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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その319裏ノ裏

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未だ私はこの薄暗い地下牢の中にいる。

裸眼らがんよ。

彼らはこのまま、滅びの一途を辿る。

私達がまたひとつに戻るのも良し。

このまま、それぞれの在り方を見つめ、ここから更なる悟りを開いて歩み進めるのも、決して悪い選択ではない。

しかし、神仏侯エンゲルシスの存在も、この星に置いて役割を終えたのかも知れない。

私達はこの地に留まり、住人達がかつてそうであった様な、人の理を問い、求め、苦慮しながらも歩み進めていく姿を密かに期待していた。

だが、この様に常々争い事を起こし、無益な殺生を好み、盲目的に星を再び破滅の道へと押し進めるのならば、手を貸さず、ただそれを傍観し続けるのもひとつの選択だ。

この場所に同じ絆を示す者達が集い、新たなる集落を築いても、幾度も負の連鎖を描く者達が多くなった。

人とは、実に愚かな者だと、改めて気づかされる。

だが、その争い事の中で、この先々、一筋の光を照らす可能性があった事は、忘れてはならない。

その者は、もうじきに息絶えるであろう。

実に不思議な色を放つ者であった。

悲しみに囚われながらも、目の奥に見せる生命の輝きは衰えを見せなかった。

あの様な者がまた、この世界に多く姿を見せるのなら、裸眼よ。

多くの神仏侯もこの星での姿を取り戻し、彼らのために力を注ぐ事だろう。

だが、今はもう時既に遅し。














心眼しんがん、最早その存在は消え失せたか。

お前はこの星に住み着く住人達の生き様を、どの様に心に捉えたか?

この星の住民達は、誰ひとり極楽浄土へは辿り着けぬ。

地獄へ落ち、未来永劫、業火に焼かれ苦しむ姿が目に浮かぶのだ。

負の感情を奪い、己を顧みる時間を与えてはみたが、彼らは何も学びはしない。

彼らに何を期待する事が出来ようか。

私利私欲に溺れ、その身を滅ぼす姿は、まるで低俗な悪魔の様だ。

最早、見放されても仕方のない事だ。










裸眼よ、この地にまた、心の闇も白く染め上げ、業火に焼かれるその身すら清めるほどの、雪というものが還る日は訪れるのだろうか。

私は、あれが好きだ。

雪沓ゆきぐつを履き、様相の変えた慣れぬ長い雪道を進みながら、男と女、そしてその子が白い息を浮かばせながら、私達に両手を添え、願いを伝えていた。

その姿が、今も忘れる事なく、この心に残り続けている。

時に厳しく生き様を問う事もあるが、あの様なものは、この地域に生きる者ならば、必要にもなろう。

特に、今は尚更。

もうこの星に私達の様にこの地に残り、住人達を見守る神仏侯は、そう多くはいるまい。

そして、やがて全て…消える事になろう。

私達も、そのひとりとなるか?



私は、崩壊前のこの星が好きだ。



そして、この星に住む者達も。



だから、本当はこの星を、この先も見守り続ける事を望んでいた。
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