緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第11話 トモミの家

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 すると突然、大男は大声で笑いだした。

「ハッハッハ! 子どもだと思って油断したなぁ。バレたら仕方ねえ、おれたちは、本当はただの借金取りさ。ここの父親がえらい借金残したままトンズラしちまってな。かわりに母親に返済へんさいさせようと思ってきたら、すでに母親の姿もねえ。
 仕方なく、近所に聞き込みして回ったら、なんとこいつら、不法滞在ふほうたいざいの外国人一家だって言うじゃねえか! 当局とうきょくに捕まって強制送還きょうせいそうかんされるまえに、さっさとおれたちが探し出して、金だけは返してもらわないとな。それがルールだ。わかるだろう?」

「こいつは人質ひとじちだ! 返して欲しけりゃ、さっさとあの娘を連れて来い!」

 細身の男が、アユムの肩をつかみながら叫ぶ。
 ふたりの男で、出口はすっかりふさがれてしまった。


 わたしは覚悟を決めると、ゆっくりと深呼吸をして身がまえた。

「パワーオン」

 小脇こわきに抱えた『全宇宙生物図鑑』が、腕のなかでちゅうに浮く。

「行けっ!」

 図鑑は、わたしの腕から飛び出し、大男のわきをすり抜け、細身の男の顔面に命中した。
 細身の男が、うめきながら床に転がる。

「アユム逃げろ! いつものあの場所で待て!」

 アユムは小さくうなずき、走っていった。
 その様子を見ていた大男が、わたしに向き直り、にやりと笑う。

「その、いつもの場所ってのを、おじさんにも教えろよ。そこにあのむすめもいるんだろう?」

「トモミには関係ないだろ! トモミにどうしろって言うんだ!」

 大男は、わたしの胸ぐらをつかんで、天井に頭がぶつかるほど高く持ち上げた。

「力づくで母親が行きそうな場所をかせる。もし知らなかったとしても……」

 大男が不気味に笑った。

「子どもだろうが容赦ようしゃはしねえ。母親のかわりに、あのむすめに金をかせいでもらおうか!」

 わたしはその言葉を聞いて、自分の心がすっと冷たくなるのを感じた。
 みょうなほど冷静に、目の前の生物を観察していた。
 トモミとアユム以外に初めて接触せっしょくした地球人。


 これが地球人の正体か――。
 これが命がけで救おうとしていた、生き物か――。


擬態ぎたいスーツ……オフ」

 わたしの顔を見る大男の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
 わたしの顔は中心からきりきりとひび割れ、中から青白い光を発していた。

「我らアルア星人は、キリ星人との銀河大戦で、最後まで一歩も引かずに戦った戦士の一族だ。あんまりわたしを怒らせるな……」

 擬態スーツが左右に割れて、床に落ちる。

 大男はわたしから手を離すと、その場にへたり込んで後ずさりした。
 うしろで見ていた細身の男は、声も出さずに逃げていた。

 擬態スーツのなかに隠されていた三本目の腕を、へたり込んだ大男にのばす。
 そ向けた顔を強引にこちらに向かせて、わたしは言った。


「これ以上トモミにかかわるな。おまえらを駆除くじょするのは、わたしたちには簡単なことだ」


 ごぽごぽと口から泡を吹いて失神する大男。
 その姿を見て、わたしは我に返った。

 おどしとはいえ、つまらないことを言ってしまった。結局、最後は力にたよった解決方法しか思いつかない。理解し合えぬ者だと、怒りにまかせて排除はいじょしようとしてしまう。

 ならば貴族院の老人たちと、わたしは何も変わらないではないか。


「ああリリル、すべての生物の共存きょうぞんなど……」

 ふとよぎった思いをふり払うように、わたしは頭を強くふると、再び擬態スーツを着込んで、緑が丘へ走った。



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