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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その285

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「どうした?そんなもんかよ、お前のケンカってよ」



ケンカ?

ケンカだって…?



「おい、有栖ありすぅ。お前に気があるんじゃねえのか?だからお前を庇ったんだよ。いい小遣い稼ぎができそうじゃねえか。なあ、矢倉やぐら?」



何、言ってやがるんだ…。



ドボッ!



「ぐぅうっ!」



い、痛え…!

そ、そうか。これは俺が中2の時、上級生のカスに絡まれていた香川を助けようとした時の事…か。

休憩時間の学校の廊下。先生や他の生徒の奴らは見て見ぬフリだったよな。

そんなもんだ。

自分から災難に飛び込んだ奴を、助けるなんて事はしないだろうからな。

そんな事をしたら、命がいくつあっても足りない。

そうだよな。

それが、正解。

だけどな、香川の家が貧乏になったのは、香川のせいか?

俺の家は別に貧乏じゃない。

だけど、うちが他の家よりも恵まれていると思った事はない。

うちの家の誰が、笑顔を見せた事があるって言うんだ?

父さんはいつも不満そうな顔して、そして俺に対して鬼の形相で怒っていた。

そんな父さんは、母さんに対しては、まるで空気と変わらない様に存在をあまり気にしていない様だった。

母さんは、俺にたまに笑顔を見せようとした時もあったけど、それは笑顔とは言わない。

だって、心が笑っていないって、すぐにわかったから。

母さんは家の中で、空気に徹していた。

そんなうちの事を、不仲な家族だって、偽物だって言われたら、きっと俺は気が狂いそうなほど怒って、相手に殴りかかっただろうな。

香川だって、貧乏だなんて事、他人から言われたくもないよな。

香川は女なんだ。そして、誰かに対して傷つけたりなんかはしていないし、できもしない。無害だろうが。

あのカスは、一方的に臭いとか、貧乏人だとか言って香川に絡んで、髪を引っ張ったり、足を蹴ったりしてた。

だから、見ていてイライラしたんだ。

不思議と、まるで俺がやられている様な気になった。

だけど、ケンカ腰で振る舞う様な奴相手に、俺がケンカで勝てはしないよな。



…。



いや、俺は確か、このケンカに勝ったんだ。

そうだ。

そして、俺は香川に嫌われた。

誰もこんな事頼んでいないって。

冷静に考えたら、そうなんだよな。

香川が狙われたら、俺のせいになる。

俺は、自分の気が晴れればいいって、そんな自分都合で行動してしまったのかも知れない。

きっと。

だから、香川は俺を睨みつけて去っていった。

このケンカで、親が学校に呼び出され、その夜、俺は父さんに死にそうになるくらいに殴られたな。

とても痛くて。

涙が出た。

その拳に、愛情はない。

そう、俺の気持ちなんて、誰にもわかりはしない。

父さんはきっと、そのまま俺を殴り殺しても惜しくはないと思っていたんだろうな。

家族に恥をかかせた罰として、気が済むまで殴られた。

まるで、敵だよ…。

自分の家に、敵がいる。





こんな事、思い出したくもない。

今、俺は息がほとんどできなくなって、体が砂袋背負ったみたいに重たくなって、誇闘会ことうかい小鈴ショウレイにいい様に殴られて、死にそうになっているはずだよな。

もう、俺はあの世に行くんだろう。

イヤな走馬灯だな。

死ぬ間際に見るやつだよな。

もっと、幸せな瞬間を見せてくれよ。

幸せな瞬間…。

そうか、

俺にそんな瞬間なんてなかったのか。

それなら、それでいい。

笑顔のなかった矢倉家に…。

俺は。

最後に、

笑顔で死んでいってやる。

バイバイ、矢倉家。

バイバイ…。

矢倉郁人やぐらいくと





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