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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その184

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あれ?

俺は今、ボルティアの部屋の中じゃなかったか?

部屋中に黒い霧が立ち込めている?違う、ここは建物の中じゃない。

黒い霧で空も覆われているけど、屋外にいるという事だけはわかる。空気の流れを感じる。

そして、近くから俺の周りをぼんやりとした明かりが照らしているおかげで、動けないほど真っ暗という訳でもない。

ボルティアの部屋にある風呂に入って、その後…。

また鎧を着直して、外へ出たんだ。

何でだ?

…。

わからない。



『?』



方向ははっきりとわからないけど、近くに人の気配を感じる。

多分、1人か。

こういう幻惑みたいなものを俺に見せてくるのは。裸眼がまた現れたとしか、考えられない。

でも、多分、それは間違っている。

裸眼とは雰囲気が全く違う。

気分の悪い奴と接した時の様な、胸にイヤな感覚がある。



『おい、誰かいるのか?』



俺の手元に大剣がない。何処に置いたんだ?ボルティアの外に出たのに、大剣を持たずに出たなんて、自殺行為だ。でも、全く思い出せない。

何処かで声が聞こえる。

まさか、俺に何か言ってんのか?

声が聞こえるけど…。

でも、音だか、声だかよくわからないな。

低く響く音に近いのか?



『おい、誰かいるんじゃないのか?返事をしてくれよ!』



気味が悪いな。気配は明らかに感じるのに、姿を現そうとしない。同じ場所をじっと留まって、こっちを窺っている気がする。まさか、俺を殺そうと隠れているのか?だとしたら、このまま俺が場所を変えないと、殺される。移動するのも恐いけど、でも、動かずに待つのはいい方法じゃないだろう。すぐにでも移動するか。

地面はまるで絨毯の上でも歩いてる様に、歩いても、足音ひとつ鳴らない。

固くもなく、柔らかくもない地面。

何か夢の中にでもいる様だ。俺の感覚が妙に鈍い。

でも、はっきり夢とも感じないところが厄介だ。いっその事、夢であってくれた方がいいのに。



…。



聞こえる声の正体は誰なんだ?でも、この声は、唸り声に近いな。はっきりとした言葉は聞こえてこない。しかし、この唸り声の響き方だと、発してる体の大きさは巨人どころの騒ぎじゃない様な気がする。

よく耳を澄ますと、声だけじゃなく、巨大な何かが這っている様な音もしてるな。

同じ方向から聞こえる。

まさか、巨大な蛇でも這ってないだろうな。俺、結構苦手なのに。



『ケケケ…!』



…奇妙に笑ったな。くそっ、恐いじゃねえか。俺は素手なのに、いきなり現れて襲いかかられたら、どう戦えばいいんだよ。

殴り合いのケンカに持ち込むか?それしかないだろうな。勝てる見込みなんかない様な気がするけど。

いや、やっぱり逃げよう。戦うに見合う価値がないなら、逃げるに限る。



『ケケケ…!』



聞こえてくる奇妙な笑い声は、低い位置から聞こえてくるな。小人が笑ってんのか?

さっきよりも、だいぶ声が近くに感じてきたぞ。

少し覗いておくか。姿を確認していないと、それもまた不安だ。でも、いざとなったら逃げよう。



『ケケケ…!』



この黒い霧のすぐ向こう側にいる。ケケケじゃねえんだよ。どういう育てられ方したら、そんな笑い声できんだよ。大人になったら性格曲がって、そういう笑い声にでもなんのかな。

学校の先生らも、ようく考えたらそんな笑い方してた様な気がする。自分が誇らしくてたまらないんだろうな。



『ケケケ…!』



あ、背中が見え…た。

これがしゃべってたのか?

それ自体が俺に気づいて、振り返った時にわかった。

軽快に跳ねながら笑うそれは、人間の形をしていない。

1mの長さの丸太を人の様に彫った物。そう、木彫りのこけしと同じ。

これは、生き物なのか?



『ケケケ…!』



『こいつ、もしかして…?』



この人相…。

まさか、ハムカンデ?

よく似てるな…。



ズズ…ズ!



『ケケ?ケー!!』



ハムカンデこけしの向こう側でまた地面を這う音が聞こえて、ハムカンデこけしがそっちを気にして、慌てて逃げていった。

何か恐ろしいものでもいるのか?

少しずつ黒い霧が晴れて、明るくなってきたかな。視界が広がって、それだけでも少しでも落ち着ける。

だけど、それは相手にとって、俺を見つけやすくなるって事じゃないのか?

巨大な何かが這う音がまた聞こえた。

晴れようとしている霧の向こう側で、巨大な蛇が俺を睨んでいたら…。

俺はどうすればいい?

俺をこの場所に呼び寄せたのは、そいつか?
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