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01 プロローグ:静かな怒りの始まり
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「突付いたら色々出てきそうだけど、そろそろ世界創造の話聞かせて」
「わかったわ。長いから覚悟してね」
「う、うん」
淹れたお茶を渡し、私はソファに座った。
---
あの日の夕暮れ、街道には穏やかな風が流れていた。遠くの山並みは夕陽に照らされて朱に染まり、馬車の轍が刻んだ跡は、まるで大地に刃を立てたような傷跡のように見えたわ。
クロードは荷台の上で伸びをしながら、遠くに見える街の輪郭を確認していた。日没まであと三時間ってところね。宿に着くにはちょうど良い時間だったはず。
「ねえ、今夜は温かい風呂に入れそうね」
クロードの横には妻マリアがいたわ。結婚して七年目だったようね。手綱を握るマリアの声に、クロードは柔らかな微笑みを浮かべてたわ。
「ああ。今回の取引は上手くいったからな。少し贅沢しても良いだろう」
上質な織物に香辛料。荷台に積まれた品々は、次の街での利益を約束していた。懐の中の金貨の感触を確かめながら、クロードは深い満足感に浸っていたようね。全てマリアのおかげだって、そう思っていたんでしょうね。
マリアは裕福な商家の娘だった。でも、小さな行商人だったクロードを選んだの。両親の猛反対を押し切ったみたいよ。「あなたと一緒なら、どんな暮らしでも幸せ」って言って、小さな馬車に乗り込んだ。そこから二人の人生は、確かな歩みを進んでいたはずだった。
空が暗さを増し始め、冷たい風が吹き始めた時、クロードは荷物から毛布を取り出してマリアの肩に掛けたの。その瞬間よ。林の中から不穏な物音が聞こえた。鳥の羽ばたきとも、獣の足音とも取れない音。人為的な音。
彼らは黒装束の男たちだった。盗賊団よ。
「金を出せ!」
刃物が月明かりに不吉な光を放つ中、クロードはマリアを庇おうとした。でも、相手は五人。あまりにも分が悪かった。そう、あまりにも……。
「降りろ。大人しくすりゃあ命だけは助けてやる」
盗賊の頭が浮かべた笑みは、まるで獣のようだったわ。その目には既に殺意が宿っていた。クロードにもそれは分かっていたはず。
「マリア、機会があったら逃げろ」
囁くように言ったクロードの言葉に、マリアは小さく首を振った。当然よ。七年連れ添った妻が、夫を置いて逃げられるはずないもの。
最初の攻撃を払いのけた時、背後からマリアの悲鳴が響いた。その隙を突かれて、クロードは腹部を刺されたの。
温かい血が広がっていく中、クロードは必死にマリアに手を伸ばそうとした。でも、もう届かない。盗賊たちの下品な笑い声とマリアの悲鳴が響き渡っていたわ。
「お前の無力さを味わえ」
首筋に感じた盗賊頭の吐息と共に、その言葉が流れ込む。
「世界を呪え。お前の憎しみこそが、全てを変える力になるのだ」
その瞬間、青い光が現れた。マリアの悲鳴は遠ざかり、クロードの意識が沈んでいく。その光は、クロードの魂を別の世界へと導いていったの。
でも、今だからこそ私は知っているわ。その光の中で育まれていたのは、歪な憎悪の種だったってことを。それは後に、三つの世界の均衡を揺るがすことになる。誰も、その結末を予測できなかった。
---
「この話、本当に長くなりそうね。お茶、もう一杯淹れてもらえるかしら?」
そう言い、夢羽は私に空のティーカップを渡してきた。
「わかったわ。長いから覚悟してね」
「う、うん」
淹れたお茶を渡し、私はソファに座った。
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あの日の夕暮れ、街道には穏やかな風が流れていた。遠くの山並みは夕陽に照らされて朱に染まり、馬車の轍が刻んだ跡は、まるで大地に刃を立てたような傷跡のように見えたわ。
クロードは荷台の上で伸びをしながら、遠くに見える街の輪郭を確認していた。日没まであと三時間ってところね。宿に着くにはちょうど良い時間だったはず。
「ねえ、今夜は温かい風呂に入れそうね」
クロードの横には妻マリアがいたわ。結婚して七年目だったようね。手綱を握るマリアの声に、クロードは柔らかな微笑みを浮かべてたわ。
「ああ。今回の取引は上手くいったからな。少し贅沢しても良いだろう」
上質な織物に香辛料。荷台に積まれた品々は、次の街での利益を約束していた。懐の中の金貨の感触を確かめながら、クロードは深い満足感に浸っていたようね。全てマリアのおかげだって、そう思っていたんでしょうね。
マリアは裕福な商家の娘だった。でも、小さな行商人だったクロードを選んだの。両親の猛反対を押し切ったみたいよ。「あなたと一緒なら、どんな暮らしでも幸せ」って言って、小さな馬車に乗り込んだ。そこから二人の人生は、確かな歩みを進んでいたはずだった。
空が暗さを増し始め、冷たい風が吹き始めた時、クロードは荷物から毛布を取り出してマリアの肩に掛けたの。その瞬間よ。林の中から不穏な物音が聞こえた。鳥の羽ばたきとも、獣の足音とも取れない音。人為的な音。
彼らは黒装束の男たちだった。盗賊団よ。
「金を出せ!」
刃物が月明かりに不吉な光を放つ中、クロードはマリアを庇おうとした。でも、相手は五人。あまりにも分が悪かった。そう、あまりにも……。
「降りろ。大人しくすりゃあ命だけは助けてやる」
盗賊の頭が浮かべた笑みは、まるで獣のようだったわ。その目には既に殺意が宿っていた。クロードにもそれは分かっていたはず。
「マリア、機会があったら逃げろ」
囁くように言ったクロードの言葉に、マリアは小さく首を振った。当然よ。七年連れ添った妻が、夫を置いて逃げられるはずないもの。
最初の攻撃を払いのけた時、背後からマリアの悲鳴が響いた。その隙を突かれて、クロードは腹部を刺されたの。
温かい血が広がっていく中、クロードは必死にマリアに手を伸ばそうとした。でも、もう届かない。盗賊たちの下品な笑い声とマリアの悲鳴が響き渡っていたわ。
「お前の無力さを味わえ」
首筋に感じた盗賊頭の吐息と共に、その言葉が流れ込む。
「世界を呪え。お前の憎しみこそが、全てを変える力になるのだ」
その瞬間、青い光が現れた。マリアの悲鳴は遠ざかり、クロードの意識が沈んでいく。その光は、クロードの魂を別の世界へと導いていったの。
でも、今だからこそ私は知っているわ。その光の中で育まれていたのは、歪な憎悪の種だったってことを。それは後に、三つの世界の均衡を揺るがすことになる。誰も、その結末を予測できなかった。
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「この話、本当に長くなりそうね。お茶、もう一杯淹れてもらえるかしら?」
そう言い、夢羽は私に空のティーカップを渡してきた。
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