とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

sayure

文字の大きさ
上 下
401 / 472
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その288

しおりを挟む
小鈴ショウレイは、俺の言葉をかき消す様に、雄叫びを上げて、両手で勢いよくビンタで圧死させようとしてきた。

油断したせいか、それとも、雄叫びに少し気圧されたかはわからないけど、足の裏が地面に張りついたみたいに、うまく動かない。



パァアアンッ!!



俺はとっさに小鈴のビンタを、片膝を折って地面につけ、何とかかわした。

俺の頭の上で鳴り響くビンタの破裂音が、耳にやけに響いて、冷や汗をかかせてくる。

まだ力が有り余っている?

無尽蔵のクソ魔力が魔闘石ロワから流れているから?

さっきの白い手といい、魔闘石は本当に気味が悪い。

魔闘石は、魔力が含まれている物と組み合わせると、それを身につけている奴に魔力を流す仕組みなのかも知れないけど、魔闘石自体も魔力を得る事によって、意思のある変なバケモノに育つんじゃないのか?

魔力をどのくらい魔闘石自体が手に入れているのかはわからない。ただ、オーロフ族を家の主人として、奴隷にした東角猫トーニャ族を使って、毎日魔力の源となるものを探させ、運んで来させているのは事実だろう?

それなら、どの魔闘石も意思を持つ危険なものに育っている可能性はある。

特に、天守層の奴らのは、そうなっている気がする。



「こんのぉぉ…。リョウマ族!?」



「残念だったな。期待して両手を開いてみたのに、蚊みたいに俺の顔が潰れてなくて」



お前も意外と、持っている技が少ないんだな。それとも、技を使うほどの体力は残っていないのか?



「私は…」



「ようやく、思い出したか?」



「私は…!」



「!?」



「無敵の、小鈴だぁあはっっ!!」



「おお、そうかよ…!?」



メルシィーニ、こいつは自分ではっきり言ったぞ。

小鈴だそうだ。

もう、これ以上、何を言う事がある?



「お前なんかに!お前なんかに負ける訳がないだはっ!」



負けていない…?

そうか…。



お前はうらやましい奴だ。

自分が負けていないって、言えるのは。

俺は、自分に負けている。

誰に勝とうとも、きっと自分に勝てずにいる。

自分が重荷だ…。

でも、お前も自分に勝てなかった。

だから、そのざまだ。

自分に勝てなかった同士の決戦といくか?



「耳障りな声も、お前を殺せば消えるだはっ!」



メルシィーニの声はお前に呼びかけている。

それでも、お前はその声を耳障りだと言うんだ。

お前だって、母親はいただろう。その母親に、耳障りな声だとか言われたら、悲しくはないのか?



…。



そんな気持ちなんか、微塵もないか。

考えるだけムダ、だよな?

お前にとって、どうでもいい事だった。

もう、いい…。

さあ、戦いの続きを…。

やろうか。



「!?」



何だ?

また、違う景色に連れていかれる気配がある。

俺に力を宿してくれた東角猫族の記憶の景色。

まだ何かあるのか?



「…!?」



小鈴が俺を睨んで、一歩踏み出してきた。そして、右拳を後ろに引く。その動きが急速に遅くなり、そして仕舞いには全ての動きが止まる。

周りの奴らも同じく。

時間が止まったんだ。

それに合わせる様に景色がかすれていき、全て消えていった。

一瞬、真っ白の空間に染まったその後、火炙りでもして浮かび上がる絵の様に、じわりじわりと塗り替えられた景色が広がっていった。

灯籠が一定間隔で置かれている、薄暗い建物にいる。廊下が長く続き、その左右に部屋がいくつもありそうな大きい建物。灯籠の明かりで焦げ色のついた上品そうな壁が照らされているのを見ていると、住む人を選ぶ伝統の建物って感じがする。

何か見覚えがありそうな建物だ。

そうか。

ここは東角猫族達のいた屋敷の中だろう。

この廊下をもう少し進むと、オーロフ族が北に向かう時に同行しろという要請を、東角猫族が話し合っていた大広間があったはずだ。



ボソボソ…。



壁の向こう側から、何か話し声が聞こえるぞ。



「だから、この毛を取ってよ…」



「ああ、はいはい。わかったよ。動かないでおくれよ」



「茶色い毛が、何でこんな場所に生えるの?」



「後ろの腰に薄く生えただけさ。でも、わざわざ周りに言う必要はないからね?」



「わかってるよ。でも、何だか、お母ちゃん、うれしそうだね?」



「そんな事はないさ。気にしないでいいのさ。メルシィーニはメルシィーニなんだから。何も変わらないよ」



「うん」



「ほら、取れたからね。もう大丈夫だ」



「ありがとう、お母ちゃん」



多分、幼い頃のメルシィーニと母親の小鈴だろうな。腰辺りに変な毛が生えたから取ってもらったって?それが何なんだ?

そんな事、俺に伝えるためにここに飛ばしたのか??

ちょっと、しっかりしてくれよ。

正直、場所をやたら動かされると、頭が混乱するんだ。

霧蔵や右京の時もそうだったし、それが意味のあるものばかりだったから、今までは受け入れてきた…けど。



「!?」



あ、やばい。いつの間にか俺の近くに誰かいた!

隠れないと…!?

いや、俺は相手から見えていないよな?

過去の場所だから、俺の存在がわかるはずがないもんな。

近くにいた奴、体調が悪そうだな。ゆっくりと立ち上がって、長い廊下をふらふらと歩いていこうとしている。

白い耳が頭の上にピンと立っているから、東角猫族か。

当然だな。東角猫族の家なんだから。

しかし、肩につくかつかないかの銀髪が、綺麗に揺れている。少し眠たそうな目をしているけど、こいつの目、何て言うか。こいつ男だよな?俺とあまり年が変わらない様に見えるけど、顔立ちといい、何て色気がある奴なんだ。

俺、次に生まれ変わったら、東角猫族にしておいた方がいいのかな…。



「!?」



え?

いや、偶然だよな…。

俺の前を通って歩いていく東角猫族、一瞬、俺の方に目を向けた様な気がした。

見える訳がないからな。

そう言えば、前にこの辺りの場所に飛ばされた時、外の木の上にいたゼドケフラーの成獣と目が合ったよな。

それも、さすがに偶然…だよな?

そうだよな。

何の断りもなくこんな場所にいるのが見えたら、何なんだこいつ程度のレベルじゃないからな。

ムダに冷や汗かいちまう。



「…貴方には、この俺がどう見えているのかな」



「!!?」



勘違い…じゃないのか?

どうして…?



はあっ…。



はあっ…。



まさか、見えているのか?



何で…。

見えたんだ!?





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...