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第2話 アユム
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しおりを挟む「なるほど。地球人の体は、マグロと腐った大豆で構成されているのか……」
思わず口にしたわたしのひとり言を聞いて、トモミがいぶかしげな顔をしたとき。
「そうとは限らないよう。ツナ缶と思っていたものが、よく見たらカツオの油漬けってことも、あるからねぇ」
アユムだ。
トモミのあとに決まって現れる。
ずるずると小型宇宙船をよじのぼり、わたしの左どなりに座った。
「みんな気がつかないで、食べているけどねぇ……」
アユムという、このおかっぱ頭の少年は、十二歳にしては少々小柄でぼんやりとした少年だ。
それ以外はまったく平凡で標準的な地球人のオス……いや男の子で、特筆すべき点はひとつもない。
トモミも標準的な十二歳の地球の女の子であるが、スラリとした体型でわたしより(ちょっとだけ)背が高く端正な顔立ちをしており、黙っていれば地球人のオス……いや男の子には好感が持たれるだろう。
もちろん、地球人にはそう見えるというだけで、わたしから見れば、ふたりとも奇怪な容姿であることに違いはない。
「それは興味深い。わたしの経験上、味が似ているということは生物学的にも近い場合が多い。ええと、マグロとカツオ……。ふむ、どちらも海に棲む生物のようだね」
わたしは『全宇宙生物図鑑』の未開惑星編にある、地球のページをめくりながら言った。
「あったりまえじゃない! こんなに大きくてぶあつい図鑑を抱えているくせに、そんなことも知らなかったの?」
そう言って図鑑をのぞき込んだトモミの眉間に、みるみるしわが寄っていく。
この星の言語で書かれていないのだから無理もない。
「これは古代シュメール文明で使われていた、くさび形文字のように見えるねぇ」
アユムも反対側からのぞき込んできた。
トモミと違ってアユムはおっとりとしているくせに、妙な知識を持っていたりするので、わたしは図鑑をぱたりと閉じた。
「夏休みってさぁ、あと何日だっけじゃんみたいな?」
そして、地球人が子どものときにだけに使用するという珍妙な言語を使って、何気ない話題をふってみた。
もちろん、話をそらすためだ。
「まだ一週間以上あるわよ。ハカセ、そんなに学校に行きたいの? 信じられない」
トモミが肩をすくめる。
彼女はわたしのことをハカセと呼ぶ。わたしが銀河的に有名な生物博士であることは、知るはずもないのだが……。
それにしても『夏休み』と呼ばれる、この星特有の子どもたちの休暇制度(実状は教師のための骨休み期間と考えられる)のせいで、あと一週間以上も、このように時間をもてあました地球の子どもたちが、昼間から大量に周辺をうろついているのは確かなようだ。
やはりわたしは救助が来るまで、この場所にとどまっているのが無難だろう。
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