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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その230

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宝酷城ほうこくじょうの地下1階の牢屋の中。

また、ここに戻ってきた。

パルンガとこの城に招かれて、その後に離れ離れにされた時、ここで監禁された。

あのクソオーロフ族達。執拗に顔や胸、腹を殴る蹴るしやがって。

全身が痛い。

それ以上に、首の切り傷がズキズキと痛む。

鎖骨に溜まり、流れ落ちるものは汗じゃない。首の傷口からの血。

そのせいか、少し意識が朦朧としてくる。

手当てをしないと、このままだと俺は。

死んじまう。

あの時、シブの事を気にせずに逃げていれば、浮浪殲滅部隊に捕まらずに、こんな場所にも連れて来られず、俺は助かったのかも知れない。

だけど。

俺が中学の時に後悔していた事を、少しは取り返せた様な気がした。

お前は暮梨くれなしじゃないけど、シブ。お前と暮梨が、被って見えたんだ。

なあ、シブ。

俺、少しは助けになったか?

俺がお前の顔に隠れ布を被せて、周りから見えない様にしてあげたら。

少し。

お前は。

うれしそうにした。

シブが、俺の思ってる通りの奴なら。

きっと。



ふうっ…。



暮梨にもう一度。

もう遅いのかも知れない。

時間は都合良く戻ってはくれないからな。

でも、いつの日か。

お前がお菓子を作り続けているなら、必ず買いに行ってやるよ。



たくさん…。



買って、や…。



る。


から、な…。



な。



…。



でも。



もう、ここまで…か。









「まだ、貴方は死んではならない…」



「!?」



人の気配なんかなかったのに。何処から現れたんだ、こいつ…。



「ゆっくりと呼吸をしてごらん。大丈夫だから…」



「痛っ…!」



「大丈夫だ。ゆっくりと呼吸をして。そして、私の名前を思い出してごらん。ほら、記憶の扉はすぐ目の前にある」



呼吸をすれば、首の傷口が疼くんだよ。痛くて、痛くて、仕方がねえ…。

傷口が、さ。



「黒い灯籠は破壊されてはいない様だ。それも仕方がない事なのかも知れない。私のこの存在は城中、街中の住人の頭の中から消えたまま。私を見つけたとしても、いつの間にか再び、この存在は消える」



「…でも、私が存在を示せば、その者の頭の中に私の存在は蘇る。さぁ、私は誰かな?」



深い霧の中に手を突っ込む様に、本当に手探りだ。でも、俺も何処かこいつを求めている様な気もする。

不思議と、心と体が癒えていく。



「前に私と出会った時は、貴方は私に己の名はテテと語ったな。それは今も変わらないか?」



そうか。そう言ったのかもな。少なくとも、この世界での矢倉郁人やぐらいくとは、俺みたいな弱虫の事じゃない。

俺は、その名前を語るには、荷が重過ぎる。

俺はテテくらいの名前でいい。



「ああ。そうだよ」



「そうか。では、再びよろしく、テテ」



「…!?」



頭の中で、急に深い霧が晴れていく様な気がした。そして導かれる様に、アンタの存在がわかる場所に吸い込まれていく。ほら、すぐそこに。アンタがわかる。



「…心眼しんがんか?」



「そうだ。思い出した様だね」



そうだ。確かに、黒い灯籠が壊れたらな、みたいな事を言ってたな。この城の外にいる奴が、俺に手も貸せるからとか言っていた様な気がする。



「前に、俺が何で空を飛ばないのかとか言ってたよな?それが、意味がわからなかったんだけど…」



「貴方の体の記憶は、何者かによって封印されているのかも知れない。運命の扉が開かれるその時まで、その話はしないでおこう」



体の記憶…?何だ、それ。




「さあ、胸元にある紙片を私に見せてみて。ハムカンデによる魔法を解除してあげよう」



「え!?本当か?」



そう言えば、俺。

傷が塞がってないか?

この人、何者だ。

何で、こんな事。



「はい」



「それでは…」



ペタッ。



「この紙片越しで私から貴方に流す僅かな魔力で、ハムカンデが施したこの街との不可解な因果は消滅する」



「ほら、貴方は自由となった…」



体から、イヤな気怠さが抜けていく気がする。これは、ハムカンデの彫魔法ジェルタが解除された瞬間なのか?



「ここで一つ、貴方に頼みがある。黒い灯籠を破壊して欲しいのだ」



「心眼、アンタが自由になる番、そういう事か?」



「…そういう事だ」



消札けしふだでハムカンデの彫魔法を解除してくれたお礼をするべきだよな。でも、それによって、何かひどい事にはならないよな?

体も治してくれたんだ。こいつは悪い奴じゃない。

大丈夫だよな。



「貴方がこの牢屋から離れ、城の外に連れ出される頃には、恐らくまた、私の事を忘れる。それが、今この私の身が守られている故でもある。それでも、黒い灯籠の破壊の事は、覚えている事もあるだろう。その時は、実行に移して欲しい」



「また、忘れるのか?何でそうなるんだ?」



「私は、この街のあらゆる者達から稀有な存在となっている事だろう」



「え?何かあるのか?」



「そのうちにわかる事だが、今は敢えて伏せておこう。だが、私は貴方の敵などでは決してない。その事は忘れないで欲しい」



いや、忘れるんだろ?アンタの存在も。



「さあ、貴方の元へ1人やってくる。私はまた、存在を消すとしよう…」







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