2 / 63
第1話 トモミ
02
しおりを挟む「隊長! 前方から未確認飛行物体が接近中です!」
それは高度八〇〇メートルの上空、闇夜のなかでの遭遇だった。
「赤い光を点滅させながら、だんだんとこちらに迫ってきます! 扇風機をひっくり返したような、奇妙な形です!」
操縦席に座る青白い顔の男が、正面のスクリーンを睨みつつ叫ぶ。
しかし、うしろの座席に深く身を沈めた男は、膝の上に開いた大きな図鑑から目をそらすことなく、落ちつきはらってこうこたえた。
「隊員、わたしの資料によると、それは地球のヘリコプターというものだ。とてもエネルギー効率が悪く、騒がしい乗り物であるが、この星ではポピュラーな……」
その言葉も終わらぬうちに、隊員は思いっきり舵を切った。
銀色に輝く球状の小型宇宙船は直角に夜空を左折し、衝突寸前でヘリコプターをよけた。
「こらあっ! わたしは生身の体なんだ。操縦に気をつけたまえ!」
ごろごろと床を転がりながら隊長が怒鳴る。
隊員は闇夜に消えていく赤い光を、背面のスクリーンで確認しながら、ぽつりとつぶやいた。
「見つかっちゃったかな……?」
この小型宇宙船を操縦している『隊員』は、有機体《ゆうきたい》で構成されたバイオロイドである。
彼の本当の体は、月の裏側に停泊している母船にあり、そこから、このバイオロイドを脳波増幅装置で遠隔操作していた。つまり一言で説明するなら『操り人形』。なので、少々乱暴に小型宇宙船を操縦しようがへっちゃらで、乗り物酔いすらしやしない。
「すみません。生身の生命体を運ぶのは久しぶりなので……」
そう言って隊員はキョキョキョと笑ったが、まっ黒で大きな目玉以外、小さな鼻と口の穴があいているだけのバイオロイドの青白い顔に、表情はなかった。
ふらふらと頭を抱えながら、ようやく立ち上がった隊長は、急いで自分の席にもどると、読んでいた『全宇宙生物図鑑』に異常がないか確かめた。自分の背丈の三分の一もある大きな図鑑だが、いつも肌身離さず持ち歩くほど大切にしている。
やがて隊長は、ほっと安堵のため息をつくと、またもとのように深く座席に身を沈めて、図鑑を読み始めた。
「研究熱心ですね、隊長」
「隊長はやめてくれ。いつもは博士と呼ばれているんだ」
いつもは博士と呼ばれているこの男は、銀河でも四本の指(宇宙人の平均的な指の数)に入るほど有名な生物博士だ。いろいろな星をまわっては、さまざまな生物を採取、研究している。
「では博士、今回の任務は、いったい何なんですか?」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる