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第6章 旧校舎の大鏡

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 いつのまにかふたりは校務員室の前を歩いていた。
 細く開いた引き戸から中をのぞくと、モグラと桜子先生が座卓をはさんで向かい合い、仲良くお茶を飲んでいる。

 「なんだねメグル。いま大人の話をしているのだから、あっちへ行きたまえ」

 相変わらずモグラは、桜子先生の前では垂れた目尻を器用に吊り上げ格好をつけていた。

 「ごめんねメグルくん。お父さん、借りてるわねぇ」

 桜子先生も相変わらずとろんととろけた口調で話す。
 途端とたんにモグラの顔が、だらりととろけるのを見て、思わずサヤカが吹き出した。

 「メグルくんのお父さんって、桜子先生のことが大好きなんだね!」

 必死に笑いをこらえながら、そうささやくと、

 「邪魔したらかわいそうよ」
 と、メグルの腕を引っぱっり、その場をあとにした。




 おもむろにサヤカが、左腕にはめた赤いベルトの腕時計を見た。手首の内側にある文字盤を見つめるサヤカの仕草は妙に大人びていて、とても小学生とは思えない。

 ぼんやりと見とれていたメグルに気が付いたサヤカは、

 「ああこれ、桜子先生に特別な許可をもらっているの。本当は腕時計とかしてきちゃだめなんだよ」
 と、左手を自分の腰にまわして隠した。


 「もう昼休みも終わりね。そろそろ教室に戻りましょう」

 サヤカがメグルの手を引いたが、メグルは旧校舎も見たいと戻るのを拒んだ。

 「旧校舎なんて、いまはほとんど使われてないのよ。誰もいないし、何もないわ」

 「誰もいない校舎なんて面白そうだよ。探検してみよう!」

 メグルは、悪戯いたずらたくらむ子どものような笑みを向け、サヤカを引き留めようとした。

 (教頭に管理人かどうか疑われているぼくが、ひとりで大鏡を見に行ったことが知れたら、さらに疑いは深まるだろう。友だちとふたり、探検がてらに見に行った方が子どもらしくて自然だ。サヤカには申し訳ないけど、カムフラージュのために付き合ってもらおう……)

 サヤカはしばらくどうするか迷っていたが、やがてメグルと同じ笑みを返して言った。


 「メグルくんって結構、悪い子なのね!」



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