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05 現人神の誕生
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局長室から出て用事を済ませてきた私達は、再び局長室に戻ってきた。
「紅茶淹れようか?」
「いえ、続きの話を終えてからにしましょう」
「うん、わかった」
夢羽は再びソファをぽんぽんと叩く。
私は対面のソファに腰掛けた。
---
街の混乱が収まるまでに、三日を要した。爆発の原因は、クロードの放った邪気が引き起こした現象だった。濃い邪気は物質をも侵食し、時には暴発することがある。この事態に、私は決断を迫られていた。
「本当にそれでよろしいのですか、ソラ様」
アキラの声には深い憂いが混じっていた。私は大河の流れを見つめながら、静かに頷いた。
「ええ。ツクモの言う通りよ。このまま神々が怠惰を貫けば、世界は崩壊する」
そう言って私は立ち上がった。今日も朝食を済ませ、体内にはエネルギーが満ちている。このタイミングを逃すわけにはいかない。
「新しい世界を作る時が来たのよ」
私は両手を広げ、創造の力を解き放った。まず、ツクモの言葉を思い出す。神々に天罰を下し、その力を再構築する。それは、世界の理を書き換えることに等しい。
光が広がり、風が渦を巻く。神々の住むビル群が、まるでガラスが溶けるように形を失っていく。そして、中にいた神々の姿が魂となって浮かび上がった。
「申し訳ありません。でも、これが必要なの」
私の声が響き渡る。神々の魂が光となって散っていく。それは美しくも、どこか切ない光景だった。
しかし、ツクモだけは違った。彼女は自ら魂となり、私の元へと寄り添ってきた。
「ソラ、私の魂は受け取ってほしい。きっと、役に立つ時が来る」
私は彼女の魂を受け取り、自身の中に取り込んだ。温かい光が、私の体内に広がっていく。
「さあ、アキラ。これから現の世界に、新たなシステムを構築するわ」
私は創造の力で、神々の力を細分化していった。それは、生まれてくる子供たちの中から、特別な力を持つ者が現れるようにするため。彼らは、現の世界に生きながら神の力を持つ。そう、現人神となるのだ。
その瞬間、世界が大きく揺れた。現の世界と夢の世界の境界が、一瞬だけ薄くなる。そして、新たな光が生まれ始めた。
それから1年が経過した。変化は徐々に、しかし確実に現れ始めていた。現の世界では、特別な力を持って生まれる子供たちが報告され始めた。彼らは成長とともに、その力に目覚めていく。
「ソラ様」
アキラが駆け込んでくる。その表情には、久しぶりに明るさが戻っていた。
「最初の現人神が、その力を使い始めたそうです」
「ええ、私も感じていたわ」
私は微笑んだ。現の世界に、新たな希望が芽生え始めている。
しかし、その希望は思いがけない形でも現れた。ある日、一人の少女が大河を渡ってきた。彼女の名は、シャーロット・ネフィリア。実は、まだ亡くなっていないようで、現の世界で寝たらここに来たという。
「ソラ様……私に、不思議な力が宿りました」
彼女は告げる。それは影を自在に操る力。「影操」と呼ばれる能力だった。
「この力は、とある神が持っていたものです。不思議なことに、その神の記憶も私に宿りました。そしてその神は……ソラ様のことを、ずっとお慕いしておりました。天罰を下されましたが、変わらずお慕いしております」
彼女の瞳には、純粋な尊敬の色が宿っていた。それは、現人神システムが予期せぬ形で、人々の心に希望を植え付けていた証でもあった。
しかし、全てが順調というわけではなかった。ある夜、アキラが重大な報告を持ってきた。
「クロードが、姿を消したそうです」
私は息を呑む。彼の存在を、すっかり忘れていた。
「消えたというのは……」
「はい。誰も彼の行方を知らないとのこと。ですが……」
アキラは言葉を選びながら続けた。
「現の世界で、奇妙な噂が広まっているそうです。『救世主が現れる』と」
私は窓の外を見た。夜空には、相変わらず夢の星々が輝いている。その中のどこかに、クロードは潜んでいるのかもしれない。
「アキラ、見回りを強化しましょう。現人神たちの様子も、もっと注意深く見守る必要がありそうね」
「承知いたしました」
アキラが立ち去った後、私は改めて夜空を見上げた。星々の輝きは、どこか不安げに揺らめいているように見えた。
新しいシステムは、確かに希望をもたらした。しかし、それは同時に新たな不安定要素も生み出してしまったのかもしれない。力を持つ者が増えれば、その使い方も多様化する。
私は深いため息をつきながら、デスクに向かった。現人神たちの情報を整理しなければならない。彼らの力が、正しい方向に使われることを願いながら。
そして、クロードの存在が私の心に重くのしかかっていた。彼は、この変化をどのように見ているのだろうか。そして、何を企んでいるのか。
答えは、まだ見えない。ただ、新たな時代の幕が開いたことだけは、確かだった。
---
「アイリスのご先祖様が出てきた!? てか、アイリスって霊神ソラのことよく知っている口ぶりだったけど、もしかしてこの時からの記憶も継承しているのかな?」
私は新しいティーカップを棚から取り出し、それを夢羽に見せた。
夢羽はそれを手を横に振り拒んだ。まだ飲まないということだろう。
「そうかもしれないね……。それにツクモ以外の神の記憶も継承されているから、そこからの記憶を持っているかもね。まあ、どの神の記憶なのかはわからないけどね」
夢羽は目の前の茶菓子を食べようと手に取ったが、それを口には入れず皿に戻した。
「食べないの?」
「もう少し話してからね。次はクロード側の話をするね」
私はお湯を沸かし、ソファに座った。
「紅茶淹れようか?」
「いえ、続きの話を終えてからにしましょう」
「うん、わかった」
夢羽は再びソファをぽんぽんと叩く。
私は対面のソファに腰掛けた。
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街の混乱が収まるまでに、三日を要した。爆発の原因は、クロードの放った邪気が引き起こした現象だった。濃い邪気は物質をも侵食し、時には暴発することがある。この事態に、私は決断を迫られていた。
「本当にそれでよろしいのですか、ソラ様」
アキラの声には深い憂いが混じっていた。私は大河の流れを見つめながら、静かに頷いた。
「ええ。ツクモの言う通りよ。このまま神々が怠惰を貫けば、世界は崩壊する」
そう言って私は立ち上がった。今日も朝食を済ませ、体内にはエネルギーが満ちている。このタイミングを逃すわけにはいかない。
「新しい世界を作る時が来たのよ」
私は両手を広げ、創造の力を解き放った。まず、ツクモの言葉を思い出す。神々に天罰を下し、その力を再構築する。それは、世界の理を書き換えることに等しい。
光が広がり、風が渦を巻く。神々の住むビル群が、まるでガラスが溶けるように形を失っていく。そして、中にいた神々の姿が魂となって浮かび上がった。
「申し訳ありません。でも、これが必要なの」
私の声が響き渡る。神々の魂が光となって散っていく。それは美しくも、どこか切ない光景だった。
しかし、ツクモだけは違った。彼女は自ら魂となり、私の元へと寄り添ってきた。
「ソラ、私の魂は受け取ってほしい。きっと、役に立つ時が来る」
私は彼女の魂を受け取り、自身の中に取り込んだ。温かい光が、私の体内に広がっていく。
「さあ、アキラ。これから現の世界に、新たなシステムを構築するわ」
私は創造の力で、神々の力を細分化していった。それは、生まれてくる子供たちの中から、特別な力を持つ者が現れるようにするため。彼らは、現の世界に生きながら神の力を持つ。そう、現人神となるのだ。
その瞬間、世界が大きく揺れた。現の世界と夢の世界の境界が、一瞬だけ薄くなる。そして、新たな光が生まれ始めた。
それから1年が経過した。変化は徐々に、しかし確実に現れ始めていた。現の世界では、特別な力を持って生まれる子供たちが報告され始めた。彼らは成長とともに、その力に目覚めていく。
「ソラ様」
アキラが駆け込んでくる。その表情には、久しぶりに明るさが戻っていた。
「最初の現人神が、その力を使い始めたそうです」
「ええ、私も感じていたわ」
私は微笑んだ。現の世界に、新たな希望が芽生え始めている。
しかし、その希望は思いがけない形でも現れた。ある日、一人の少女が大河を渡ってきた。彼女の名は、シャーロット・ネフィリア。実は、まだ亡くなっていないようで、現の世界で寝たらここに来たという。
「ソラ様……私に、不思議な力が宿りました」
彼女は告げる。それは影を自在に操る力。「影操」と呼ばれる能力だった。
「この力は、とある神が持っていたものです。不思議なことに、その神の記憶も私に宿りました。そしてその神は……ソラ様のことを、ずっとお慕いしておりました。天罰を下されましたが、変わらずお慕いしております」
彼女の瞳には、純粋な尊敬の色が宿っていた。それは、現人神システムが予期せぬ形で、人々の心に希望を植え付けていた証でもあった。
しかし、全てが順調というわけではなかった。ある夜、アキラが重大な報告を持ってきた。
「クロードが、姿を消したそうです」
私は息を呑む。彼の存在を、すっかり忘れていた。
「消えたというのは……」
「はい。誰も彼の行方を知らないとのこと。ですが……」
アキラは言葉を選びながら続けた。
「現の世界で、奇妙な噂が広まっているそうです。『救世主が現れる』と」
私は窓の外を見た。夜空には、相変わらず夢の星々が輝いている。その中のどこかに、クロードは潜んでいるのかもしれない。
「アキラ、見回りを強化しましょう。現人神たちの様子も、もっと注意深く見守る必要がありそうね」
「承知いたしました」
アキラが立ち去った後、私は改めて夜空を見上げた。星々の輝きは、どこか不安げに揺らめいているように見えた。
新しいシステムは、確かに希望をもたらした。しかし、それは同時に新たな不安定要素も生み出してしまったのかもしれない。力を持つ者が増えれば、その使い方も多様化する。
私は深いため息をつきながら、デスクに向かった。現人神たちの情報を整理しなければならない。彼らの力が、正しい方向に使われることを願いながら。
そして、クロードの存在が私の心に重くのしかかっていた。彼は、この変化をどのように見ているのだろうか。そして、何を企んでいるのか。
答えは、まだ見えない。ただ、新たな時代の幕が開いたことだけは、確かだった。
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「アイリスのご先祖様が出てきた!? てか、アイリスって霊神ソラのことよく知っている口ぶりだったけど、もしかしてこの時からの記憶も継承しているのかな?」
私は新しいティーカップを棚から取り出し、それを夢羽に見せた。
夢羽はそれを手を横に振り拒んだ。まだ飲まないということだろう。
「そうかもしれないね……。それにツクモ以外の神の記憶も継承されているから、そこからの記憶を持っているかもね。まあ、どの神の記憶なのかはわからないけどね」
夢羽は目の前の茶菓子を食べようと手に取ったが、それを口には入れず皿に戻した。
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