緑の丘の銀の星

ひろみ透夏

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第1話 トモミ

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「今回の任務は、地球というこの未開の惑星にひそむ『外来生物』の調査だよ。もう目星めぼしはついているから、そう長居ながいはしない。だからこんな小部隊なんだ。だいたい、たったふたりで隊長と隊員だなんて、まるで『探検ごっこ』をしている子どもみたいでバカらしいよ……」

 ぽっかりとあいた隊員の小さな口の穴から、また奇妙な笑い声がもれる。

 あいかわらず無表情で笑う隊員の姿に、博士は腹話術ふくわじゅつの人形とでも話してるような不思議な気分になった。

「ところで博士は、なぜバイオロイドを使わないのですか? 生身の体で行動するより安全だし、いざとなったら船ごと自爆じばくできて便利ですよ」

 おしゃべりな隊員だと思いながらも、博士はこたえた。

「わたしたち生物学者は命と向き合っているんだ。命と対話するときに、こちらが作り物ではダメなのだよ。たったいま、きみと話をしていて、それを再確認したところだ」

 博士は皮肉ひにくまじりの笑顔を向けたが、隊員はぽかんと口をあけているだけで、何もこたえなかった。

「何か言いたまえよ。無表情なきみの顔からは、きみがいま何を考えているかなんて、まるで読み取れないのだから……」

 なおも返事はない。

 ためしに肩を叩いてみるが、その体は石のように固まっていて、ぴくりとも動かなかった。

「おい、きみ、どうしたんだ?」

「博士……わたしの後頭部こうとうぶにあるアンテナは……何本立っていますか?」

 雑音がざったような声で話す隊員の後頭部に、博士は目を向けた。
 つるりと輝く青白い大きな頭に、アンテナマークが浮かび上がっている。そのとなりで細く短い棒が一本、出たり消えたりしていた。

「一本立っているが、いまにも消えそうだよ」

「それ……大変……だ。脳波の受信状態が……非常……悪い。操縦不能……自爆……ます」

「ま、待て! わたしは生身の体なんだ。自爆はやめてくれ!」

 博士があわてて隊員の体を揺さぶると、マネキンのように固まった隊員の体が、座ったままの姿勢で、ごろんと床に転がり落ちた。

 その口から、かすかに声がもれる。

「そ……でした……。しかし安心……ください……。船は安全装置が働き……自動で不時着ふじちゃく……。数日後には……迎え……」

 そこまで言ったとき、後頭部のアンテナマークが完全に消えた。

 同時に腹に響くような衝撃音が鳴り響き、船内が大地震のようにぐらぐらと揺れる。


「……どこかに不時着したってわけか」



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