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プロローグ

03 光る手紙と夢の星

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 老婆とゆっくりログハウスへ向かったからか、日が傾いてきたような気がする。
 周りを見ると、さっきは点いていなかった外灯が灯っていた。
 ログハウスに着き、老婆は中に入り、電灯を灯した。

「どうぞ、あがってちょうだい」

 中はシンプルな作りをしていて、テーブルと台所があり、奥に扉が1つあった。
 私は小包をテーブルの上に置いた。

「わざわざここまでありがとうね。飲み物用意するから少し待っててね」

 老婆はそう言って台所でお湯を沸かし始めた。

「うん? なんだろ……」

 と、ゲンは呟き、窓の近くに行ったので私も近づき外を見てみる。

「おいおい、ちょっと暗くなってきているぞ」
「暗くなったら何があるの?」

 ゲンは腕を組み、うーむと唸って私の質問を聞いていない。

「お茶の用意ができましたよ」

 老婆がテーブルに湯呑みを置いてくれている。

「ありがとうございます。早速いただきます」

 私たちはテーブルの方へ行き、イスへと座る。
 そして、用意してもらったお茶を飲んだ。
 夢の星の中だが、お茶の味を普通に楽しむことができた。

「夢の星の中でも味がするんだね」

 こっそりとゲンに話す。

「ああ。我々はここに存在する者だからな」

 そう言い、再び窓の外を見る。

「早速小包とお手紙を開けようかね。まずは小包の方を……上手く開けられそうにないねぇ。天使さん、代わりに開けてくださいます?」

 老婆は小包を開けられなかったようだ。
 天使と呼ばれた私は、包装を綺麗に開けてあげた。

「はい、どうぞ」
「ありがとうねぇ。中身は何かしら……。あらあら、ふふふ、孫たちとひ孫たちからのお手紙だねぇ。あら、あの子たちからのも入ってる」

 老婆は小包の中に入っていた手紙を、楽しそうに1つずつ読んでいる。
 それを見ながら、何かイメージが断片的に流れ込んでくる。

 それは、大人数人と子ども達が何かを書いている姿と、場面が切り替わって、初老の男の人と女の人が数人机に向かって手紙を書いている姿だった。

 私もお裾分けを貰っているような感覚を感じ、笑顔が出た。
 全て読み終えたようで、大変満足そうにニコニコしている。

「あとはこのお手紙だけだねぇ。あら、これは亡くなったはずの夫からの手紙だわ! ……そうなのね。頑張っているようね」

 老婆は涙をぽろりと落とした。
 その瞬間、手紙から1枚と小包から2枚の切手が剥がれて私の手元に飛んできた。
 私はそれらを掴んで取った。
 3枚とも田舎の風景が描かれた切手だ。

「ありがとね、天使さん。こんなサプライズ初めてだよ」

 老婆は私の手を握り微笑んでいる。その目尻には涙の粒が残っていた。

「いえ、お手紙届けられてよかったです」
「……そろそろ休むとするかねぇ。天使さん、ありがとうね」

 と言い、老婆はイスに座った。
 私もイスを近づけて隣に座る。
 そして、手を握ってあげた。
 夢だからなのかわからないが、体温は感じられない。

 しばらくすると、老婆の力が抜けるのを感じた。
 私は咄嗟に老婆を支えた。
 ゲンが奥の扉を開ける。
 そこにはベッドがあった。
 そのベッドまで老婆を運び、寝かせてあげる。

「とても軽い……」
「ああ……。おそらく現世では寝たきり状態だったんだろうな……」

 私は扉の方まで行き、帽子を外して軽く一礼し、外へと出た。


---


 外に出ると、さっきのおだやかな風とは違って、強い風が吹き荒れていた。
 そして、夕焼け空だったのが、夜になったのかと思うほど暗くなっていた。

「夢の星って昼と夜もあるんだね」
「いや、無いな」

 ゲンは首を横に振る。

「え? じゃあ……」
「この現象は死期が近い証拠だ」
「じゃあ、さっきのって……」
「ああ、そうだな。新人で、最初の配達で看取りになるのは初めてのことだ」

 畑と畑の間で立ち話をしていると、突然のすごい音と共に空が割れた。

「とうとう割れたか」
「あれは?」
「奈落だ。夢の主が亡くなったら星が無くなる。その時に現れるものだ。近づいたら魂の形が保てなくなって霧散するらしいぞ」

 ゲンは恐ろしいと呟きながらぶるぶる震えてる。

「それじゃ、崩壊する前に脱出しようよ」
「そうだな。ほれ、早く乗れ」

 すぐにクルマに変身したゲンは、運転席側のドアを開けた。

「わかった」

 ゲンに乗るとすぐに、奈落の無い空の方へ飛び立った。

 夢の星を脱出した私たちは、星を見下ろしている。
 星はみるみるうちに小さくなっていき、終いには跡形もなく消えてしまった。

「あ、消えちゃった……」
「ああ、そうだな……」
「この後、あのおばあちゃんはどうなるの?」
「月の神が迎えに行くぜ。その後は同じ局員として働くことになる。まあ、旦那さんもまだ局員としてのんびりと仕事をしているみたいだし、確率はかなり低いが偶然会えるかもしれないな」

 私は、流れた涙を袖で拭く。

「もし私達がここにいなかった場合、夢の星の崩壊に気づかなかったらどうなるの?」
「この夢の星は主が亡くなるまで同じ場所に存在するから把握している。消えたらその人をちゃんと迎えに行くぜ。ちなみに、それが現世で言われている死神もしくは天使の元だな。まあ、本当は神なんだがな」
「神が天使や死神に間違われてるんだね……」

 それを聞いてゲンは笑いを堪えている。

「そういえば、ここの周りの星、暗い感じがしたんだけど、もしかして……」
「よく気づいたな。あれらは現世で起きている人の星だ。んで、近くに集まっている星が家族か近い存在だな」
「現世の方でおばあちゃんに会ってたのかな」
「さあな……次行くが、ムウ大丈夫か? 今日はもう休むか?」
「いや大丈夫だよ。そのまま次に行こうか」
「了解」

 私はカバンの中を見て、次に配達する手紙を取った。

「お、これは」

 手に持っている手紙がキラキラ輝いている。

「光ってるんだけど、気のせいではないよね?」
「気のせいではないな」
「なんで光ってるの?」
「行けばわかるさ。その手紙をそこのくぼみに置いてくれ」

 ハンドルの左側の、本来オーディオが設置されている所に、何かを置くためのくぼみがあった。

「ここに置けばいいのね。はい、置いたよ」
「おっけー……よし、場所わかったから飛ばして行くぜ」

 ゲンはそう言うと、周囲の景色が見えなくなるほどのスピードで走り出し、そして停まった。

「着いたぜ。あれが2件目だ。それにしてもムウ、さっきの看取りの件と言い、新人なのに普通じゃない配達ばかりだな」
「だから速いって……てかこれも普通じゃないんだ……」

 私は光っている手紙を見る。そして外の夢の星を見た。

「星が2つあるんだけど……。どっちも光ってるし」
「ああ。とりあえず、どっちか片方に届けたらいい。そしたらもう片方の主にも同じ手紙が現れるはずだ」

 ゲンは右の星へ近づいて行く。

「そういえば、さっきの星の手紙って近い星の人からの物だったけど、手渡しってできないの? これもそうじゃないの?」
「いや、これは両者のどちらかが出した手紙ではない。それに夢の主同士で手渡しはできないぜ。ムウの夢では他人の夢に入ることできるのか?」
「いや憶えてないし、普通に考えてそれは無理なんじゃないかな」
「ま、そういうことだ。よし降りるぞ」

 夢の星への降下を始めた。
 こっちの星はさっきより重力に引っ張られている感じがしない。
 降りている途中、泡のような物が少しずつ視界に入ってきた。

「これ以上は降りられんな。てかここ、地面がないな」
「地面がない? あー、夢だからそんなこともあるのか」

 私はゲンから降り、そして地面のようなものを触った。
 地面の泡は白っぽくて下が透過して見えないね。
 空中のは透明だから泡の向こう側が見えるのね。

「泡が地面になってる……全部泡だし、泡の星って感じだな」
「そうだな……とりあえず主を探すぞ」
「うん」

 泡の中をひたすら進む。
 前が見えにくいので、ゲンにまたクルマになってもらい、ワイパーで泡をき分けながらゆっくり進んだ。

「おっと!」

 ゲンが突然止まった。

「どうしたの?」
「行き止まりだ。ここで地面が途切れてる」

 降りて、ゲンの前を確認した。
 たしかに、地面っぽい泡が途切れてて、ふわふわと浮いている泡しか見当たらない。

「違う方向に進もうか。この途切れた所をぐるって回ったらどう?」
「試してみるか」

 ゲンに再び乗り、途切れた所に沿ってゆっくりと進んだ。

「あ、あれ!」
「ん?? なんだあれ?」
「家っぽくない?」

 全部泡だからわかりづらいが、その泡で盛り上がった所が家のように見えた。

「行ってみるか」

 その家っぽい泡に近づく。

「……家だな」
「……うん。声、かけてみるね……こんにちはー」

 扉っぽい泡をノックした。
 近づいて気づいたが、泡なのに透明じゃないので中が見えなかった。
 地面の泡と似ている。

「はい……どなたですか……うわ! 天使様!? まだ死にたくない!」

 扉が開き、中から1人若い大人の人が出てきた。
 そして私を見て怯えている。
 まだ男女の変化は見られないので、子持ちではないようだ。

「天使……いえ、星間郵便局です。お手紙です」

 私はカバンの小さいポケットにしまっておいた、光っている手紙を渡した。

「ああ、良かった……どうも……」

 そう言い、宛名を確認した後すぐに開封し始めた。すると、


「あなた方の子が欲しいという願い、受諾されました。相方のお腹に子を授けた場合、貴方は男になります。その力と体力で、相方を生涯守りなさい。この決定を拒否した場合、逆となります。お互いが拒否をした場合、今回の願いは無かったことになります。承諾か拒否か」

 機械的な声が手紙から聞こえてきた。それを聞いていた主は

「承諾します。ありがとうございます」

 光る手紙をかかげながら、片膝を地面に付いた。すると、

「わ!!!」

 手紙が急に強く光り出し、辺りを包み込んだ。
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