21 / 86
第3章 奇異な転校生
02
しおりを挟む「そうだ! 忘れてたぜ。あぶねぇ、あぶねぇ……」
モグラはポケットからビー玉をいくつか取り出し、メグルに手渡した。
「なんだこれ、例のGPS発信器じゃないか」
「あとで説明するって言ったろ。GPSは越界者の情報を管理人に渡すために、こっそり付け足した機能。本来、これは『擬星玉』と言って、おいらたち越界者が管理人に正体がバレないようにするための、偽の『星』だよ」
モグラが自分の頭めがけて『擬星玉』を放り投げる。すると『擬星玉』は、モグラの頭上で煙のようにすうっと消えた。
「おい、『星見鏡』で見てみな」
モグラに言われた通り、メグルはカバンから分厚いレンズの黒ぶち眼鏡『星見鏡』を取り出して掛けると、モグラの頭上を見た。そこには本物と見まごうばかりの『試練星』が一個浮かんでいた。
「魔鬼は眼鏡なしで『星』が見えるからな。この『擬星玉』を使わないと、『星』のない管理人や越界者は一発で正体がバレちまう」
メグルは『擬星玉』に小さなスイッチが付いているのを見つけた。スイッチを押すと、『星』は光を発して『成就星』になった。
「ぼくは人間界を一度でパスした超エリートだからね。この年齢だと、こんな感じかな」
メグルが自分の頭上に次々と『擬星玉』を放り投げる。
モグラが『星見鏡』を取り上げてメグルの頭上を見ると、そこには『試練星』三個、『成就星』九個が浮いていた。
「初めての人間界。そしてなんとこの年齢で、すでに残る試練は三個っていう、ぼくらしいエリート設定さ」
「バカ。目立ってどうすんだよ。もっと普通にしな」
モグラがメグルの頭上の『星』を回収する。
結局『試練星』二個、『成就星』一個で落ち着いた。
「人間界を四、五回転生して、来世こそは『天界』に行けるかなぁ……っていう設定だ。どうよ、リアルだろ?」
「こんな凡人のような『星』じゃ、みっともなくて歩けやしない!」
メグルはぶつぶつと文句を言いながら、仕返しにモグラの頭に『試練星』を二個、こっそり追加しておいた。
すっかり準備が整ってしまったふたりは、ようやく重たい一歩を踏み出した。
恐怖と不安が入り交じった歩みは次第に速度が増していき、まるで競歩のような足取りで校庭を突き進む。
真新しい昇降口から新校舎の中へと滑り込み、そのままの勢いで職員室に飛び込んできたふたりを見て、教員たちは怒鳴り込んできたモンスターペアレントかと戦々恐々としたものだが、モグラが引きつった愛想笑いを浮かべながら用件を切り出すと、一転、鼻であしらうような態度で、部屋のすみに置かれたパイプ椅子を指差した。
待たされているあいだ、モグラは自分を奇異な目つきで見ている教員たちを 「全員、目つきが怪しいぜ」と疑った。しかしメグルは、それはモグラの奇異な格好のせいだと確信。気にはしなかった。
しばらくして応接室に案内されたふたりは、ドアをくぐったとたん凍りつく。
そこには、皺ひとつないダークグレーのスーツを着た、細身で背の高い男が立っていた。
教頭にしては若く、ストレートの長い髪をオールバックにして後ろで結わいていたが、だらしない印象はまったくない。ぎろりと鋭い刺すような視線からは、一切の不正も見逃さぬといった厳しい性格を窺わせ、同時に、人間離れした異様な雰囲気も醸し出していた。
ふたりは目で合図した。
(魔鬼はこいつだ! 間違いない!)
2
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる