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第14話 復讐のとき
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しおりを挟む攻撃船イヴのコントロールルーム全体をつつみこむスクリーンが、けずり取られるように次々と暗転していく。
「ああ、父上……。銀河連合の貧弱な反重力装置で戦えるのは、せいぜいここまです。ついにわたしも父上のもとへ参ります。我が一族も弊えます。しかし、わたしもキリ星の王子。ただでは死にません。わが故郷の星を破壊した、憎き女王の子孫を道づれに!」
キリル王子は、すでに死を覚悟していた。
わたしは激しくゆれる床を這いながらキリル王子の背後に近づいた。王子が引きずっている大きなマントをつかんで操舵輪から引き離すつもりだ。
しかし激しいゆれに邪魔され、わたしの手は何度も空をつかむ。
すると、となりから細い腕がのびた。
トモミだ。
トモミが王子のマントをつかんで勢いよく引っぱると、王子の小柄な体は跳ねるようにうしろへ飛び、ごつんと床に頭をぶつけた。
その口から、黒い霧が吹き出す。
「くうう、痛い……。あれぇ、ハカセにトモミ。ここどこ? どうなってるの?」
「アユム、もどったのね!」
トモミに抱きつかれながら、寝ぼけ眼であたりを見まわすアユム。
その口から吹き出した黒い霧は渦巻きながら集まり、細くて弱々しい黒い人影となった。人影はうつむきながらも、ぶつぶつとひとり言をつぶやいている。
(……わたしはまた死にそこねた。体なしでは死ぬこともできない。父上、まだわたしは、父上のもとへ行くことが許されないのですか……)
やがて風に吹かれたように人影はその形をくずし、また黒い霧となって消え失せた。
同時に、ただひとつ残っていた天井のスクリーンが暗転。コントロールルームは暗闇に包まれた。
「パワーオン、オープン、ライト!」
『全宇宙生物図鑑』が起動して、不安げに寄りそう、わたしたちの姿をぼんやりと照らす。
「ハカセぇ……、この部屋、とっても暑いねぇ」
「母船内部との摩擦に船体が耐えられないんだ。じき爆発する。なんとかして脱出しないと」
アユムを抱き寄せたまま、へたり込んでいるトモミの腕を引っぱったが、トモミは立ちあがろうとはしなかった。
「わたしはここに残る。だって、あの街の灯りを……、あたたかいみんなの居場所を、こんな恐ろしい炎で焼こうとしたんだもの」
「トモミ、自分でもわかっているはずだよ。そんなこと、できやしなかったって……。きみはただ、寂しかっただけなんだから」
しかしトモミは、わたしの手をふり払い、ひざを抱えてうずくまった。
「おねがいハカセ、わたしをおいてふたりで逃げて! ママもパパもいないあの街にもどったって、わたしにはもう居場所がないの! 学校のみんなだって、わたしなんかいないほうがしあわせだよ。だってわたしは外来生物なんだもの!」
わたしはトモミの両肩をつかんで、思いっきり頬を叩いた。
そして、驚いた顔で見上げるトモミに言い放つ。
「叩いてごめん! でもきみのおかげで、ぼくは間違いに気がついたんだ! 外来生物なんて、ぼくらの勝手な都合を押し付ける傲慢な言葉だった! きみと出会えて、ぼくはどんなにうれしかったか……。だからトモミ、自分のことを外来生物とか、いなくたっていいとか、そんな悲しいこと二度と言わないで!」
コントロールルームに警報が鳴り響く。船はすでに限界だった。
「もう脱出は間に合わない……。爆発しないよう、なんとか停止させるんだ。三人の力で!」
トモミの手を強引に引っぱり、激しく振動する床を這って操舵輪にしがみつく。
わたしの足にしがみついているアユムも、マントをつかんで引きよせた。するとアユムの背中をかけ上がって、黒ネコが操舵輪に飛び乗った。
わたしは確認するように、みんなの顔を見まわした。
「みんなで帰ろう。ぼくたちの大切な居場所、『緑の丘の銀の星』へ!」
三人の力を合わせ、思いっきり操舵輪を引く。
その瞬間、コントロールルームが、まっ赤な炎に包まれた。
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