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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その288
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小鈴は、俺の言葉をかき消す様に、雄叫びを上げて、両手で勢いよくビンタで圧死させようとしてきた。
油断したせいか、それとも、雄叫びに少し気圧されたかはわからないけど、足の裏が地面に張りついたみたいに、うまく動かない。
パァアアンッ!!
俺はとっさに小鈴のビンタを、片膝を折って地面につけ、何とかかわした。
俺の頭の上で鳴り響くビンタの破裂音が、耳にやけに響いて、冷や汗をかかせてくる。
まだ力が有り余っている?
無尽蔵のクソ魔力が魔闘石から流れているから?
さっきの白い手といい、魔闘石は本当に気味が悪い。
魔闘石は、魔力が含まれている物と組み合わせると、それを身につけている奴に魔力を流す仕組みなのかも知れないけど、魔闘石自体も魔力を得る事によって、意思のある変なバケモノに育つんじゃないのか?
魔力をどのくらい魔闘石自体が手に入れているのかはわからない。ただ、オーロフ族を家の主人として、奴隷にした東角猫族を使って、毎日魔力の源となるものを探させ、運んで来させているのは事実だろう?
それなら、どの魔闘石も意思を持つ危険なものに育っている可能性はある。
特に、天守層の奴らのは、そうなっている気がする。
「こんのぉぉ…。リョウマ族!?」
「残念だったな。期待して両手を開いてみたのに、蚊みたいに俺の顔が潰れてなくて」
お前も意外と、持っている技が少ないんだな。それとも、技を使うほどの体力は残っていないのか?
「私は…」
「ようやく、思い出したか?」
「私は…!」
「!?」
「無敵の、小鈴だぁあはっっ!!」
「おお、そうかよ…!?」
メルシィーニ、こいつは自分ではっきり言ったぞ。
小鈴だそうだ。
もう、これ以上、何を言う事がある?
「お前なんかに!お前なんかに負ける訳がないだはっ!」
負けていない…?
そうか…。
お前はうらやましい奴だ。
自分が負けていないって、言えるのは。
俺は、自分に負けている。
誰に勝とうとも、きっと自分に勝てずにいる。
自分が重荷だ…。
でも、お前も自分に勝てなかった。
だから、そのざまだ。
自分に勝てなかった同士の決戦といくか?
「耳障りな声も、お前を殺せば消えるだはっ!」
メルシィーニの声はお前に呼びかけている。
それでも、お前はその声を耳障りだと言うんだ。
お前だって、母親はいただろう。その母親に、耳障りな声だとか言われたら、悲しくはないのか?
…。
そんな気持ちなんか、微塵もないか。
考えるだけムダ、だよな?
お前にとって、どうでもいい事だった。
もう、いい…。
さあ、戦いの続きを…。
やろうか。
「!?」
何だ?
また、違う景色に連れていかれる気配がある。
俺に力を宿してくれた東角猫族の記憶の景色。
まだ何かあるのか?
「…!?」
小鈴が俺を睨んで、一歩踏み出してきた。そして、右拳を後ろに引く。その動きが急速に遅くなり、そして仕舞いには全ての動きが止まる。
周りの奴らも同じく。
時間が止まったんだ。
それに合わせる様に景色がかすれていき、全て消えていった。
一瞬、真っ白の空間に染まったその後、火炙りでもして浮かび上がる絵の様に、じわりじわりと塗り替えられた景色が広がっていった。
灯籠が一定間隔で置かれている、薄暗い建物にいる。廊下が長く続き、その左右に部屋がいくつもありそうな大きい建物。灯籠の明かりで焦げ色のついた上品そうな壁が照らされているのを見ていると、住む人を選ぶ伝統の建物って感じがする。
何か見覚えがありそうな建物だ。
そうか。
ここは東角猫族達のいた屋敷の中だろう。
この廊下をもう少し進むと、オーロフ族が北に向かう時に同行しろという要請を、東角猫族が話し合っていた大広間があったはずだ。
ボソボソ…。
壁の向こう側から、何か話し声が聞こえるぞ。
「だから、この毛を取ってよ…」
「ああ、はいはい。わかったよ。動かないでおくれよ」
「茶色い毛が、何でこんな場所に生えるの?」
「後ろの腰に薄く生えただけさ。でも、わざわざ周りに言う必要はないからね?」
「わかってるよ。でも、何だか、お母ちゃん、うれしそうだね?」
「そんな事はないさ。気にしないでいいのさ。メルシィーニはメルシィーニなんだから。何も変わらないよ」
「うん」
「ほら、取れたからね。もう大丈夫だ」
「ありがとう、お母ちゃん」
多分、幼い頃のメルシィーニと母親の小鈴だろうな。腰辺りに変な毛が生えたから取ってもらったって?それが何なんだ?
そんな事、俺に伝えるためにここに飛ばしたのか??
ちょっと、しっかりしてくれよ。
正直、場所をやたら動かされると、頭が混乱するんだ。
霧蔵や右京の時もそうだったし、それが意味のあるものばかりだったから、今までは受け入れてきた…けど。
「!?」
あ、やばい。いつの間にか俺の近くに誰かいた!
隠れないと…!?
いや、俺は相手から見えていないよな?
過去の場所だから、俺の存在がわかるはずがないもんな。
近くにいた奴、体調が悪そうだな。ゆっくりと立ち上がって、長い廊下をふらふらと歩いていこうとしている。
白い耳が頭の上にピンと立っているから、東角猫族か。
当然だな。東角猫族の家なんだから。
しかし、肩につくかつかないかの銀髪が、綺麗に揺れている。少し眠たそうな目をしているけど、こいつの目、何て言うか。こいつ男だよな?俺とあまり年が変わらない様に見えるけど、顔立ちといい、何て色気がある奴なんだ。
俺、次に生まれ変わったら、東角猫族にしておいた方がいいのかな…。
「!?」
え?
いや、偶然だよな…。
俺の前を通って歩いていく東角猫族、一瞬、俺の方に目を向けた様な気がした。
見える訳がないからな。
そう言えば、前にこの辺りの場所に飛ばされた時、外の木の上にいたゼドケフラーの成獣と目が合ったよな。
それも、さすがに偶然…だよな?
そうだよな。
何の断りもなくこんな場所にいるのが見えたら、何なんだこいつ程度のレベルじゃないからな。
ムダに冷や汗かいちまう。
「…貴方には、この俺がどう見えているのかな」
「!!?」
勘違い…じゃないのか?
どうして…?
はあっ…。
はあっ…。
まさか、見えているのか?
何で…。
見えたんだ!?
油断したせいか、それとも、雄叫びに少し気圧されたかはわからないけど、足の裏が地面に張りついたみたいに、うまく動かない。
パァアアンッ!!
俺はとっさに小鈴のビンタを、片膝を折って地面につけ、何とかかわした。
俺の頭の上で鳴り響くビンタの破裂音が、耳にやけに響いて、冷や汗をかかせてくる。
まだ力が有り余っている?
無尽蔵のクソ魔力が魔闘石から流れているから?
さっきの白い手といい、魔闘石は本当に気味が悪い。
魔闘石は、魔力が含まれている物と組み合わせると、それを身につけている奴に魔力を流す仕組みなのかも知れないけど、魔闘石自体も魔力を得る事によって、意思のある変なバケモノに育つんじゃないのか?
魔力をどのくらい魔闘石自体が手に入れているのかはわからない。ただ、オーロフ族を家の主人として、奴隷にした東角猫族を使って、毎日魔力の源となるものを探させ、運んで来させているのは事実だろう?
それなら、どの魔闘石も意思を持つ危険なものに育っている可能性はある。
特に、天守層の奴らのは、そうなっている気がする。
「こんのぉぉ…。リョウマ族!?」
「残念だったな。期待して両手を開いてみたのに、蚊みたいに俺の顔が潰れてなくて」
お前も意外と、持っている技が少ないんだな。それとも、技を使うほどの体力は残っていないのか?
「私は…」
「ようやく、思い出したか?」
「私は…!」
「!?」
「無敵の、小鈴だぁあはっっ!!」
「おお、そうかよ…!?」
メルシィーニ、こいつは自分ではっきり言ったぞ。
小鈴だそうだ。
もう、これ以上、何を言う事がある?
「お前なんかに!お前なんかに負ける訳がないだはっ!」
負けていない…?
そうか…。
お前はうらやましい奴だ。
自分が負けていないって、言えるのは。
俺は、自分に負けている。
誰に勝とうとも、きっと自分に勝てずにいる。
自分が重荷だ…。
でも、お前も自分に勝てなかった。
だから、そのざまだ。
自分に勝てなかった同士の決戦といくか?
「耳障りな声も、お前を殺せば消えるだはっ!」
メルシィーニの声はお前に呼びかけている。
それでも、お前はその声を耳障りだと言うんだ。
お前だって、母親はいただろう。その母親に、耳障りな声だとか言われたら、悲しくはないのか?
…。
そんな気持ちなんか、微塵もないか。
考えるだけムダ、だよな?
お前にとって、どうでもいい事だった。
もう、いい…。
さあ、戦いの続きを…。
やろうか。
「!?」
何だ?
また、違う景色に連れていかれる気配がある。
俺に力を宿してくれた東角猫族の記憶の景色。
まだ何かあるのか?
「…!?」
小鈴が俺を睨んで、一歩踏み出してきた。そして、右拳を後ろに引く。その動きが急速に遅くなり、そして仕舞いには全ての動きが止まる。
周りの奴らも同じく。
時間が止まったんだ。
それに合わせる様に景色がかすれていき、全て消えていった。
一瞬、真っ白の空間に染まったその後、火炙りでもして浮かび上がる絵の様に、じわりじわりと塗り替えられた景色が広がっていった。
灯籠が一定間隔で置かれている、薄暗い建物にいる。廊下が長く続き、その左右に部屋がいくつもありそうな大きい建物。灯籠の明かりで焦げ色のついた上品そうな壁が照らされているのを見ていると、住む人を選ぶ伝統の建物って感じがする。
何か見覚えがありそうな建物だ。
そうか。
ここは東角猫族達のいた屋敷の中だろう。
この廊下をもう少し進むと、オーロフ族が北に向かう時に同行しろという要請を、東角猫族が話し合っていた大広間があったはずだ。
ボソボソ…。
壁の向こう側から、何か話し声が聞こえるぞ。
「だから、この毛を取ってよ…」
「ああ、はいはい。わかったよ。動かないでおくれよ」
「茶色い毛が、何でこんな場所に生えるの?」
「後ろの腰に薄く生えただけさ。でも、わざわざ周りに言う必要はないからね?」
「わかってるよ。でも、何だか、お母ちゃん、うれしそうだね?」
「そんな事はないさ。気にしないでいいのさ。メルシィーニはメルシィーニなんだから。何も変わらないよ」
「うん」
「ほら、取れたからね。もう大丈夫だ」
「ありがとう、お母ちゃん」
多分、幼い頃のメルシィーニと母親の小鈴だろうな。腰辺りに変な毛が生えたから取ってもらったって?それが何なんだ?
そんな事、俺に伝えるためにここに飛ばしたのか??
ちょっと、しっかりしてくれよ。
正直、場所をやたら動かされると、頭が混乱するんだ。
霧蔵や右京の時もそうだったし、それが意味のあるものばかりだったから、今までは受け入れてきた…けど。
「!?」
あ、やばい。いつの間にか俺の近くに誰かいた!
隠れないと…!?
いや、俺は相手から見えていないよな?
過去の場所だから、俺の存在がわかるはずがないもんな。
近くにいた奴、体調が悪そうだな。ゆっくりと立ち上がって、長い廊下をふらふらと歩いていこうとしている。
白い耳が頭の上にピンと立っているから、東角猫族か。
当然だな。東角猫族の家なんだから。
しかし、肩につくかつかないかの銀髪が、綺麗に揺れている。少し眠たそうな目をしているけど、こいつの目、何て言うか。こいつ男だよな?俺とあまり年が変わらない様に見えるけど、顔立ちといい、何て色気がある奴なんだ。
俺、次に生まれ変わったら、東角猫族にしておいた方がいいのかな…。
「!?」
え?
いや、偶然だよな…。
俺の前を通って歩いていく東角猫族、一瞬、俺の方に目を向けた様な気がした。
見える訳がないからな。
そう言えば、前にこの辺りの場所に飛ばされた時、外の木の上にいたゼドケフラーの成獣と目が合ったよな。
それも、さすがに偶然…だよな?
そうだよな。
何の断りもなくこんな場所にいるのが見えたら、何なんだこいつ程度のレベルじゃないからな。
ムダに冷や汗かいちまう。
「…貴方には、この俺がどう見えているのかな」
「!!?」
勘違い…じゃないのか?
どうして…?
はあっ…。
はあっ…。
まさか、見えているのか?
何で…。
見えたんだ!?
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