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第六の扉

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「アーデーア、カグラニス、エゾグラディス、オルティーソー、ブララカイア…」

苅磨かるまフェルマーは、ベッドで就寝中の苅磨愛衣奈あいなの上に手を伸ばし、呪文詠唱を続ける。

すると、ベッド下の白いカーペットを抜けた紫色の光が、部屋の屋根にまで届き、部屋中をその不気味な光が支配する。

天井に映された紫色の光は、魔法陣を描いている。



「さぁ、お前はこの魔法陣の中で囚われの身だ。解放して欲しくば、私の願いを叶えるのだ…。我が名は、苅磨フェルマー。悪魔も畏怖するカルマ魔法術の正統な継承者だ」



キャハハ…!



子供がはしゃいで漏らす笑い声が、愛衣奈の1mほど離れた宙に響く。



「目眩しをしようとしても、無駄な事だ。私がこの世に召喚した悪魔、その名は、サキュバス。その姿を現すのだ」



キャハハ…!



フェルマーを揶揄からかう様に、未だ姿を見せず、子供の声で、笑い声を響かせ続ける。



「そうか?私の目算も、些か軽率過ぎた様だ。では、もう終わりにしても良いだろう。済まないな、サキュバス。酷く苦しむ羽目になるが、容赦して欲しい…」



フェルマーはそう言い、冷酷な目を剥き出しにし、呪文詠唱をし始めようと、手を再び、伸ばす。すると、色艶の良い大人の女性の声が聞こえてきた。



「…冗談も通じないのねえ。フェルマー?カルマ魔法術の正統な、後継者…そうなのよねえ?フフフ…。フェルマー。フェルマー、フェルマー。貴女の願いを、私に伝えてみて?姑息な手段でも、これは契約。私はそれを守るわ。それが、悪魔界の掟なのだから、仕方がないわよねえ?」



「その通りだ、サキュバス。掟を破れば、お前達の尊厳など微塵もなくなる事だろう。その事を理解した上で、私の願いを叶えると良い…」



「では、その様に致しましょうか?残忍なフェルマー。悪しき、フェルマー。フフフ…!」



すると、愛衣奈の暗褐色の前髪がふわりと浮き、その後に、彼女のパジャマの上着のボタンが、上から順に一つずつ、弾け飛んでいった。



「まだ何も、私の願いをお前に伝えてはいないのだ。勝手な事をしたな、サキュバスよ」



「私を呼んだのは、そういう事でしょう?だから、残忍だと言ったのよ、貴方の事を。でも、いいわ。人間の家族が崩壊していく様を見るのも、快楽の一つよね。一応、忠告してあげるけど、貴方の希望する行為をしたら、貴方は死ぬかも知れないわ。その覚悟はしておいてね…」



愛衣奈は怪しげな光を一瞬放ち、目を開く。ただ、昼間の彼女とは違い、何処となく虚な目をしている。

彼女は上体を起こし、呆然と天井を眺める。そして、ボタンが外れてはだけた、僅かに膨らんだ自分の白い胸に目をやり、誰かの命令を待つ様に、じっとそのまま動かないでいる。



「サキュバスよ、お前は今、我が娘、愛衣奈に憑依している。そうだな?」



「そうとも言えるかしら。もし、貴方が望むのなら、この体を豊満な状態にしてあげる事もできるけど、どうかしら?」



その言葉を聞き、フェルマーは上体を起こしたままの愛衣奈の胸元に手を置き、呪文を詠唱し始めた。



「ディアッガー、アルマンティール、オル、ゼグリエール、ベルゼア、カイント…」



サキュバスに憑依された愛衣奈は、フェルマーの顔を摩り、口を寄せるが、体の異変に気づき、急に苦しみ、もがき始めた。



「さて、サキュバスよ。私の願いだが、お前の思い描く様な反吐の出る行為ではないのだよ。私の願いはだな…」



「グハ…。ヨセ、人間、如キガ…!」



「愛衣奈に近づく者が危害を加えようと試みたり、または男として色香を放ち、その肌に触れた者を対象として、お前の力を解放し、攻撃するのだ。それ以外は、この、今私がかけた監禁魔法で、お前は愛衣奈の体の中でその力を封じられる事になる。私は家族のためなら、非情な男だ。愛衣奈が十六才になるまで、残念ながら、お前はずっとこのままなのだよ」



フェルマーはそう言い、愛衣奈の胸元から手を離す。すると、その手のあった肌に、光り輝く六芒星が記されていた。それは、彼女の胸の奥に吸い込まれる様に、消えていった。


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