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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その183

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同じ道を何回か往復しながらも、無事ボルティアの宿に着く事ができた。あの後、視界の悪い夜道の中、うまくシブと出くわさずにここまで来れたのは幸運だったな。

このボルティア、一度精算終えて出てるから、当然パルンガと一緒に入った時とは違う部屋になるのかと思っていたけど、やはりその通り。地下2階の部屋から、1階の301になったのはありがたい。

いちいち螺旋階段を使って昇り降りしなくてもいいからな。

ハムカンデがここの宿を払うという話のはずだけど、その話は通っていないみたいだ。だからと言って、じゃあいいですって野宿を選択するのはまずい。この街で野宿なんて、まな板に乗った生魚と同じだからな。ただひたすら、さばかれるのを待つだけだ。

問題はお金だけど、ここは後払いだし、もしかしたら、ハムカンデが後から払ってくれるのかも知れない。

最悪、お金はいざとなったら、この鎧を売って払うとしよう。

黒眼こくがん五人衆の奴らのおかげで傷物だけどな。

301の部屋にはベッドが1つ、だけどシャワー室だけじゃなくて、風呂までついていた。丁度いい。これで少しは疲れが取れる。だけど、少し色のついた水が出るのは前に泊まった部屋と同じだ。



ガチャッ、ガチャッ。



足部の鎧を外して足を解放。足首が妙に赤い。鎧姿で全力疾走を何回やったかな。ふくらはぎも少し腫れてないか?風呂に入って癒さないと。

そう思って上の鎧も脱いでいくと、軽快な音と共に電子枠が目の前に現れた。

そういえば、パルンガとの伝言魔法使えてたのを忘れてた。心配していた割には、肝心な事を忘れるなんて。



えーと。



『森の中でベルダイザーを見つけたんだど。そして、倒せた。でも、また暗い部屋の中で、ベルダイザーじゃない…。テテ、オデはどうすればいいのか?』



くそっ。パルンガ、少し正気を失ってんのか?でも、まだ生きているのが確認できただけでも良かったな。俺がパルンガを要求しているのをハムカンデは知っているだろうし、殺すはずはないのはわかっていたけど。

まだあの城に監禁されたままなんだろうな。



「アルテリンコ・ブイ」



俺と別れて部屋に入れられたままだろうけど、意識をしっかり持て。俺は今、城から出ている。誰からも監禁されていないから、後はお前を助けるだけだ。明日、必ずお前を助けに行くから、待ってろよ、と。

パルンガ、自分を見失うんじゃねえぞ。



ガチャッ。



ゴトッ。



ガチャンッ。



シブに刀で斬られた時、鎧の下にある鎖は切れてなかったけど、鎖越しに刀の威力で胸に一筋の傷ができて、血が滲んでいる。

感情を抑えながら刀を使っていたのに、さすが殺人に慣れてるだけあるな。力が制限されない中での戦いなら、俺は死んでただろうな。



バフッ。



ベッドが柔らかい。少し埃臭いけど、あまり客が来ていないみたいだから、それは仕方がないか。



ピロリーン!



あ、きたきた!



『テテ、やっぱり優しいど。オデ、待ってるからな。テテ来るの、待ってるど!』



ああ、待っとけよ。俺は必ずお前を助ける。

だって、俺がメルシィーニに殺されそうになった時、お前は俺の所に来てくれたじゃねえか。お前には関係なかったのによ。

俺はお前に会った時、誰も信用なんてできなくて、お前にひどい事を言ったよな。

そんな俺を、お前はいい人って言ってくれて、助けに来てくれた。

俺はその事、忘れてないからよ。

お前は、必ず俺が助けてやる。
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