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第3章 奇異な転校生
01
しおりを挟む都立成道小学校。
東京の外れ、下町のなかにあるこの学校は、創立一三〇年を迎える古い歴史のある学校だ。もちろん当時の面影を残す建物などはすでになく、見る限りどこにでもある普通の小学校である。最近、耐震性能の優れた新校舎も建てられた。
変わっているとすれば、いまはまったく使われていない六階建ての大きな旧校舎が、いまだに残されていることだ。五〇年前のベビーブームに建てられたこの旧校舎は、すでに取り壊される予定になっているが、いっこうに工事は始まらない。そのため、新校舎と体育館、そして旧校舎にかこまれた校庭はとても狭かった。しかし、生徒の保護者のほとんどが、この旧校舎を学び舎としていたので、愛着があるのか苦情はない。
そんな都立成道小学校の校門の前に、ふたりは立っていた。
「ついに来たな」メグルの言葉に、
「ああ、来た」モグラがこたえた。
ふたりともここに立ち尽くしたまま、なかなか次の一歩が踏み出せなかった。
始業のチャイムが鳴り響くなか、最後に登校した生徒が訝しげな目を向けながら、ふたりの横を走り抜けたのは、もうずいぶん前のことだった。
「この計画の立案者たる、お前までびびってどうするんだ」
メグルが発破をかけると、
「お前さんは魔鬼の怖ろしさを知らねえから、そんなことが言えるんだ……」
ガタガタと膝を震わせながら、モグラがこたえた。
「ところでモグラ。その格好、どうにかならなかったのか」
黒のスーツに蝶ネクタイ、シルクハットにサングラスを乗せて、手にはステッキという相変わらずの出で立ちのモグラに、メグルが冷たい視線を向ける。
「モグラってお前……。なんでおいらのあだ名を知っているんだ? 会うやつ、会うやつ、みんなおいらのことをモグラって呼ぶんだ。不思議でならねぇ」
(それはお前が会うやつ会うやつに、『土竜(モグラ)』と書かれた名刺を渡しているからだよ……)と、メグルは思ったが、あえてそれは口にしなかった。
「とにかく、この門をくぐったら、おいらのことはお父っつぁんって呼ぶんだぜ?」
「お父っつぁん?」
メグルのはじめの一歩が、さらに遠退いた。
「そうだ! 忘れてたぜ。あぶねぇ、あぶねぇ……」
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