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No.2:運命の再会
しおりを挟む翌朝ーーーーーー
赤茶の煉瓦造りの3階建て都営団地。その3階302号室では、顔中あちこちにキズテープを貼り熟睡している聖弥。
ダダダダダ!!
すると、聖弥の部屋へ近付いてくる1人分の豪快な足音。
「い!つ!ま!で!寝!て!ん!だ!よ!クソ兄貴ー!!」
ドサッ!!
「ブッ!!」
寝ている聖弥の腹へダイブした1人の少女。嫌でも飛び起こされた聖弥。
「ゲホッ!ゴホッ!あ"~!てめぇ、ゲホッ!ざけんじゃねーぞ!永眠するところだったじゃねーか!!」
聖弥は自分と同じ金髪をした少女のショートツインテールを掴む。
「痛てぇよ!髪引っ張んじゃねぇよ!兄貴が寝坊してんのが悪りぃんだろ!早く弁当と朝飯作りやがれ!!」
「そのくらいてめぇで作れ!天音!!」
黄緑色の瞳、クリーム色のセーターに水色チェックの制服スカートを履いている少女は、神堂聖弥の妹【神堂 天音(シンドウ アマネ)】16歳。女子高生。
「だって作り方知らねーもん」
「本でも何でも調べりゃあ良いだろ。つか降りろ。重てぇ」
「そもそも料理メンドクセーじゃん」
「てめぇ」
聖弥はウエストポーチの中を漁る。
「あ。そうだ。田中のババァからまた昨日貰ったんだった。てめぇにやる」
「マジ?!田中のオバチャンやっぱ良い奴だな!」
しかし取り出したどら焼きは昨夜の戦闘で、袋からはみ出しぐちゃぐちゃ。
「…あ。悪りぃ」
「死ねクソがー!!」
べちゃっ!
「てめえぇえ!!」
ぐちゃぐちゃのどら焼きを顔面に投げつけられた聖弥の顔があんこ塗れになったのは、言うまでもない。
「ホラよ」
「お~!フレトー!!」
天音の大好物フレンチトーストを作った聖弥。室内に甘い香りがたちこめる。
「てめぇ野菜も食えよ。いっつも残しやがって」
「兄貴また朝飯食わねぇの?」
「腹減らねぇんだよ」
「兄貴ってお父ぉとお母ぁが殺されてから変わったよな」
「あ”ァ?!」
ギクッ。
「注意しねぇ性格だったのに急にするようになったし怒るようになったし、言葉遣いヤンキーになったし、昨日みてぇにボコボコにされて帰って来るみてぇな喧嘩なんてした事が無かったし、頭良かったのに急にアホになるし」
グサッ。グサッ。天音の言葉全てがナイフのように聖弥に突き刺さる。
「…本当は兄貴じゃなくて、お父ぉとお母ぁを食って兄貴も食って入れ替わったサカサじゃねぇのか?」
天音の真剣な眼差しに聖弥は黙る。
「…って何年か思ってたけど!」
「?」
途端、天音はピースをしていつもの歯を見せた明るい笑顔に変わる。
「サカサだったら4年間もあたしを食わねぇでいるワケねーし、あたしの大好きなフレトーも弁当も毎日作ってくれるわけねぇだろ?それに兄貴の作るフレトーはクソ下手だけど、味だけはチョー美味めぇし何よりもお母ぁの作ってくれてたフレトーと同じ味だから!前と変わってもあんたは兄貴だって確信したぜ!」
明るい天音とは対照的に、切ない表情を浮かべる聖弥。
「…どっちの兄貴が良い?」
「どっちも嫌~い!」
「ふざけんなよてめぇ」
朝の眩い日差しの射し込むリビングに2人の笑い声が響くのだった。
「あっ。てめぇまた野菜残してんじゃねぇ!」
「昨夜、如月区にサカサが現れました」
朝のニュースでTVには視聴者提供のNo.9の映像が映っている。
「あ。俺昨日こいつ見たぜ。知らねぇけど話し掛けられたし」
「マジ?!やべぇじゃん!」
「昨夜現れたサカサNo.9は今までに何万ものニンゲンを捕食し、サカサの中でも最も凶悪です。現に討伐にあたったMFS3名、民間人3名が殺害されました」
「じゃあ昨日兄貴がボロカスになって帰って来た怪我はこのサカサにボコられたのか」
「ボロカス言うんじゃねぇ。第一、違っげぇよ。これは…」
聖弥の脳裏に浮かぶ昨夜の田中と浅月の姿。
『逃げな!』
『ま、お前の正体を彼女が報らされる頃お前はこの世に居ねぇから安心しろよな!!』
「……」
ピッ!
「あー!何勝手にチャンネル変えてんだよ!」
昨夜の事を思い出し、血相変えてすぐさまTVのチャンネルを変える聖弥。
「ニュースの後の占い見るんだよ!」
「あんなの当たらねぇんだよ!」
TVのニュースに映る"全世界で新たにサカサと確認された人物"には、サラリーマン風眼鏡の男性と、耳の下にツインテールをしたピンク髪に地雷系少女の2名しか紹介されていなかった為、安堵する。
ーーッシャ!俺もババァも出てねぇ!つー事はあの後ババァはクソモヒカンをぶっ殺したって事か!すげぇんだな!ーー
「弁当はー?」
「あぁ。作ってねぇわ」
「酷でぇ!サカサだな~?!」
「昨日ボコられて作れなかったんだよ。金やるから買え」
しかしウエストポーチの中には給料明細書、ポケットティッシュ、レシートしか無い。財布が、無い。
『サカサの分際でキャッシュカードなんて持ってニンゲン様の真似してんじゃねーよ!』
ーーあいつだ!!ーー
脳裏に浮かぶ、昨夜の浅月の嘲笑。
「昨日ボコってきた奴に財布盗られたみてぇだから、パン持ってけ」
「ヤベーじゃん!ケーサツに通報しろよ!」
「いや、いい」
ーーサカサだってバレてMFSにボコられて財布盗られたなんざ死んでも言えねぇよ!!つか金よりも、財布の中には"サカサ被害孤児給付金受給資格証"が入ってて、それに俺の顔も住所も勤務先も全部載ってるんだよな。だからクソモヒカンが生きてたらMFSに俺がサカサだってバレるからクソやべぇ!クソモヒカンが万が一生きてたら俺の人生詰んだ!!でも昨日のサカサ確定情報に俺も田中も出ていなかったっつー事は、財布は田中が預かってんのか?クソモヒカンは死んだっつー事だよな?でも情報が遅れてて、田中が殺されてたら?!あ"~~~!田中の生存確認に後でバ先行くしかねぇな!安心できねぇ!!ーー
「あたし学校行ってくる」
「おう。行ってこい」
「……」
ブツブツ呟きながら考え事をする聖弥の背をジッ…と見て天音はすぐ背後から飛び付く。
「何くっついてんだよ!さっさと行きやがれ!」
「最近」
「あ”ァ?何だよ」
「如月区にサカサ出てるじゃん。超可愛いあたしが食われたらどーすんだよ!帰りはスクールバスあるけど行きは1人じゃん!だからさぁ…、……。心配じゃねぇのかよ!?」
「クソビビりが」
ばちんっ!
「痛ってぇ!」
聖弥のデコピンを喰らう天音。
「別にビビってねぇし?!」
「バ先。用あって行くついでに送ってやる。着替えるからちょっと待ってろ」
「おうっ!!」
それから天音の通学路閑静な住宅街を歩く2人。
「つか、てめぇ自分で可愛いとか言ってんじゃねぇよ。超ポジティブか」
「だって可愛いじゃ~ん」
「いいな~。かっこいい君と可愛いちゃん。2人で仲良くお出掛け良いな~」
向かい側から歩いてきた、耳の下にツインテールをしたピンク髪の地雷系少女が2人に話し掛けてくる。手を振って去って行くから、天音もぶんぶん振り返す。
「ホラ!やっぱり可愛いって!」
「ジョークジョーク」
「死ね!」
「…?!」
今すれ違った少女が、今朝のニュースで見た"全世界でサカサと確認された人物"と同一人物だった事に気付いた聖弥は咄嗟に振り返る。一方の少女もこちらを向いていた。
「シーッ…」
口に人差し指を立てて、ナイショ、を表しウインクすると、聖弥達とは反対方向へ歩いていくのだった。
ーー田中といいこの女といい、俺が気付けないだけでサカサは身近に居るんだな。こいつらは何でサカサだって気付けるんだ?ーー
「兄貴、ああいう奴がタイプなのか?」
「は?違っげぇよ」
「だってあいつ、おっぱいでかかったからさ」
「ブッ!!」
天音を送った後。
ーー俺と天音は…いや、世間的には神堂聖弥と神堂天音は4年前サカサに両親を殺された孤児として国から、サカサ被害孤児給付金として家賃、保険料、学費を全額援助してもらっている。生活費と光熱費は自費だ。被害一家庭につき高校までの学費を出してもらえるのは1人まで。だから、天音を進学させて俺はフリーター。野良犬同然の学も無ぇ俺が進学したってサカサだってバレるだけだからな。ちなみに俺らサカサは飲食しなくても生きていける。…4年前神堂聖弥を食った時あいつは15。義務教育を終えたガキが居る家庭には国から生活費と光熱費は出してもらえねぇから、俺が出してる。学が無ぇしスーパーでフリーターくらいしかできねぇから、毎日カツカツだ。…そのサカサ被害孤児給付金受給資格証にご丁寧に俺の全部が載っていやがるんだよおぉぉお!!…まあ田中がクソモヒカンぶっ倒して俺の財布奪い返してくれていりゃあ何も問題ねぇワケだし。それに、俺がサカサだってバレていりゃあ、MFS共が団地に来てるハズだし?来てねぇじゃん?ならOKだろ!?絶ってぇ大丈夫!な!?ーー
今日は公休の為、スーパー中村の正面入口から客として入店する聖弥。入ってすぐ調度、店長
と鉢合わせる。
「あれ?神堂君今日休みだよね?調度良かった!先週代わってくれた君の分を今日出勤するはずの田中さんがまだ来ていなくてさ。電話も出ないし。田中さんが無断欠勤なんて初めてだよ」
「?!!」
店長からのまさかの一言に、全身から魂が抜ける聖弥。
「神堂君スマホ持ってないから連絡できなくて困ってたけど、調度来て良かった。フリーターだからどうせ暇でしょ?来たついでに田中さんの代わり頼んだよ」
「いや、ちょ…、あ、▲○✕■」
ーー品出しなんざしている場合じゃねぇんだよ!??ーー
言われるがままに制服のエプロンをつけて、レトルトカレーを品出しする聖弥。しかし田中の安否が気になって全く集中できず、商品をボトボト落としてばかり。
ーー田中あぁああ!!かっこつけて俺を逃しておいて殺られてンじゃねぇよ!クッッソ勝つ雰囲気出してたじゃねぇかぁああ!!団地に居ねぇ俺をMFS共が探しに此処へ来るかもしれねぇ!!バトルっつったって俺、能力盗られてるし無理だー!!人生詰んだ!!ーー
棚の陰から店内をキョロキョロ警戒するいかにも不審者な聖弥を、客の子供が指差す。
「ママ。あの人~」
「見ちゃいけません!」
すると…
「すみませ~ん」
「いらっしゃいませー!」
ーーうるせぇー!!今それどころじゃねぇんだよ!!話し掛けんなクソ客!!ーー
「え~。いらっしゃいませ、だって~。店員さんやってるとか超ウケるね」
「!」
呼び止めた客の方を振り向くと…
「てめぇはさっきの…!」
先程道ですれ違ったピンク髪をしたサカサの少女が立っていた。名は【No.532(立花 恵莉香(タチバナ エリカ))】20歳。
「てめぇ、じゃないよ。恵莉香だよ~。因みにNo.532ね。よろしく♡君の名前は~…神堂ね!恵莉香ねイケメンしか食べたくないんだ♡神堂はイケメンだけどそれは皮だし仲間だもんね、食べれないや。恵莉香、幸せそうなニンゲンカップルをぐちゃぐちゃにしてやるのが趣味なの♡だから~…、」
「てめぇ!此処でそういう話するんじゃねぇよ!!」
「さっき一緒に居た彼女。神堂の正体も知らずに浮かれててムカつくから。神堂の彼女、ぐちゃぐちゃに殺らせて?♡」
「……。彼女じゃねぇ、妹だ。あいつに手ぇ出してみろ。同類でもぶっ殺すからな」
「妹ちゃんが可愛いんだ?でも神堂は妹ちゃんの本当のお兄ちゃんじゃないよ?本当のお兄ちゃんを殺して入れ替わってる偽者だよ?妹ちゃんがこの世で最も憎む仇だよ?ニンゲンなんて恵莉香達を馬鹿にするクズ共じゃん。仲良しこよしして楽しいの?ニンゲンなんて皆死ねば良くない?」
ドンッ!
「てめぇ」
恵莉香の顔の脇の壁に右手を押し付ける。
「あいつに近付いてみろ。こっちがぐちゃぐちゃにぶっ殺してやる。二度と言うんじゃねぇぞ」
「神堂君?!お客様に何やっているの!?」
店長の声など聞こえない程、聖弥の怒りは心頭。
「いいよ。神堂と友達になりたいから狙わないであげるね。でも一つ忠告。いつかバレるのにさ、ニンゲン好きになると寿命縮めるだけだよ?早いとここっち来てね。恵莉香、神堂には死んでほしくないからさ」
恵莉香は手をヒラヒラ振り、去って行く。その際、店長にニコッ♡とウインクを送れば、店長は頬を赤らめる。
「か、可愛い子だね。彼女?」
「店長、食われますよ」
「えっ!彼女大胆なんだね!」
イライラしながらも品出しを再開する。
ーークソっ!余計な仕事増やすんじゃねぇよ。これからずっと天音の送り迎えしなきゃならなくなったじゃねぇか。…俺はMFSにバレねぇ。
殺られねぇ。絶ってぇに!!ーー
『兄貴がサカサなんじゃないかって思ってたけど』
『でも神堂は妹ちゃんの本当のお兄ちゃんじゃないよ?本当のお兄ちゃんを殺して入れ替わってる偽者だよ?妹ちゃんがこの世で最も憎む仇だよ?』
「……」
天音と恵莉香から言われた言葉が脳裏をぐるぐる巡るから、さすがの聖弥も弱気な表情になってしまう。
ーー…けど、やっぱりこの生活やめた方が良いのか…?ーー
そんな聖弥の背後に歩み寄る1人の小柄な少女の姿が。
「あの…」
「あ”ァ?!まだ用あンのかよ!さっさと帰りやがれクソアマ!」
呼び掛けた人物が恵莉香だと思い込み暴言を吐きながら振り向けば、其処に立っていたのは恵莉香ではなく、昨夜如月区の街で出会った白髪のあの少女だった。
予期せぬ聖弥からの暴言に、少女の大きな紫の瞳からは大粒の涙がボロボロ溢れるし、少女は脅えている。
「ご…、ごめんなさっ…、」
「!?!」
一瞬にして全身から血の気が引き、まさにこの世の終わり状態な聖弥。一方の少女は泣きながら去って行ってしまうから、少女の腕を慌てて掴む。
「いや、違げぇ!ちょ、待っ、」
「きゃっ…、」
「あ。悪りぃ、」
「きゃあ~~~!!」
「おわーーーっ?!!」
店内中に響き渡る甲高い悲鳴を上げた少女に驚いた聖弥は思わず手を放す。
「な、何だようるせぇな?!ビビったじゃねぇか!?」
「か…、」
「あァ?!」
「家族以外の殿方と触れた事がありませんのに~!!」
ズキュン。頬を赤らめ涙目の少女の一言に、聖弥の心臓は一瞬で射抜かれる。
ーーやべぇ可愛い!!やべぇやべぇやべぇ▲○■✕!!!ーー
「店長との話はつきました」
すると少女の背後から1人のミントグリーンの髪をみつあみした、いかにも堅物な女性が現れた。昨夜リムジンで少女を送っていた女性だ。
「少年。表へ出ろ」
ーー…あ。直感的に俺、このババァと合わねぇーー
黒塗りのリムジンに乗せられて東京の街をしばらく走ると、到着した其処は超高層ホテル"東京如月グランドホテル"との看板が掲げられている。
「??!」
「ようこそ」
「お待ちしておりました」
「こんにちは」
館内へ入れば、ホテル従業員一同がズラリ並び出迎える。まるで総理大臣や一国の王のような扱いに、聖弥はキョロキョロ。
ギュッ!
「痛って!」
少女の付き添いの女性に突然足を踏みつけられた。女性は聖弥を鬼の形相で睨み付ける。
「キョロキョロするな。お嬢様に恥をかかせるつもりか」
「どうかされました?」
「いえ、何も」
「そうでして?」
少女の方を向いた女性は聖弥に見せた表情とは180度変わってにっこり笑顔。
ーーこのババァ殺す!!ーー
ジーンズのポケットに両手を突っ込み、女性へのイライラが募る聖弥だった。
そこから案内されたのは最上階のレストラン。見晴らし最高、如月区を一望できる。こんなに豪華な施設へ来たのは生まれて初めてな聖弥はまたキョロキョロ。
「何かありましたらお呼びください」
「ありがとうございます」
ドスッ!
「ゲホッ!」
去り際、少女には気付かれぬよう聖弥の腹にエルボーを喰らわす女性。"分かっているんだろうな?"の視線を向けられ無言の圧力をかけられるのだった。
「…何かすげぇのな。お嬢様だったのかお前」
ガタン、椅子に腰掛けて少女と向き合う。
「そうではありませんけれど…」
「じゃああいつはお付きってやつ?」
「お付きというわけでは…。…あっ。今日はずっとお礼をしたくて!お食事なさってくださいな!」
ーーお礼?何かしたっけ?あぁ、昨日荷物拾った事?ずっとじゃなくね?たった昨日じゃね?ーー
「あぁ。何でもイーわ。お前が決めて良いぜ」
「お前、ではなくてお名前で呼び合いませんこと?お互いずっとお名前を知らないままでしたでしょう?」
「おう。そうだな。ずっと聞きそびれてたし」
「わたくしの事、やっぱり覚えていてくれまして?!あんなにほんの少しのお時間でしたのに覚えていてくださって嬉しいですわ!ありがとう!」
「~~!お、覚えてるに決まってんだろ!だから昨日超久々に会えてビビったし!」
互いに赤面し、とても良い雰囲気。
「つか、ぶっちゃけずっと探っ…、探してたしっ!お前突然いなくなるからっ!」
「探してくれていまして!?わたくしもですの!でも突然いなくなってしまわれたのは貴方の方でしてよ!」
「9年振りだもんな」
「4年振りですものねっ」
しん…
2人同時に発した言葉。その後2人の間に沈黙が起きる。久し振りの再会…しかし互いの発した年数にズレが生じていた。
「ふふっ。そんなに昔ではありませんでしてよ?」
「あ~…?そうだったかよ?」
ーー…ん?最後に会ったのって9年前だろ?アレ?ーー
「つか昨日に続いて今日も偶然会うとかすげぇな」
「今日お会いしたのは偶然ではありませんのよ♪」
少女がスッ…、と差し出した物それは顔写真付きの"サカサ被害者給付金受給資格証"
「神堂聖弥さん♪」
「自分が拾いました」
「?!!」
オマケに何処からともなく少女の背後からはあのモヒカンMFS隊員浅月まで現れたではないか。聖弥、本日二度目の全身から血の気が引く。
「それにしてもすごい偶然ですわ」
「ええ。自分の拾った財布の持ち主がまさかお嬢様の探し人とは」
ーー…は?!ちょ、待っ、▲○✕■?!!何でソレをお前が持ってて、クソモヒカンが現れた?!拾ったじゃねぇ、奪ったンだろーが!!あぁもう!んな事今はどうでもいい!つか、これどういう状況だ?!受給資格証に載ってる勤務先見たから今日会ったのは偶然じゃねぇと?!何でこいつがクソモヒカンと一緒に居るんだ!?田中はやっぱり殺られた?!つー事はこいつら、俺がサカサだって知ってんのか?!だからわざわざ連れて来た!?でもニュースに俺出てなくね?!は?!何!?は!?ちょ、マジ▲○✕■?!!ーー
大パニックの聖弥。しかし、
「…!」
ふっ…、と我に返り、気付いた。途端、冷静になる。怒りすら湧き上がる。
ーー…あぁ。そういう事かよーー
ギリッ…、歯を噛みしめる。
一方の少女は切なそうに聖弥をみつめる。
「勝手に見てしまってごめんなさい。貴方、サカサ被害者でしたのね。でももうご安心なさいな。わたくしが直々に…、」
「そういう事かよ」
「え?」
ガタッ、
聖弥は俯いて椅子から立ち上がる。
「そういう事かっつってんだよ!何も知らねぇなんて嘘じゃねぇか!あ~はいはい、そうでしたか。俺を騙して此処まで連れて来てさぞ楽しかっただろうなァ?」
「え?あの…!」
聖弥は睨み付けながら浅月を指差す。
「何が財布を拾っただクソが!てめぇが奪ったんだろーが!こいつを使えば俺がホイホイついて来ると思って、ここまで俺を誘き寄せやがってクソうぜぇんだよクソモヒカン!!」
「ク、クソモヒカンだと?!」
次に女性に中指を立てる。
「てめぇは俺が逃げねぇように出入口に陣取りやがって!さっきから腹殴ったりガン飛ばしたりしてきたけどなぁ!俺が女にビビると思ってんのかクソババァ!!」
そして最後に少女を指差す。
「一番はてめぇだ!昔から俺を知ってるのはてめぇだけだからな!何が"ずっと探してた"だ!俺と再会して受給資格証手に入れて大喜びだっただろ?!クソモヒカンと結託しやがって!人の気持ち踏みにじりやがって!こいつらの中でてめぇが一番うぜぇんだよポンコツ!!」
パァン!
堪らなくなった少女は、聖弥の左頬を平手打ち。
「お嬢様…!」
「…は?!」
「…以前お会いした時はあんなにお優しくて紳士でしたのに。だからわたくしは4年前から今日までずっと貴方とお友達になりたかった。…けれど、久し振りにお会いした貴方は言葉遣いは乱暴で、わたくしの大切なお2人を侮辱するなんてまるで別人みたいですわ。このまま考えを改め直さないのでしたら…」
「は?!ざけんなよ、」
「貴方なんか大嫌いですわ!!」
「てめぇなんか大嫌いだ!!」
怒りのこもった2人の声が重なり、館内に響き渡るのだった。
スーパー中村ーーーーーー
店の前まで送ってもらった聖弥の瞳には、去って行くリムジンの後部座席からこちらへあっかんべーをしている少女が映っている。負けじと聖弥もあっかんべー返し。
リムジンが見えなくなると、返してもらった受給資格証を見つめる。
「何事も無く帰らせたっつー事は、別にあいつらは俺がサカサだって知ってとっ捕まえに来たんじゃなかったのか?モヒカンも昨日の事覚えていねぇみてぇだし。じゃあ何で会いに来たんだ?ただ財布を返す為?…ワケ分かんねー…」
聖弥は空を見上げる。
「…ここら辺なんかな。でも9年間ずっと如月区に居たけど会わなかったし。たまたま来てただけ?じゃあ遠い所に住んでんのか。…ああ、そういえば」
俯いて、ぽつり呟く。
「…名前。結局聞けなかったな」
「やっぱりあの子だったんだね」
「おわーーーーっ!??」
振り向いた其処に、頭に包帯を巻いて顔のあちこちに傷テープを貼った険しい顔付きの田中が居た。
「遅れてごめんね。さすがに昨日の傷じゃ半日動けなくてさ。店に来て店長から、神堂ちゃんが女の子に連れられて行ったと聞いてまさかと思ったけれど…。昨日、神堂ちゃんの受給資格証をMFSから奪い忘れたあたしのミス、」
聖弥は電柱の陰に隠れてガタガタ震えながら田中を見ている。
「田中、成仏しろ!!」
「勝手に殺すんじゃないよ」
電柱の陰から出てくるなり、いつもの調子に戻って田中を指差す。
「てめぇ!生きてたんなら遅刻すんじゃねぇ!俺が代わりに出勤させられる羽目に…、…あ"ぁ"あ"ぁ"あ"そうだったぁああ!!モヒカン野郎が奪った受給資格証をあいつに見られたんだよぉおお!!」
「怒ったり焦ったり忙しいね神堂ちゃん。でも神堂ちゃんがサカサだってバレていなかっただろう?」
「そうなんだよな。モヒカン野郎、昨日の事すっかり忘れてるし」
「あたしがモヒカンのMFSの記憶を消したのさ」
「え」
聖弥は子供のように瞳をキラキラ輝かせる。
「マジか!?田中すげぇ能力持ってんのな!サンキュー!!クッソ助かったぜ!お礼するわ!」
「じゃあお願いを一つ聞いてくれるかい?」
「おう!何でもこい!!」
「あの子とはもう一生関わらないでおくれ」
険しい顔付きの田中からの一言に、2人の間に沈黙が起きる。店の前の道路を行き交う車のエンジン音だけが、辺りに響く。
だが、すぐに聖弥は顔の前に両手で✕を作る。
「はい、却下~」
「神堂ちゃん!話を聞きなさい!あの子は…!」
「またそれかよ!うっせぇな。てめぇはガキの結婚に反対する頑固ババァか?大体、何がダメなんだよ?」
「あの子は…」
キキーッ、
すると、先程去ったはずのリムジンが戻ってきた。後部座席用から白髪の少女が降りてきて、こちらへ向かって歩いて来るではないか。
「…言いそびれていた事がありましたわ」
「あ、俺も…!」
「神堂ちゃん!!」
少女は聖弥へ一枚の紙を差し出す。
「二つ。まず一つ目はお祖父様から」
少女から渡された紙に書かれている文面に聖弥の目が見開く。書かれている内容は…
【MFS入隊試験日程。
サカサ滅亡組織MFSへの入隊試験受験者は下記日時に、東京都麗華区MFS本部へ集合せよ。
日程 2023年5月2日 AM9:00~PM5:00】
…その他、持ち物や服装について詳細が書かれている。
「…は?ちょ…、MFS入隊試験?サカサ滅亡組織って…」
「わたくしの話を聞いたお祖父様からの計らいでしてよ。ご希望ならその日時にいらしなさいな。…そして二つ目はわたくしから」
顔を上げた少女は口を尖らせつつも頬を赤らめて、聖弥を真っ直ぐ見つめていた。
「4年前のあの日、わたくしを化け物サカサから守ってくださりありがとう。MFSに入隊して貴方の正義感を活かしなさい。わたくしはサカサ滅亡組織MFS元帥の孫娘、射手園れいなでしてよ」
白髪少女の名は【射手園 れいな(イテゾノ レイナ)】19歳。
憧れの少女が頬を赤らめながら入隊を誘ってくれて、少女の紫色の瞳には自分しか映っていない、この上ない幸せな刻。…なのに聖弥にとってはこの上ない絶望の刻。
ーー…あぁ、そうだった。俺はヒロインを助けた正義のヒーロー神堂聖弥の皮を被って入れ替わった化け物No.666なんだった…ーー
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夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
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