上 下
17 / 45
第2章:現れる脅威と新たな力

17 戦場の星

しおりを挟む
 夢羽の手のひらの上で、火の玉が踊るように動き回っている。

付喪神つくもがみって?」
「あれ? 知らないの?」
「うん……」
八百万やおよろずの神は?」
「え? 神様って子授かりの神様しかいないよね?」
「そうか……こっちではそうだったわね……」

 夢羽が身体を横に向け、ボソっと呟いている。

「えーっと……それでその付喪神はどういった神様?」
「んー……愛着の湧いた物とか、よく使っている古い物とかに宿る神様の事って言えばいいのかな」
「へぇ……そんな神様がいるんだね。それであの小銃に宿らせてって言ってたんだ」
「うん、そうよ。ちなみに八百万の神は、それも含めたあらゆる物の神様の総称だね」
「なるほどね……。」

 夢羽は私に、火の玉の形をした付喪神を渡してきた。
 私はそれを受け取った。
 だが、付喪神は私の手から腕へ上がり、腕から肩、肩から私の後ろに移動した。

「あ、どっか行っちゃった!」
「あらら。つくちゃん、かんざしが気に入ったみたい」
「つくちゃんっていうんだ、この子」
「そうよ。この世界ではその子だけだから、仲良くしてあげてね」

 あの見た目で神様なんだけど、どう仲良くすればいいのかな?
 私は首を傾げ、そして頷く。

「つくちゃんも預けたし、ここからが本題よ」
「え? 本題? つくちゃんに関係するの?」
「関係するというより、頼れる相棒かな」

 私の後頭部で気配を感じさせるつくちゃん。

「相棒が必要な事……場所? 私にどこへ行けって言うのさ」
「あら、お察しがよろしいわね」
「……また邪気関係?」
「うん、そうよ。ものすごく危ない星があるわ」

 夢羽は1通の手紙を、いつの間にか私の側にあった局員用のカバンから抜き取った。

「ここね」
「え? 夢の星って選べるの?」
「ちょっとした裏技よ。風羽にはまだ出来ないわ」
「……なんか、夢羽がすごい人に見えてきた……」

 私は半分冗談で、両手を合わせ拝んでみた。

「今までどう見えてたのよ。てか拝まなくていいわよ」

 夢羽は私の両手を抑える。

「幼馴染……いや違うな……姉さんかな」
「姉さん! ……なんか新鮮な響きね」

 姉さんは、カップにおかわりの紅茶を入れてくれた。

「それで姉さん、私はどこに行けばいいの?」
「……なんか歯がゆいから夢羽でいいわよ……それで行ってほしい場所なんだけど……」

 姉さんもとい夢羽は、テーブルに置いてある手紙の切手を指した。

「……え? ここって……」
「噂になってるでしょ。通称『戦場の星』よ」

---

 夢羽からの依頼で、戦場の星に行ってほしいと言われた私は、十分な食糧を買い込み、迷彩柄のリュックに食糧と局員用カバンを入れ、レンタカーで宇宙へと出た。
 そして、多忙で動けないゲンに同行のお願いはせず、1人で戦場の星に来ていた。

「……たしかに戦場なんだけど……やっぱり噂って尾ひれがつくもんなんだね」

 ちょっと離れた位置から戦場の様子を見ている。
 遠くで戦が行われているように見えるが、実際は近い。

「遠い物は小さく見えるっていうけど、あの大きさだと近くても小さいよね……」

 目の前で、全身ツヤツヤ兵隊が双方向で撃ち合いをしていた。
 そう、ここは『の戦場の星』だ。
 私の足首から膝関節の長さの半分の大きさしかないおもちゃ同士が、大豆の弾を使って戦争をしている。

「###$@@! #$%$!!」

 私の後ろから、理解できない言葉が聞こえてきた。
 うつ伏せになって戦場の様子を見ていた私は、上半身だけ起こし後ろを見た。
 そこには伏兵なのか増援なのかは知らないが、おもちゃの軍勢が並んでいた。

「おっと、通行の邪魔だったかな? 私に構わず、どうぞどうぞ」

 私は立ち上がり、道を譲ってあげた。

「##@@$!!!」

 先頭にいる他とは色が違う偉そうな兵士が、私を指して何かを叫んだ。
 すると軍勢の方から、数え切れない程の大豆が飛んできた。

「わわ! 地味に痛い!」

 身体の方に撃たれても平気だったが、顔に撃たれ始めてチクチクして痛かった。

「$$#@$%!!」

 先頭の兵士が叫ぶと、弾幕の雨が止んだ。

「ふう……痛かったよ! もう……」

 私が顔を鏡で身体は目視で、腫れてないか確認した。
 その時、小銃がチラっと見えた。
 すると偉そうな兵士が、少し大きめの銃っぽいのを取り出した

「わー!?」

 その変な銃から緑色の光が出て、それが私に命中した。
 その緑色の光に包まれ、気を失った。

---

 起き上がると、牢のような所にいた。
 両腕、両足共に、手錠のような木製の枷で捕縛されていた。
 牢の前には、さっきの兵士のような人が見張りをしていた。

「あのー?」

 私は見張りの兵士に声をかけた。

「!!! 捕虜が起きたぞ!」

 見張りの兵士は周囲に聞こえるように、大声で報告をした。
 すると、さっき先頭にいた他と色が違う兵士が、私の前で偉そうに仁王立ちした。

「……起きたか、敵軍の兵器め」
「へ、兵器?」

 予想外の事を言われたので、首を傾げた。

「あんな巨大ロボ、どう見ても兵器である。最近敵軍も技術力が向上したようで、巨大ロボを何度か見かけるようになったのだ」

 え? それってどう考えても局員だよね……。

「えっと……その巨大ロボさん達は、今までどうしてたんですか?」
「この素晴らしいミニミニ光線で小さくして、お前と同じように捕縛している」
「良かった……消滅はしていなかったようだね」

 私は周囲を確認する。
 どうやら荷物は全て取られたようで、残ったのは局員の制服とかんざしだけのようだ。

「何が良かっただ。お前もあいつらと同じように、これから強制労働に組み込む。楽しみにするがいい。ガハハハハハ!!!」

 色違いの兵士は、高らかに笑いながらこの場を去った。

「兵士さん、食べ物とかは無いの?」
「他もそうだが、巨大ロボのくせに食事をするのか。世話が焼ける奴らだな」

 そう言い、兵士は何かを投げてきた。
 私はそれを両手で取った。
 取ったそれを見ると、棒状のクッキーが2本入った袋だった。

「それがお前の今日の飯だ」
「え? これだけ?」
「それだけだ。もっと食いたかったら働け」

 そう言い、兵士は前の方を向いた。
 これ以上質問しても、聞いてくれなさそうな雰囲気を出している。

「(さて、どうしたものか……。武器も全部取られたし)」

 そう思いながら、後頭部のお団子を触る。

「(あ、そういえば夢羽と話せるんだっけ? おーい夢羽、聞こえる?)」

 私は夢羽を呼ぶために頭の中で叫ぶ。

「聞こえているわよ。どうしたの……って、ピンチってやつ?」
「(うん。似たような状況。あと、この星で何人か局員が行方不明になってるんだけど、全員無事みたい)」
「そうなんだ! それで、あたしは何をすればいいのかしら?」
「(局員全員の救出と、脱出をしたいからサポートしてほしい)」
「うーん……」

 夢羽はなぜか黙る。

「(どうしたの?)」
「あたし、直接的にサポートできないからどうしようって思ってね」
「(そうなの? 例えばどんな事できる?)」
「見る事しかできないから、兵士さんの視界から逃げるサポートしかできないわよ」
「(あー……いわゆるステルスゲームだ)」
「たしかにそうだ! じゃあ第一目標は、風羽の荷物奪還だっかんだね」
「(そうだね! じゃあまずは……これをどうにかしたい!)」

 私は木製の枷を見る。

「じゃあ、あたしがサポートするから試してみて。あ、あと、これも必要だから1個ずつ使って」

 突然目の前に、小さな鉄の棒がたくさん入った箱が現れた。

「(なにこれ?)」
「あーそうか……これも使った事ないんだよね。ヘアピンといって、髪を固定したりする時に使う道具だよ」
「(そんなのもあるんだね……てか、今使わないんじゃない?)」
「使うよー。それと、かんざしも抜いて使って」
「(これも?)」

 私は団子ヘアからかんざしを抜いた。

「ヘアピンとかんざしを鍵穴に入れて。あ、ヘアピンは開いてね」
「(ここ?)」
「うん、そう」

 ヘアピンを曲げて開き、鍵穴に挿しこんだ。
 そしてかんざしも鍵穴に挿しこんだ。

 夢羽のアドバイスを聞きながら、木製の枷をどうにかピッキングしようと試みた。

「(できないよ!)」
「大丈夫。あと少し右だよ。そうそう。そこだ!」

 かんざしを突くと、枷が外れ両手が自由になった。

「(よし次!)」

 私は兵士の後ろに立ち、肩をトントンと叩いた。
 兵士は何事と言いたそうな顔をして、こちらに振り向く。
 その顔を、枷で下から殴り飛ばした。

「うわー……痛そう」
「(兵士さんごめんなさい。やらないといけない事があるの)」

 倒れた兵士から牢の鍵を取り、鍵を開ける。
 そして足の枷も外し、自分の荷物を探すために奥へと進んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...