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第10章 それぞれの邂逅

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 「あの……本当にトモルだったんですか」

 「そうよ。名前を聞いてはっきり思い出したわ。トモルくんに間違いない。いまはぶっそうでしょ。よく利く薬も、何に使われるかわかったもんじゃないから……」

 メグルはいまにも泣き出したいほどの気持ちを抑えて、ドラッグストアを飛び出した。

 考えたくもなかった嫌な予感が、少しずつ形を成して忍び寄る。

 繰り返し浮かび上がる悲惨な光景を懸命に頭から振り払いながら、ただ闇雲にショッピングモールを走り回っていたとき、カバンの中でびりびりと携帯電話が震えだした。
 見れば画面に公衆電話と表示されている。

 「メグルか? おいらだ。トモルは見つかったか?」

 電話はモグラからだった。

 「まだ見つからないけど、情報をつかんだんだ……。どうしよう、トモルはある薬を大量に買い込んでいる……」


 モグラは言葉を失った。

 的中しそうな悪い予感と同時に、いつも尊大そんだいな態度で話すメグルの、あまりにも弱々しい声音こわいろに驚いたのだ。

 「しっかりしろ、メグル! おいらが街じゅうの薬局を聞き込みして回るから、あとはおいらにまかせて、お前さんは学校に戻れ!」

 「学校に? でも学校には清美が……」

 「そのトモルの母ちゃんのケータイに何度電話しても繋がらねぇから言ってんだ! 何かあったのかもしれねぇぞ」

 「……わかった。すぐに向かうよ」

 メグルは携帯電話をカバンに押し込むと、ショッピングモールを駆け抜け、再び大雨のなかを学校に向かって走り出した。



        *



 メグルが校門を走り抜けたとき、校庭には三時限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。

 昇降口で靴を脱ぎ捨て、教室から飛び出してくる生徒をかいくぐり廊下を走る。

 校務員室にかけ込み、ぐるりと部屋を見まわしたが、清美の姿はどこにもなかった。


 「メグルくん!」

 突然、背中にかけられた声にふり返ると、校務員室の引き戸を開けたサヤカが立っていた。

 「朝からメグルくんがいないから心配で見に来たの……。どうしたの? ずぶ濡れじゃない」

 サヤカは部屋に掛けられていたタオルで、雨水がしたたるメグルの髪をいてくれた。

 「サヤカ、きょう学校でトモル見た?」

 「そういえば、さっき保健室の前を通ったけど、トモくんいなかったな。どうかしたの?」

 メグルは昨夜からトモルが行方不明になっていること、みんなで手分けして捜していることを説明した。

 「それで桜子先生も朝からいないのね……」

 「トモルのお母さんを見かけなかった? 先生と校舎内を捜していたはずなんだけど、朝から連絡がとれなくなったんだ」

 「トモくんのお母さん? それらしい人は見なかったなぁ……。でも、先生と一緒だったのなら、いまは職員室にでもいるんじゃない? 行ってみましょうよ」

 そう言ってサヤカが立ち上がろうとしたとき、


 「……その必要はない」



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