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最終話 旅立ちの朝
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しおりを挟む「ママだよ! ママ! トモミのママ!!」
わたしはトモミの手を引っぱり、小型宇宙船をかけ上がった。
朝もやを吹き飛ばすような陽射しが草原を走る。
やさしく彩られられていく地平線に、ひとりの女性が立っていた。
「ママ!」トモミが叫んだ。
「ママ、ママ……。ママの心に、わたしの居場所がまだあった……」
トモミの目から、大粒の涙があふれだす。
トモミを見つけた母親は大きく手をふると、草につまずき、よろめきながら走ってくる。
「あたりまえじゃないか」
そう言いながらも、わたしの目からも、ぽろぽろと涙があふれ出ていた。
「きみと出会えたすべての人の心にきみはいる。これからもみんなの心に、あの弾けるようなトモミの笑顔を焼き付けるんだ。いっぱい、いっぱい、楽しい思い出とともに……。さあ、行って!」
トモミは涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、力強くうなずいた。
そして、わたしに抱きつき、震える声でささやく。
「ありがとう」
トモミは手のこうでごしごしと涙をふくと、ワンピースをひらめかせて小型宇宙船から勢いよく飛び降りた。
力いっぱい走って、思いっきりママに抱きつく。
「トモミのママはねぇ、とってもトモミのことを大切に想っているんだ。もちろん、このまえ出て行ったトモミのパパも、クラスのみんなもね」
トモミの背中に男のひとが声をかけた。驚いてふり返るトモミのまわりを、地平線から次々と現れた子どもたちが、とりかこんでいく。
「どうやらトモミのママは、パパを探すためにずっと家を空けてたらしいんだ。きのうの夜、出て行ったパパをようやく見つけ出して家にもどったら、今度はトモミが家にいないだろ? あわててうちのママに電話して……、それを知ったクラスのみんなも、夜中なのに声をかけあって……」
大人や子ども、次から次へと現れる人たちで、緑が丘の地平線が色とりどりに染められていく。
トモミを心配して、こんなにもたくさんの人たちが集まったのだ。
「これが……地球人……」
「そ、これが地球人。笑ったり、泣いたり、怒ったり……。ハカセたちには厄介な生き物に見えるだろうけど、ちょっとしたきっかけで、こんなにも温かくなれるんだぁ」
はにかみながら涙ぐむトモミの笑顔が、たくさんの子どもたちの笑顔にかこまれている。
その光景を、やさしいまなざしで見つめていたアユムの笑顔が、ふと寂しげに変わった。
「トモミの両親、いっぱい話し合って、結局故郷の国へ帰るそうだよ……。トモミも一緒に行くだろうね……。トモミ、両親の故郷とはいえ、ほとんど記憶がない街にひとりで大丈夫かな? ぼくたち、みんなお別れだね……」
見知らぬ土地に降り立つトモミの姿を想像し、わたしは少し不安になった。
だがすぐに、その不安は吹き飛んだ。この宇宙船の上での出会いを思い出したのだ。
銀河の果ての惑星で友だちができた。
環境も習慣も文化も違う、どんな人とだって友情は生まれる。
その瞬間が、わたしは大好きだ。
「トモミは大丈夫。それに絶対、もどってくるさ。こんなにも温かい人たちがいる、もうひとつの故郷の街があるんだから」
アユムは力強くうなずくと、わたしに握手をもとめてきた。
「ハカセもね。この丘の上で、きっとまた三人で会おう。約束だよ!」
しかしその手には、紙袋がにぎられていた。
「あっ、これ。トモミに渡し忘れちゃった。トモミのママねぇ、こんなの持って、トモミのことを探してたんだって。笑えるよねぇ。……せんべつ代わりにハカセにあげるよ」
紙袋をわたしに押しつけて、アユムはずるずると小型宇宙船をすべり降りた。
「ぼくもママにいっぱい心配かけちゃったから、もう行くね。ぼくのママ、電話がつながらないからって、警察に捜索願い出したんだ。そりゃあ、つながらないよね。宇宙にいたんだから……。あ、ママ? いまそっちに行くよう……」
ポケットから取り出したスマホを耳にあてながらウインクすると、アユムはみんなのいる地平線に手をふりながら走っていった。
「ハカセー」
たくさんの笑顔にかこまれたトモミが、地平線で大きく手をふる。
「待ってるから、きっと、きっと、もどってきてね! 約束だからね! 緑の丘の……」
「……銀の星! トモミもアユムも元気で! 絶対にまた、この場所で会おう!」
トモミやアユム、そしてたくさんの人々が、地平線の彼方へ消えていく。
それを追うように、波をたてて草原に風が走った。
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