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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その180

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黒い家の中、呆然と天井を見上げたオーロフ族をよそに、黒眼こくがん五人衆の1人、シブが板床をギシギシと踏み鳴らして、右に左にと飛び回る。部屋の左右にある行灯の明かりで、シブの影が伸び縮みしたり、本体と違う動きをする様にも見える。

何をそんなにうれしそうに笑ってやがるんだ。俺をあざ笑ってるつもりなのか。動きで撹乱されて、俺の目が泳いででもいて、それが見苦しくておもしろいのか?



「キャハハッ!もっとよく目を見開いて私を追ってみなよ?まだ余興程度の動きなんだからさぁ!」



余裕を持って、ヘタに感情を高ぶらせずに刀を振れば、赤い空に感情を取られない?だからわざとヘラヘラ笑って戦おうとしてんのか?



「その剣の構え方で合ってるんかなぁ?それで、私の攻撃を防ぐ事ができるんかなあ?試してみようじゃないか?ねえ、試してみようよぉ…?」



タンッ!タタンッ!



タンッ!



「もっと必死になりなよぉ。ほら、私はここだよぉ?」



何だ、こいつは。冷静になって考えると、俺はそこまでお前の動きに惑わされてはいない。そうだよな?何とか目はついていってるはずだ。



「じゃあ、いくよ?お前の体を刻み込んでいくからねぇ…!」



タンッ!



タタンッ!



左右に飛び跳ねて、たまに宙返り、よくもクルクルと回れるもんだな。そんなんで、まともに刀が振れるものかよ。



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



「っとお!」



危ねえ!?こいつ、左から右に飛び跳ねながら刀を器用に振ってきやがった。ただ、気持ちがそこまで入っていないのか、振り自体はムダがなく、速かったけど、何とか防げないほどじゃない。

俺が今日、グラッチェリと接近戦で力試しをしたおかげもあるのかな。思った以上にうまく対応できた様な気がする。



「キャハハッ!よく防いだよねぇ?でも、そういうところから、徐々に自信を喪失していくんよ?私と戦う相手はいつもそう。まだ、これからだからねえ?油断はしないでいきましょうよぉ?」



カタッ!



タタンッ!



カタッ!



「!?」



こいつ、行灯を揺らした?不安定にぐらつかせて、その揺れた明かりでシブの影が異常に笑って壁に投影されてやがる!こいつの動きがわかりづらくなったぞ!?



「ほらほらぁ、どうしたの?私の姿を追うお前の視線は、致命的なほどずれ始めているんよぉ?死ぬよ、そのままだと。死んじゃうんよぉ!?」



戸惑うな。よく見るんだ、シブの影に騙されるな。



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



くそっ。今、シブの攻撃を防げたのはまぐれに近い。大剣の構えを少し変えたところにたまたま当たっただけだ。

このままだと、やられる。



「キャハハッ!よく防げたねえ?いいよぉ、お前はお利口さんよなぁ。でも、お前の絶望はこれから始まるんよ?」



ダメだ、このまま受け身のままだと、圧されるだけだ。



スッ。



「キャハハッ!少し後ろを窺ったよなぁ?この部屋から、この家から逃げようとしてるんかなぁ?そんな隙はもう、あげないからねぇ?私はそこまでお人好しじゃないんよなぁ。じゃあ、いくよぉ?」



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



行灯がしっかりと地についている。よく目を見開いてシブの動きを見れば、今のままの攻撃なら、防げないほどじゃない。また、行灯を揺らされたら、わからなくなるけど。

そうなる前に、俺も攻撃に出るしかない。相手は非情な殺人集団、黒眼五人衆だ。垣間見える無邪気な様子に騙されない様にしないと。実力は、明らかに俺よりは上なんだ。甘く見ると、痛い目に合う。



「シブ、その攻撃を止めるつもりはないんだな?」



「そうよ?ねぇ、今さら気づいても遅いんよ?ずっとそう。ようやくわかったんかなぁ?」



ヒュンッ!



タタッ!



「え?」



そう何度も同じ軌道の振り方して、俺に当てられると思ったのかよ。めでたい頭してるな。今度は完全にかわせたぞ。



ブォンッ!



カキンッ!



「キャハハッ!その感情のままで攻撃するんは、危険な事じゃないんかなぁ?空に感情を取られて廃人にならなきゃいいけどねぇ。ほら、そこにいるオーロフ族みたいにさぁ?」



不安をあおる事を言いながら戦うのが、こいつの手なんだな。



「それはお前もそうなんじゃないのか?笑っていられなくなったら、お前もそのオーロフ族と同じ表情になるんだよ。よく見ておけよな」



本腰入れて攻撃できないのはお互い様って事だ。いや、実力が上なのに、ごまかして戦うシブの方が不利なんじゃないのか?相手を苛立たせるのは、俺も不得意じゃないからな。せいぜい冷静さを保ってみてくれよ。



「私を手玉に取ろうとしてるんかなぁ?やれるものなら、やって見せてよぉ」



「手玉に取ろうとしてねえよ。もう、とっくに手玉に取ってるんだよ、包帯!わかったか?」



おっと、額の包帯がピクンと動いたな?癇に障った様だな。そんなもんだよ。お前は怒りやすそうだもんな?



「そろそろ、決着をつけようねぇ?私の事、二度とバカにできない様にしてあげるからねぇ…」



「何か言ったか?」



口元はまだ笑ってるけど、目が殺気立ってるのがわかる。やっぱり単純な奴なんだよ、このシブは。

飛んだり跳ねたりは、止めたみたいだな。だけど、そこが少し不気味な気もするけど。

気配が少し変わった。相変わらずヘラヘラ笑っているけど、目に見えない圧力が増した様にも思える。これは気のせいか?

今、シブが刀の握る力を少し緩めた。何かさっきと様子が違うな。



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



「ほら、次が来るよぉ?」



ヒュンッ!



カキッ!



「く…!?」



「危なかったねぇ?でも、よく防いだ。でも、次はどうなんかなぁ?もっと、神経注いだ方がいいのかも知れないねぇ」



何だ、こいつの攻撃は。攻撃を防いでから次の攻撃が以上に早過ぎる。何かを変えた?どう変えたんだ?



「ほら、ちゃんと剣を構えなよぉ?お前に余裕なんてないって事を教えてあげるからねぇ?」



「…」



「キャハハッ!私に大口叩いてみせたんだから、今頃後悔なんてしても遅いんよなぁ。それでも、して見せる?」



「何をだよ…?」



「お前みたいな口だけ男が得意なものだよ…」



「あ?」



「…命乞いさ」



「!!?」



「得意だろう?」



俺がそれをしたおかげで、どれだけ自分を見失ったか、わかりもしないで。

いっその事、死んだ方がマシだと思うくらいに。

それをヘラヘラと笑いながら。

よくも言いやがったな…。



「目の色が変わったねぇ?図星なんかなぁ。お前相応の行為なんよ、それ。似合ってるって…」



くそ…。だけど、ここで奴のペースには乗るな。それこそ、奴の思うツボだ。

悔しいけど、ここは生き残るのを優先にする。



「じゃあ、お前もその包帯が似合ってるって事でいいよな?顔が隠れて便利そうだ…」



どうだ?イラついた顔してんな。それはお互い様だけどな。癇に障っただろう?それは俺もだよ。何でも言えばいいってもんじゃねえんだよ。

お前が先に、感情を取られちまえよ。



「キャハハッ!口だけは互角か?」



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



「次ッ!」



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



「ほら、すぐに構え直さないと間に合わないんよ?」



カキンッ!



「遅いってばぁ!」



カキッ!



「くっ!」



まずい、シブの反撃の早さが増して、対応が間に合わない。



ヒュンッ!



ヒュンッ!



ヒュンッ!



ガキッ!



くそっ!肩を斬られたッ!鎧の下まではやられていないか?

こいつ、刀を剣で打ち返してるのに、反撃が以上に早過ぎる。



「ほらっ、次だよ!」



ヒュンッ!



「!?」



カキンッ!



「ほら、構えが遅いんよ!」



そうか!

こいつ、剣で弾かれた時に、刀の握り方を瞬時に変えてやがる!

反撃を少しでも早くするために、弾かれた刀の衝撃を受け流しながら、そしてその勢いを利用する様にして刀を振ってきている。

まるで、壁に思いっきり投げつけたボールがそのままはね返ってくる様に。



ガキュッ!



「ぐっあッ!」



「キャハハッ!鎧の胸元をやられた様だねぇ?でも、まだ傷は浅い。ねえ、これからなんよ?絶望を味わうのは」



ヒュンッ!



「ま、待て…よッ!」



ガキッ!



「!?」



ヒュンッ!



「ぐっ!」



ガキッ!



「剣で防いでも、息を吐く間に電光石火の攻撃が幾度もその身を襲う…」



ヒュンッ!



「くおっ!」



ダメだ、このままじゃ…殺される!



ガッ!



「これこそ、我が秘技、変幻稲妻斬りなのさッ!」



ヒュンッ!



「ま、待て…!」



バキュッ!



「ぐはぁッ!」
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