上 下
69 / 86
第12章 因果応報

03

しおりを挟む


 見上げれば午前中までの雨が嘘だったように、すみれ色の空が広がっている。メグルとモグラは、病院からのびる下り坂をぽつぽつと歩いていた。

 道をはさむ木々から響くヒグラシの声を聞きながら、メグルが口を開いた。

 「清美の最後の試練が、小学生時代のいじめを悔い改めることだったとはね……。
 学校裏サイトは越界者えっかいしゃの桜子先生が作ったものだ。清美に対する大人たちのいじめも、あのサイトが原因だった。しかしすべては、清美自身が犯した過去の罪を思い起こさせる為の、試練の一部だったかも知れないなんて……」

 コツコツとステッキで地面を突きながら、モグラがこたえる。

 「試練ってのは奥が深けぇ。いろんな因縁いんねんが絡みあっている。そのせいで、息子のトモルもいじめにあったわけだしな」

 「親の因果いんがが子にむくうか……。わからないのは教頭の試練星さ。なんで謝罪された方の試練星が光るんだ?」

 メグルが首をかしげる。
 モグラは指でぴんっとヒゲを弾きながら、空を見上げた。

 「教頭も、忘れることができねぇ過去の恨みから解放されたんだ。恨みを忘れるのも、試練なのさ……」

 メグルも黙って空を見上げる。
 暮れ始めた大陽が、所々に浮かんだ雲を金色に染めている。

 ふたりはしばらく今回の事件のことを思い返しながら、どこへ向かうでもない道を歩いていた。


 「学校はどうなっているんだろう……」

 ふと思い出したように、メグルがつぶやく。

 「なぜか旧校舎の水槽を掃除する風変わりな生徒が、あやまって窓から転落。予定されていた『月見祭り』は中止……。見ての通り当の本人がピンピンしてるんだ。たいした騒ぎにゃならんだろうが、中止は変わらねぇだろうなぁ……」

 「そっか……。ところでモグラ。今日が何の日か知ってるか?」

 「越界門えっかいもんが開く日だろ? おいおい、ごめんだぜ。こんだけ暴れ回れば、おいらたちの正体は魔鬼にバレバレだ。越界門えっかいもんどころか、学校に近づいただけで返り討ちにされるぜ」

 モグラが自分の肩を抱いて、ぶるぶると震えた。

 「そうだな。教頭ばかり疑っていたから、他に魔鬼の手がかりなんて、何もつかめていないしな……」

 メグルが大きな溜め息をつく。

 「あ~ぁ。何でもいいから、こいつが魔鬼だっていう証拠とかないの? じつはお尻に尻尾が生えているとか、近づくと、ちょっと生臭いとかさぁ……」

 メグルの言葉に、モグラがふんっと鼻を鳴らした。

 「あるかよ、そんなもん! やつらはそんなにバカじゃねぇ。まあいて言えば、たまに鏡に映らないときがあるって噂だけどな」

 モグラを真似まねて、メグルもふんっと鼻を鳴らした。

 「あるかよ、そんなこと! だいたい魔鬼は人間の体に乗り移っているんだろ? 鏡に映らない訳ないじゃないか」

 モグラがシルクハットのなかの頭を、ぼりぼりと引っ掻きながら反論する。

 「細かい理由はおいらにだってわかんねえよ? だけど人間の体だって、たまに手や足が写真に写らねぇときがあるじゃねぇか……」

 するとメグルは、とつぜん難しい顔をして、くるくると前髪を指に絡ませ始めた。

 その姿に一瞥いちべつをくれて、モグラは指についたフケを生臭い息でフッと吹き飛ばし、空を見上げた。

 「まあ、そう難しく考えるなメグルよ。いまのはただの噂なのだ。魔鬼はいつも自分の奪った体を意図的に鏡に映しているが、ふと気を抜いたときなんかは、鏡に姿が映っていないという、チマタのウワサ……」

 そう言いながらふり返ったとき、すでにメグルの姿はどこにも無かった。


 「おーい、メグル……くん?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...