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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その209
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「この場所を現住の種族から奪うために、100年分くらいは戦ったのではないか。奴らは腕が折れ、足が折れ、骨が皮膚を突き破り、傷口から夥しい血が川の様に流れ出しても、僅かにでも体が動くとわかれば、殺意剥き出しに何度でも襲いかかってきた」
「特に、心身共に疲弊させられた相手は、神仏侯だ。その圧倒的な強さ。手塩をかけて育てた我が浮浪殲滅部隊の精鋭達も、無数に繰り出される斬手技によって、為す術もなく、葬り去られた」
「だが、オーロフ族がかつて盗み出した物の中に、悪魔の剣ボルオロンなるものがあってな。その刃は神仏侯の側で不吉な悲鳴を上げるのだ。奥の手として出したその剣、神仏侯に致命的な一撃とまではいかなかったが、顔に初めて苦悶の表情が窺い知れた。余程その悍ましい声が苦手と見える。結果、神仏侯に深手を与え、その時は退ける事に成功した。しかし、我らがこの場所を奪い、街の建設に着手した後も、幾度も神仏侯は現れ、その度、苦戦を強いられ、さらなる犠牲者を出す事になったのだ」
神仏侯?
強敵だったのは間違いないんだろうけど、それでもこいつらは生き残ったのか。
しぶといのは、お前らもだろう。
しかし、いつまでこんな昔話聞かせられるんだよ。
早く、明かりを戻してくれよ。
暗いと不安で仕方がない…。
「宝酷城の周りに配置した灯籠はな、本来は朱色なのだよ。そして、この城は元々5階建てを目指したものではない。地下と1階を建設し、周りに灯籠を置いて、神仏侯との幾多の戦いに嫌気が差したのもあり、和解を目指して、この城を神仏侯の居住地にしようと提案したのだ。灯籠は神仏侯を尊重する証として置いたものだった」
何?神仏侯は、神か?
まさか、妙に難しい言葉使って、俺の前に度々現れる奴じゃないよな?
神か仏が言いそうな感じの事を言っていた様な。でも、いつも怒ってるし、俺を脅す様な事ばかり言ってたよな。
じゃあ、違う…か?
うーん。
そう言えば、誰か黒い灯籠をどうのって言ってたな。
忘れた。
誰が言ってたんだったかな?
「その神仏侯は我らの言葉に耳を貸そうとせず、繰り出す攻撃の手を止めようとはしなかった。だが、その心にも、光と影は存在していたのだろう。悪魔の剣ボルオロンの奇声に浸かり、疲弊した神仏侯の心は、悲鳴を上げる寸前だったに違いない。葛藤の中で、平静を保つ穏やかな善の如き顔、そして怒り狂う鬼と化した悪の如き顔、その両面が同時に現れ、二極化する心の悲鳴に引き裂かれる様に、実体をも二分させていった」
神の心を壊したって事か?
こいつ、俺に出した問題、何となく真実をかすってそうだな。
1問目の剣客7人って、誰の事だ?
浮浪殲滅部隊の事?
2人が城を抜けていったとか言ったよな?
なら、残りは5人…。
5人と言えば。
まさか、黒眼五人衆の事じゃないよな?
「それが何を指し示すのかは、見ていてもわからなかった。結果的に、悪魔の剣ボルオロンは神仏侯を二分化させたが、力尽きた様にその剣身は粉々に砕けてしまった。しかし、ボルオロンの呪いとも言うべきか、城の周りに置かれた灯籠は黒く染まり、神仏侯の力は無に帰したのだ」
「神仏侯の悲哀の涙なのか、それとも憤怒の矢なのか、空からは飽く事もなく、血の雨が何日も、何日も降り続けた。そして、その雨がようやく上がった時、空による処刑が幕を開ける事となる。怒りに任せて暴力的な行動に出た者に対する、感情の搾取が行われる様になったのだ」
監視の空は、その神仏侯の力か?バカな奴らだ、自ら首を絞める様な事を。
だけど、神仏侯の力はなくなったんだろ?空の監視は、神仏侯の力というのなら、何で無に帰したなんて言い方したんだ?
「神仏侯は、今何処にいるんだ?」
「一体は消え、もう一体は無力な存在となったが、また力を取り戻す事を恐れ、この城の地下へ監禁した。そのはずだったが、今はその存在が消え、何処に行ったのかわからない…」
「いや、きっと燃え上がる空に成り変わり、怒りの目をこの街に向けている。その事実を、誰も関連づけたくないだけなのかも知れない」
じゃあ、赤い空は、この場所を乗っ取り、生活するオーロフ族達への復讐の機会を狙っている神仏侯そのものって事か?
感情を取られるのは、報いなんだな。
きっと、永遠にオーロフ族の街なんかにはなれないんだ。
この街に、未来なんかない。
そう、元々ここはお前達の住処じゃないんだから。
「特に、心身共に疲弊させられた相手は、神仏侯だ。その圧倒的な強さ。手塩をかけて育てた我が浮浪殲滅部隊の精鋭達も、無数に繰り出される斬手技によって、為す術もなく、葬り去られた」
「だが、オーロフ族がかつて盗み出した物の中に、悪魔の剣ボルオロンなるものがあってな。その刃は神仏侯の側で不吉な悲鳴を上げるのだ。奥の手として出したその剣、神仏侯に致命的な一撃とまではいかなかったが、顔に初めて苦悶の表情が窺い知れた。余程その悍ましい声が苦手と見える。結果、神仏侯に深手を与え、その時は退ける事に成功した。しかし、我らがこの場所を奪い、街の建設に着手した後も、幾度も神仏侯は現れ、その度、苦戦を強いられ、さらなる犠牲者を出す事になったのだ」
神仏侯?
強敵だったのは間違いないんだろうけど、それでもこいつらは生き残ったのか。
しぶといのは、お前らもだろう。
しかし、いつまでこんな昔話聞かせられるんだよ。
早く、明かりを戻してくれよ。
暗いと不安で仕方がない…。
「宝酷城の周りに配置した灯籠はな、本来は朱色なのだよ。そして、この城は元々5階建てを目指したものではない。地下と1階を建設し、周りに灯籠を置いて、神仏侯との幾多の戦いに嫌気が差したのもあり、和解を目指して、この城を神仏侯の居住地にしようと提案したのだ。灯籠は神仏侯を尊重する証として置いたものだった」
何?神仏侯は、神か?
まさか、妙に難しい言葉使って、俺の前に度々現れる奴じゃないよな?
神か仏が言いそうな感じの事を言っていた様な。でも、いつも怒ってるし、俺を脅す様な事ばかり言ってたよな。
じゃあ、違う…か?
うーん。
そう言えば、誰か黒い灯籠をどうのって言ってたな。
忘れた。
誰が言ってたんだったかな?
「その神仏侯は我らの言葉に耳を貸そうとせず、繰り出す攻撃の手を止めようとはしなかった。だが、その心にも、光と影は存在していたのだろう。悪魔の剣ボルオロンの奇声に浸かり、疲弊した神仏侯の心は、悲鳴を上げる寸前だったに違いない。葛藤の中で、平静を保つ穏やかな善の如き顔、そして怒り狂う鬼と化した悪の如き顔、その両面が同時に現れ、二極化する心の悲鳴に引き裂かれる様に、実体をも二分させていった」
神の心を壊したって事か?
こいつ、俺に出した問題、何となく真実をかすってそうだな。
1問目の剣客7人って、誰の事だ?
浮浪殲滅部隊の事?
2人が城を抜けていったとか言ったよな?
なら、残りは5人…。
5人と言えば。
まさか、黒眼五人衆の事じゃないよな?
「それが何を指し示すのかは、見ていてもわからなかった。結果的に、悪魔の剣ボルオロンは神仏侯を二分化させたが、力尽きた様にその剣身は粉々に砕けてしまった。しかし、ボルオロンの呪いとも言うべきか、城の周りに置かれた灯籠は黒く染まり、神仏侯の力は無に帰したのだ」
「神仏侯の悲哀の涙なのか、それとも憤怒の矢なのか、空からは飽く事もなく、血の雨が何日も、何日も降り続けた。そして、その雨がようやく上がった時、空による処刑が幕を開ける事となる。怒りに任せて暴力的な行動に出た者に対する、感情の搾取が行われる様になったのだ」
監視の空は、その神仏侯の力か?バカな奴らだ、自ら首を絞める様な事を。
だけど、神仏侯の力はなくなったんだろ?空の監視は、神仏侯の力というのなら、何で無に帰したなんて言い方したんだ?
「神仏侯は、今何処にいるんだ?」
「一体は消え、もう一体は無力な存在となったが、また力を取り戻す事を恐れ、この城の地下へ監禁した。そのはずだったが、今はその存在が消え、何処に行ったのかわからない…」
「いや、きっと燃え上がる空に成り変わり、怒りの目をこの街に向けている。その事実を、誰も関連づけたくないだけなのかも知れない」
じゃあ、赤い空は、この場所を乗っ取り、生活するオーロフ族達への復讐の機会を狙っている神仏侯そのものって事か?
感情を取られるのは、報いなんだな。
きっと、永遠にオーロフ族の街なんかにはなれないんだ。
この街に、未来なんかない。
そう、元々ここはお前達の住処じゃないんだから。
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