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第2章 ライオン☆ハート
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しおりを挟む「ぎゃあああああっ!」
さっきのかわいい悲鳴とは、まったくちがう悲鳴をあげて、萌ちゃんがのけぞる。
「髪の毛だ。長い髪の毛がカメラに覆い被さってきたんだ……」
優斗くんも気味悪そうに口をおさえて、画面から目を背けた。
美玲ちゃんは眉間にしわを寄せながらも、画面から目を離さない。
画面はなおも黒いままだが、しだいに、ずるずると髪の毛が滑り落ちたのか、そのすき間から白い肌がのぞく。
それが血だらけの女性の顔だとわかったとたん、ばっちりと見開いた血走った目が、画面いっぱいに映し出された。動画はそこで終了している。
「さすが黒崎はん。この動画を最後まで見れるなんて、やはりワイの見込んだ通りのお人やで」
頭を抱えてうずくまる萌ちゃんと、画面から目を背けている優斗くんをよそに、チャーシューは手を叩いて美玲ちゃんを賞賛した。
「だってこの動画、なんか嘘くさいもの。観ている人を脅かそうって感じがミエミエで、ちょっとやりすぎ!」
美玲ちゃんが鼻で笑ってこたえる。
「さすが黒崎はん、これは専門家のあいだでも意見が分かれとる動画や。撮影現場がイギリスのはずなのに、出てくる女性の幽霊が、妙に東洋人的な雰囲気なのも、ツッコミポイントやね」
「では次……」と、続いて再生された動画も、どこかの廃病院が撮影されていた。
月明かりが差し込む長い廊下には、割れた窓ガラスや、はがれ落ちた壁や天井らしき瓦礫が散乱している。
「さっきの動画と見比べてほしい。黒崎はんには、この動画、どう見えるか……」
今度はカメラを手に持って撮影しているらしい。映像は不規則に揺れながら移動しているし、撮影者の息づかいまで、かすかに収録されている。
「女の人っぽいね。ひとりなのかしら」
美玲ちゃんが耳を澄ませながら言った。
「信じられない。こんなところへ、ひとりで行くなんて、すごい勇気ね」
怖いもの見たさなのか、すっかり怖じ気づいていた萌ちゃんも、ちらちらと画面をのぞき見ている。
すでに動画は、月明かりが差し込む廊下をすぎて、暗闇に包まれた階段の映像に変わっている。階段をゆっくりと上がるたびに、足もとに散らばったガラスの破片のキシキシときしむ音が、辺りに響いている。
「何も起きないね」
ぼくが美玲ちゃんの頭の上から、こっそり話しかけると、
「そうね」
美玲ちゃんも今度の動画には夢中なのか、みんながいるにもかかわらず、ぼくの問いかけに声を出して返事をした。
動画はさらに続き、診察室らしき部屋に入っていった。カメラのライトに反射して、埃だらけのハサミやピンセットなどの医療器具が、にぶく銀色の光を放っている。
すると画面に、雪が降ったような、こまかい光が舞い始めた。
「なにこれ、すごい数の光。きれいね~」
何も起こらない動画に、もはや心霊映像を観ていることさえ忘れたのか、萌ちゃんが目をきらきらと輝かせながら言った。
「ボクらのあいだではオーブと呼ばれている。霊が現れる場所でおきる現象さ」
チャーシューが得意気にこたえる。
どうも、萌ちゃんに対する、チャーシューの態度が怪しい。
ときどき関西弁が消えるのも、萌ちゃんを意識しているんじゃないかな?
「埃が舞って、カメラのライトに反射しているだけでしょ。廃病院なんだし、不思議でもないじゃない」
しかし美玲ちゃんは、そんなチャーシューの態度の変化など、まるで気付いてないらしく、画面にかじりつくようにして動画を観ていた。
「どうや、黒崎はん。さっきの嘘くさい動画と比べて」
「どうもなにも、いまのところは何も起こって……」
しかしそのとき、映像が大きく乱れた。
女性のひとり言が、かすかに聞こえる。
「なんて言ってるの? 聞こえない、音量上げて!」
美玲ちゃんが叫んだとたん、部屋の空気がピンと張りつめた。
ぼくもすかざす、耳を澄ます。
ウソ……、そんなはずない。ヤダヤダヤダ……。
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