39 / 63
第11話 トモミの家
04
しおりを挟むすると突然、大男は大声で笑いだした。
「ハッハッハ! 子どもだと思って油断したなぁ。バレたら仕方ねえ、おれたちは、本当はただの借金取りさ。ここの父親がえらい借金残したままトンズラしちまってな。かわりに母親に返済させようと思ってきたら、すでに母親の姿もねえ。
仕方なく、近所に聞き込みして回ったら、なんとこいつら、不法滞在の外国人一家だって言うじゃねえか! 当局に捕まって強制送還されるまえに、さっさとおれたちが探し出して、金だけは返してもらわないとな。それがルールだ。わかるだろう?」
「こいつは人質だ! 返して欲しけりゃ、さっさとあの娘を連れて来い!」
細身の男が、アユムの肩をつかみながら叫ぶ。
ふたりの男で、出口はすっかりふさがれてしまった。
わたしは覚悟を決めると、ゆっくりと深呼吸をして身がまえた。
「パワーオン」
小脇に抱えた『全宇宙生物図鑑』が、腕のなかで宙に浮く。
「行けっ!」
図鑑は、わたしの腕から飛び出し、大男のわきをすり抜け、細身の男の顔面に命中した。
細身の男が、うめきながら床に転がる。
「アユム逃げろ! いつものあの場所で待て!」
アユムは小さくうなずき、走っていった。
その様子を見ていた大男が、わたしに向き直り、にやりと笑う。
「その、いつもの場所ってのを、おじさんにも教えろよ。そこにあの娘もいるんだろう?」
「トモミには関係ないだろ! トモミにどうしろって言うんだ!」
大男は、わたしの胸ぐらをつかんで、天井に頭がぶつかるほど高く持ち上げた。
「力づくで母親が行きそうな場所を吐かせる。もし知らなかったとしても……」
大男が不気味に笑った。
「子どもだろうが容赦はしねえ。母親のかわりに、あの娘に金を稼いでもらおうか!」
わたしはその言葉を聞いて、自分の心がすっと冷たくなるのを感じた。
妙なほど冷静に、目の前の生物を観察していた。
トモミとアユム以外に初めて接触した地球人。
これが地球人の正体か――。
これが命がけで救おうとしていた、生き物か――。
「擬態スーツ……オフ」
わたしの顔を見る大男の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
わたしの顔は中心からきりきりとひび割れ、中から青白い光を発していた。
「我らアルア星人は、キリ星人との銀河大戦で、最後まで一歩も引かずに戦った戦士の一族だ。あんまりわたしを怒らせるな……」
擬態スーツが左右に割れて、床に落ちる。
大男はわたしから手を離すと、その場にへたり込んで後ずさりした。
うしろで見ていた細身の男は、声も出さずに逃げていた。
擬態スーツのなかに隠されていた三本目の腕を、へたり込んだ大男にのばす。
そ向けた顔を強引にこちらに向かせて、わたしは言った。
「これ以上トモミにかかわるな。おまえらを駆除するのは、わたしたちには簡単なことだ」
ごぽごぽと口から泡を吹いて失神する大男。
その姿を見て、わたしは我に返った。
おどしとはいえ、つまらないことを言ってしまった。結局、最後は力にたよった解決方法しか思いつかない。理解し合えぬ者だと、怒りにまかせて排除しようとしてしまう。
ならば貴族院の老人たちと、わたしは何も変わらないではないか。
「ああリリル、すべての生物の共存など……」
ふとよぎった思いをふり払うように、わたしは頭を強くふると、再び擬態スーツを着込んで、緑が丘へ走った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
「私は○○です」?!
咲駆良
児童書・童話
マイペースながらも、仕事はきっちりやって曲がったことは大の苦手な主人公。
一方、主人公の親友は周りの人間を纏めるしっかり者。
偶々、そんな主人公が遭遇しちゃった異世界って?!
そして、親友はどうなっちゃうの?!
これは、ペガサスが神獣の一種とされる異世界で、主人公が様々な困難を乗り越えていこうとする(だろう)物語です。
※まだ書き始めですが、最後は「○○○だった主人公?!」みたいなハッピーエンドにしたいと考えています。
※都合によりゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
レンタルおもちゃショップ『魔法屋』
三姫 律歌
児童書・童話
きっと誰にでもある幼い頃の思い出。大切なおもちゃとお話出来るちょっと不思議な物語。
こちら、連作短編になっております。
お好きな話を読んで貰えると嬉しいです。
基本設定は1本目に書いてありますので、そちらを先に読む事をオススメします。
この作品はカクヨムにも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる