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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その269

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どんなにクズだとしても、自分の子供の前で恥を晒すな。

どんな時でも、偉大であれ。

そんな親の背中を見て、未来に期待して生きているんだ。

きっと、俺も生きられる。

同じ血を引いている俺だから、と。



「おめえ見てると、腹立ってくるんだ…!私の拳が軽いって言ってるみたいでよ」



眉間にしわ寄せて俺を睨みつけてそう言った小鈴ショウレイに、俺は無意識に笑った。

そうだよな。

お前の言う通り、お前の拳は軽い。

どんな時にも力の加減を知らないお前は、まるで大きい赤ちゃんだ。

そんなお前の軽い拳をもらっても、ききはしない。



「左目と口から血を流してる小せぇ赤ちゃんが、生意気な顔してるだはっ!お前、次の攻撃で絶対に殺すからなっ!?」



「おおよ、殺してみせろよ…。てめえには、何の躊躇いもねえだろうからな?」



「だはっ?」



「てめえの子を躊躇いもなく殺せるんだ、もうお前に失うものなんかねえだろうよ…!」



小鈴の目が、獣を狩る様な猟奇的な目に変わった。キレたな、こいつ。

どうせ、何か侮辱されたかぐらいにしか思ってねえんだろう?

来いよ…!俺はお前にもう、人間を求めちゃいない。

獣として、倒してやる。



「殺すだはっ!!」



小鈴!?目の前で拳を振り上げて思いっきり殴ってくるのかと思ったら、こいつフェイントを入れやがった。

でかい体をしながら、意外と機敏な動きのすり足で俺の後ろに回り込んだ!?

俺の見えていない左目の方から回り込んだせいで、動きがよくわからない。

後ろに気配を感じるんだ。俺は後ろを取られた、それならすぐに振り向かないといけない!



「!?」



またなのか?また、俺の心の奥底からゼドケフラーの怒りが込み上げてくる。

お前の感情は邪魔だ!

また、小鈴の姿が父さんに変えられたら。

もう相手になんかしたくない。

何で、親と戦わなくちゃいけないんだ…。



「だははっ!死ねぇえっ!!」



ビュゥウンッ!!



うっ!反応が遅れた!?

ダメだ、このままだとやられるっ!!
























ここは何処だ…?



また、景色が飛んだ。



さっきとは違って、竹林に囲まれた場所じゃなく、解放された様に何処までも草原が遠くまで広がっている…。



「お前も、東角猫トーニャ族の血を引く1人として、誰にも弱みを見せてはならぬ」



結構高齢そうな白髪の長い頭髪と顎髭を生やした男が立っている。

体が鍛え抜かれているのか、がっちりしてるな。

両目が豆電球みたいに少し光ってる様に感じるのは気のせいか?

頭の上にピンと白い獣耳が立っている。多分、東角猫族なんだろう。



「こら、お前は話を聞いているのか!誇りを失えば、自信の無さが相手に伝わり、途端にお前は狩られる側の弱者に変わる」



また俺は、俺に力を宿してくれた人の体に入っているんだな。

その人の記憶が見せているんだ。



「私は視界を失った…。それでも、心の目は今もお前を捉えている。お前が勝ち誇った様に親指を立てているのも、見えている」



俺が体に入っているのは、東角猫族だ。目の前の高齢の東角猫族を見上げている。前よりもっと幼い頃の東角猫族か。



「心の目は、実際の目で見る視界と繋ぐ事ができる。もし戦で目が見えずとも、決して心折れる事なく、平静を保ち、風の声を聞き、風に触れ、心の目を遥か遠い空の彼方までと、視界を広げる様にするのだ」



心の目を…。



「怒りなど、一時的な感情に過ぎない。そこに囚われていては、何事も見通せないのだ。お前は泣き、喚き、怒り、ヘソを曲げるのが得意だが、その負の感情を相手に知られた時に、致命的な隙が生まれる」



怒りなんて、どうしようもなく沸き起こってくる時もあるんだ、抑え方なんて…よくわからない。

そんなに俺は人生を長く生きていない。

急に大人になんかなれる訳がないだろう。



「お前はまだ若い。そんなお前にこの様な話をしてみても、実際には心に砂のひと握りも届いてはいないだろう。だから、お前に先程言った様な、目を失う様な危機が訪れた時に、心でこう呟くと良い…」



目の前の高齢の東角猫族は、続けて不思議な言葉を言ってきた。

何か、呪文みたいな、なんて事のない、普通の言葉にも思える。



「散々、厳しい事も言ってきたが、お前には特に期待している。桜雅おうがの三騎士として戦ってきたこのヘルオークゥ、少しばかり衰えを感じてきたわ…」



「後継者が欲しい…」



そのヘルオークゥって人の最後の言葉に、俺が体の中に入った東角猫族は、首を縦に振っていないな。

まだ戦える。

後継者なんて必要ない、と。

ヘルオークゥって人に絶対的な信頼を置いているんだな。














「だははっ!死ねえっ!!」



「はっ!?」



急にまた戻ってきた。

そして、振り向き様に飛んでくる小鈴の拳!

このまま動けないと、まともに小鈴の攻撃を受ける!!それはまずい!

少しでも、攻撃をかわせっ!!



ガキィィンッ!



「ぐあっ!」



何とか横に飛び退いたんだ。それでも完全にかわしきれないから、大剣でガードまでもしたのに、何て衝撃だ…。まるで大きな鉄球でも体に受けたみてえだ。



ガシャンッ。



手が痺れて、大剣なんか持っていられない。剣を落としても、拾い上げる力なんかない。

まだ体全体が麻痺していて、何処をやられたのかわからない…。



「だははっ!まだ生きていたか!?生意気な小せぇ赤ちゃんがっ!だけど、次の攻撃で死にそうだな?」



肩や腕が痛い。胸も呼吸をすると疼く気がする。

浅くてもいい、ゆっくりと呼吸をして、体の回復を待つんだ。

右目だけでも、相手を牽制する生きた目を向けろ。何かあるんじゃないかと思わせる様な。



「何だあ?この小鈴と、まだ戦えるつもりかあ?強がりなのは、見てわかるだはっ!」



「いいパンチしてるじゃねえか…。じゃあ、次はキックか?そうはいかねえよな…?」



「だはっ?」



「キックは得意じゃなさそうだからな。そいつはムリだ、わかってるんだよ…」



人差し指、中指…。

親指。

指は動く様になった。

なら、剣はまだ持って戦えるか?

全身に鈍い痛みが広がっていくけど、動けない訳じゃない。

良かった、致命的な傷は負っていない。

足はどうだ?

足は動きそうだけど、足の指はまだ痺れている気がする。

体だけじゃない、俺はまだ何とかしないといけないものがある。

俺の心にまとわりつくゼドケフラーの怒りを何とかしないと。

お前は、景色が2回飛んだ時にいたあのゼドケフラーの幼獣だ。

感じる雰囲気がとても似ている。

俺が首に打たれた吹き矢に、お前の怨念がこもっていたのか?

死んでも死にきれない深い怨みが、俺の体を使ってそれを果たそうとしているのか?

相手が違うのに、それはお前にとって何を意味するんだ?

お前は、この誇闘会ことうかいで闘っていた東角猫族のミュルカにも自分の怨みを被せた。

そして、パルンガにも…?

それで本当にお前の怨みが晴らせると、そう思っているんだな?



「いいぞ!小鈴!そのリョウマ族を殺せ!」



「お前が東角猫族最強だ、やっちまえ!」



外野がうるせえな。ごちゃごちゃと。

お…前ら、全員、死んじまえ。

俺は、この世界の全てが、いらねえんだよ。

こんな星…。

全て、、、








落ち着けッ!

こんな怒りに身を任せて、何になる!

俺は、俺だ。

お前の、ゼドケフラーの怒りになんか、負けねえぞ…!



「だははっ!なぶり殺しにしてやるっ!」



こいつ!左足を横に踏み込みやがったな?

また俺の見えない左目から回り込んで殴る気だな!?

そうだ。さっきの桜雅の三騎士の、ヘルオークゥが言っていた言葉を試そう…!

心の視界を左目を中心に、もっと遠くまで広げる…。

右目が見えているんだ、その視界を見ながらだから意識しやすいだろう。

風を…感じて。

そして…。

くそっ!

邪魔するんじゃねぇ、ゼドケフラー!!

お前の怒りは邪魔なんだ…!



「だははっ!!」



ザザザザザッ…!



ヘルオークゥが言った呪文…。



アスカベラ、アルカント、アルカムト、



アスカベラ、アルカント、アルカムト…。



炎となって俺の体に入り込み、力を宿してくれた東角猫族…!

あんたが俺に見せたあの景色、あの後でヘルオークゥの言葉を真摯に受け止めて、少しでもものにしていれば、俺もまた、成功率が上がるはずだ。



アスカベラ、アルカント、アルカムト!



「だは??」



「うぉおおお…ッ!」



動け!俺の足!!



動けよぉおっ!!



グクッ…。



ググッ!



「よしっ!!」



ダッ!!



「…バカな!?何で追って来れる!」



そうだ、小鈴!!

俺の左目は…見えているッ!



くらえ、小鈴!!



俺の頭の中で、力を宿してくれた人の記憶が回る!

素手の状態でお前を倒す技は…。

これだ!!



九鳴猫クメナ拳術…」



お前の体の中心部まで衝撃は伸びていく…。

これが、手のひらの衝撃!!



崩芯掌底把ほうしんしょうていは!!」
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