

 ネオン看板が煌めく中、群衆が互いに掴み合ったり突き飛ばしたり、大騒動を起こしている。


 「そいつを踏むな!」

 突如、真横から男が僕に飛びかかろうとする。
 足元を見ると、僕は錠剤を踏みかけていた。
 僕は慌てて避け、男の顔を見た。

 男は目が血走っており、顔が血塗れだった。
 さらに、片手には拳銃を手にしていた。僕はぞっとし、逃げるようにしてその場を去った。


 途中、左右から服を引っ張られながらも、何とか群衆を切り抜けた。
 恐ろしい連中だ。皆、薬を求めて半狂乱になっているのだろうか。

 僕は殴り合う群衆を遠くから眺める。群衆はばたばたと倒れ、地面に血の跡を残していく。


 「結構な見物だわ」

 すぐ隣で、誰かがぽつりと呟く。振り向くと、バーにいたネコ頭が腕を組んでいた。

 「何なんだ?これは」

 僕は思わずネコ頭に問いかける。ネコ頭はそっと微笑んで言った。

 「この街には、よく錠剤の雨が降るの。飲むと気分が良くなるからって、皆こぞって欲しがるのよ」

 ネコ頭が群衆を眺めながら説明し、ポケットからカードを取り出した。
 女はカードを裏返し、『ES』と書かれた表を見せた。

 「素敵な催し物ね」

 僕はネコ頭を見た。ネコ頭の顔は何処か憂いを帯びており、僕は反射的に顔を背けた。

 「ところで、目玉は見つかった?」

 ネコ頭に問われた僕は、そこでようやく目玉のことを思い出した。
 女は何か言いかけていたが、僕はもうその場にはいなかった。早く目玉を見つけなければと、気が気でなかった。
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