上 下
51 / 61
第3章 裏世界

14

しおりを挟む
美玲みれいちゃん、降ろして。ぼく、抱っこより頭の上がいい」

 ぼくの訴えが聞こえないのか、美玲みれいちゃんはだまって走り続けた。

美玲みれいちゃん、頭の上の方が、もえちゃんを捜しやすいよ!」

「無理! もう頭に乗せられない!」

 なおも訴えかけるぼくに、美玲みれいちゃんは怒鳴るようにこたえた。
 そして、まっすぐ前を見つめて走りながら、困惑した表情で続ける。

「だってあんた、もう猫じゃない。人間の、男の子だもの……」

 ぼくは驚いて、美玲みれいちゃんの胸に抱かれながら自分の両手を見つめた。
 そこに毛だらけの丸っこい手はなく、三歳か四歳くらいの人間の、小さな手のひらがあった。

「なんで! どうして!」

 混乱するぼくに、美玲みれいちゃんも混乱した様子でこたえる。

「ごめん、わからない! けど、いまはもえをさがすのが一番なの!」

 なぜか人間になってしまったぼくは、美玲みれいちゃんの腕から飛び降りて一緒に走った。
 けんめいに走りながらも、ときおり手のひらを見つめる。
 初めてのはずの人間の体が、なぜか少し、懐かしい感じがするのだ。




 闇に沈んだゴーストタウンのような街を、ぼくらはひたすらに走った。
 大通りと言えど行き交う車の姿はなく、弱々しくともる街灯と、無意味に変わり続ける信号機の灯りが、どこまでもぽつぽつと続いている。
 マンションや住宅、ビルの窓から漏れる明かりは、ひとつもない。
 ぼくらは、美玲みれいちゃんともえちゃんが一緒に遊びに行ったことがある、公園や駅前のお店などを見てまわった。

美玲みれいちゃん、見てあそこ! 人がいる!」

 それは、駅前にあるゲームセンターを捜索しているときだった。いくつも並んだ写真シール機のひとつで、カーテンの下のすきまからのぞく、人の足を発見したのだ。

 美玲みれいちゃんが、写真シール機に飛び込んで叫ぶ。

もえ!」

 よろこび勇んで開けたカーテンの中にいたのは、全身が真っ黒な大人の女性。
 晴れた日の地面に映るような、くっきりとした女性の影が、驚いた様子でぼくらを見つめていた。

「すみません! わたしぐらいの女の子見ませんでした? 最近、こちらの世界に迷い込んでしまったんです!」

 美玲みれいちゃんは怖ろしがるよりも先に、女性の影に話しかけていた。
 しかし女性の影は、不思議そうにぼくらの方を見やるだけで、また操作パネルに視線をもどしてしまった。

「こっちは必死になって聞いているんだ! なにかこたえてよっ!」

 ぼくは女性の影が見つめている操作パネルに、文字を書いてやった。
 正面にある写真シール機の画面に、「こっちを見ろ!」という文字が浮かび上がる。

 すると、女性の影は震え上がって、カーテンの外に逃げ出してしまった。
 そのあとを美玲みれいちゃんと追いかけるも、やがて女性の後ろ姿は、霞のように消えてしまった。

 と、そのとき、頭の中にシショウの声が響く。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

初恋の王子様

中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。 それは、優しくて王子様のような 学校一の人気者、渡優馬くん。 優馬くんは、あたしの初恋の王子様。 そんなとき、あたしの前に現れたのは、 いつもとは雰囲気の違う 無愛想で強引な……優馬くん!? その正体とは、 優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、 燈馬くん。 あたしは優馬くんのことが好きなのに、 なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。 ――あたしの小指に結ばれた赤い糸。 それをたどった先にいる運命の人は、 優馬くん?…それとも燈馬くん? 既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。 ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。 第2回きずな児童書大賞にて、 奨励賞を受賞しました♡!!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...