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第12章 因果応報

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 「無事……なのかね……?」

 驚いた顔でメグルを見つめていたのは、教頭だった。
 モグラは即座そくざにベッドの下に滑り込み、メグルはカバンを探してあたふたした。

 (間に合わない! 今度こそ万事休すか……!)

 一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる教頭を睨みながら、メグルが覚悟を決めたとき、突如清美が、ふたりのあいだに割って入った。

 驚き見つめるふたりの前で、清美はいきなり教頭に向かって頭を下げた。

 「ごめんなさい! 小学生のとき、神崎くんがとても苦しんでいるのを知りながら、原因がわたしにあるのを知りながら、わたしはみんなのいじめを止めませんでした!
 わたしもつらい目にあって……自分の子まで同じような目にあわせて……。
 だからいまは、あのときの神崎くんの心の痛みがとてもよくわかります。わたしのこと、殺したいほど憎かったでしょう……。死にたいほどにつらかったでしょう……。本当にごめんなさいっ!」

 突然の出来事に、その場にいた全員が驚きの顔を見合わせた。
 なかでも一番驚いたのは『星見鏡ほしみきょう』をかけたメグルだった。

 清美が残す最後の試練星が、まばゆい光を発していたのだ。


 「まさか! あの試練星は……」

 光り輝く試練星に目を奪われつつ、メグルは乱暴に前髪を指に絡ませた。

 (清美の最後の試練星は、彼女が過去に犯した罪が原因で生まれたもの……?
 つまり清美とトモルが受けたいじめは因果応報いんがおうほう……。いままでの出来事は、すべて試練だったというのかっ?!)

 驚愕するメグルにさらに追い打ちがかかる。
 なんと魔鬼であるはずの教頭が、深々と頭を下げる清美の肩に手をかけたのだ。

 「やめてくれ。わたしは、きみの息子がいじめられていると知ったとき、きみの息子なら当然のむくいだと何も対処しなかった。わたしは昔のきみと同じあやまちを犯してしまった……。
 謝るのはわたしの方だ。わたしこそトモルくんの気持ちを、一番わかってやれるはずだったのに……」

 清美に向かって頭を下げた、そのとき。

 「ひ、光った! 教頭の試練星が、いま、光ったぁ!」

 思わずメグルは叫んでしまった。
 教頭の頭上に浮かぶ試練星のひとつが、徐々に光を発し始めていたのだ。

 「なんだとう?!」

 頓狂とんきょうな声を上げつつ、ベッドの下からモグラも顔を出す。

 「魔鬼の試練星が変化するわけねぇ! 教頭は魔鬼じゃなかったんだ!」

 ふたりは驚きの表情で清美と教頭を見つめた。しかし、それ以上に驚きの表情でメグルを見ていたのが看護師たちだった。

 無理もない。

 体中の骨を十数本骨折して、内臓はほとんど破裂。脳みそが耳から少し漏れ出しているほどの重体だったメグルが、まるで何事もなかったようにピンピンしているのだから――。


 看護師たちが集中治療室を飛び出し、医師を呼びに走る。

 「この隙に病院から抜け出したほうがいいぜ。お前さんが人間じゃねぇことがバレちまう」

 モグラはメグルに耳打ちすると、我先にと、するりとドアから逃げ出した。

 メグルも部屋のすみに置かれたかごからカバンとマントを引き抜くと、ベッドに潜り込む。

 次の瞬間、ベッドのふくらみは、ぽすんとへこんだ。


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