輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

第１０章 それぞれの邂逅

03

　夜明けに降り出した雨が、地面を叩きつけるような大雨に変わる頃、メグルはトモルの家の近くの駅前にいた。

　傘をさしたサラリーマンたちが、次々と駅に吸い込まれていく。

　メグルはその波を逆流しながら、駅前のショッピングモールの中にある、まんが喫茶に飛び込んだ。

 （この店なら二十四時間営業で泊ることもできるし、インターネットもできる。通信手段を持たないトモルは、昨夜ここから学校裏サイトに書き込みをしたに違いない……）

　そう推察したメグルは、店に飛び込むなりテーブルに突っ伏して寝ている客を次々と叩き起こしては顔を確認し、個室の中をのぞき込んでは呼びかけた。


 「トモルどこだ、早まるなよ！」

　いきなり飛び込んできたずぶ濡れの少年に、始めは呆気にとられていた店員も、叩き起こされた客と一緒にメグルを追いかけ捕まえる。


 「昨夜から息子を……。いえ、友だちを捜しているんです！　六年生くらいの男の子に、心当たりありませんか？」

　店の外に叩き出されたメグルが、尻餅をつきながらも叫ぶが、

 「ウチの店は保護者同伴じゃなきゃ子どもは入れないんだよ。ましてや子どもだけで宿泊できるわけないだろ！」

　店員はあきれ顔で店の中へと消えた。


　騒ぎに集まった他の客たちも、メグルを白い目で見下ろすと、次々と店内へ消えていく。

　その中でただひとり、メグルを見つめたまま店に戻らない少女がいた。

　少女はメグルに手を差し出し、引き起こしながら訊たずねた。

 「あんた、どっかで会ったっけ？」　

　メグルは少女の顔をまじまじと見つめ、ぽんっと手を叩いた。

 「会ってません」

　しかし、メグルは気が付いていた。

 （彼女は真夜中の雑居ビルの屋上で『修羅しゅら界』からきた越界者えっかいしゃに誘拐されていた少女だ。『忘却蝋燭ぼうきゃくろうそく』で記憶を消したから、ぼくのことは忘れているはず……）


 「では、失敬」

　下手に少女の記憶を刺激して、管理人の存在を思い出されては厄介。

　そう考えたメグルは、片手をあげて挨拶すると、そそくさとその場から去ろうとした。

　その手を、少女がむんずと掴つかむ。


 「待って。その友だちって男の子でしょ？　もしかしたら、わたし知ってるかも」