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第3章 奇異な転校生

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「そうだ! 忘れてたぜ。あぶねぇ、あぶねぇ……」

 モグラはポケットからビー玉をいくつか取り出し、メグルに手渡した。

 「なんだこれ、例のGPS発信器じゃないか」

 「あとで説明するって言ったろ。GPSは越界者えっかいしゃの情報を管理人に渡すために、こっそり付け足した機能。本来、これは『擬星玉ぎぼしだま』と言って、おいらたち越界者えっかいしゃが管理人に正体がバレないようにするための、偽の『星』だよ」

 モグラが自分の頭めがけて『擬星玉ぎぼしだま』を放り投げる。すると『擬星玉ぎぼしだま』は、モグラの頭上で煙のようにすうっと消えた。

 「おい、『星見鏡ほしみきょう』で見てみな」

 モグラに言われた通り、メグルはカバンから分厚いレンズの黒ぶち眼鏡『星見鏡ほしみきょう』を取り出して掛けると、モグラの頭上を見た。そこには本物と見まごうばかりの『試練星』が一個浮かんでいた。

 「魔鬼は眼鏡なしで『星』が見えるからな。この『擬星玉ぎぼしだま』を使わないと、『星』のない管理人や越界者えっかいしゃは一発で正体がバレちまう」

 メグルは『擬星玉ぎぼしだま』に小さなスイッチが付いているのを見つけた。スイッチを押すと、『星』は光を発して『成就星』になった。

 「ぼくは人間界を一度でパスした超エリートだからね。この年齢だと、こんな感じかな」

 メグルが自分の頭上に次々と『擬星玉ぎぼしだま』を放り投げる。
 モグラが『星見鏡ほしみきょう』を取り上げてメグルの頭上を見ると、そこには『試練星』三個、『成就星』九個が浮いていた。

 「初めての人間界。そしてなんとこの年齢で、すでに残る試練は三個っていう、ぼくらしいエリート設定さ」

 「バカ。目立ってどうすんだよ。もっと普通にしな」

 モグラがメグルの頭上の『星』を回収する。
 結局『試練星』二個、『成就星』一個で落ち着いた。

 「人間界を四、五回転生して、来世こそは『天界』に行けるかなぁ……っていう設定だ。どうよ、リアルだろ?」

 「こんな凡人のような『星』じゃ、みっともなくて歩けやしない!」

 メグルはぶつぶつと文句を言いながら、仕返しにモグラの頭に『試練星』を二個、こっそり追加しておいた。



 すっかり準備が整ってしまったふたりは、ようやく重たい一歩を踏み出した。
 恐怖と不安が入り交じった歩みは次第に速度が増していき、まるで競歩のような足取りで校庭を突き進む。

 真新しい昇降口から新校舎の中へと滑り込み、そのままの勢いで職員室に飛び込んできたふたりを見て、教員たちは怒鳴り込んできたモンスターペアレントかと戦々恐々せんせんきょうきょうとしたものだが、モグラが引きつった愛想笑いを浮かべながら用件を切り出すと、一転、鼻であしらうような態度で、部屋のすみに置かれたパイプ椅子を指差した。

 待たされているあいだ、モグラは自分を奇異きいな目つきで見ている教員たちを 「全員、目つきが怪しいぜ」と疑った。しかしメグルは、それはモグラの奇異きいな格好のせいだと確信。気にはしなかった。

 しばらくして応接室に案内されたふたりは、ドアをくぐったとたん凍りつく。
 そこには、しわひとつないダークグレーのスーツを着た、細身で背の高い男が立っていた。
 
 教頭にしては若く、ストレートの長い髪をオールバックにして後ろでわいていたが、だらしない印象はまったくない。ぎろりと鋭い刺すような視線からは、一切の不正も見逃さぬといった厳しい性格をうかがわせ、同時に、人間離れした異様な雰囲気もかもし出していた。


 ふたりは目で合図した。

 (魔鬼はこいつだ! 間違いない!)


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