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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その178

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あれ?

おかしいな。

曲がる道を間違えたかな。もう、ボルティアが見えてもいいと思うんだけど。

黒い家ばかり揃えてるから、紛らわしいんだよな。俺がわかりやすい様にこの大剣で家の形を少し変えてやろうかな。

いや、八つ当たりは良くないよな。

また少し道を戻って確認してみよう。白い看板の位置とかを確認すれば、区別はできるはずだ。



「うっ!?」



何だ…?

空に高く、赤い線が伸びていった。

そうか。

誰かが怒って、空に感情を取られたんだな。

赤い線は、すぐ近くから空に伸びた。

感情を取られたらそいつはどんな状態になるのか。俺も全く関係ない話とは思えないし、知っておきたい。そのためには、まず見ておくのが一番だよな。でも、その場所に近づき過ぎて、厄介な事に巻き込まれても仕方がない。

今の状態でも、十分に巻き込まれてはいるけど。

戸が大きく開いて、明かりが道に広がっている。あの黒い家から、赤い線は伸びたんだ。

周りには誰もいない。少し覗いてみようかな。

感情が抜かれれば、この街の入り口にいた顔の門みたいな感じになるんだろうけど、あれは人だか何だかわからないからな。あれじゃ、よくわからない。

感情を抜かれたのは、オーロフ族か?それとも、東角猫トーニャ族?

オーロフ族が東角猫族を怒り過ぎて感情を取られたと考えるのが、普通じゃないかな。

多分、そうだ。

戸が開き放しなのは、東角猫族が帰ってすぐに怒られたから?

魔力を持って帰れなかった、または帰る時間が遅かったからとか。

あまり近づくと気づかれるかな?



「!?」



戸から離れた奥の部屋で、誰かが倒れている?

いや、床に肘をついて倒れ切ってはいない様だな。だけど、顔が虚ろそうだな。

ん?

髪が蛇みたいにうねってるな。妙に太い髪の毛だ。本当に蛇の髪じゃないよな?動いてないから、それはないよな。

胸から何かの装置が見える。少し青く見える結晶が、魔闘石ロワなんだろう。

部屋には、他に誰も…。

いなさそうな気もするけど。

家にいた東角猫族は驚いて逃げていったのかな。

ザッ…。

感情を抜かれたのは、オーロフ族だ。近くに寄って見ると、大きな体で筋肉質だ。こんなに強そうなオーロフ族がいたんだな。しかし、体の色が悪い。血が通っていないみたいな灰色をしている。何を食べたらこうなるんだ?

呆然とした目をして、口からよだれを垂らしている。まるで廃人だ。空に感情を抜かれると、もうこの先、ずっとこの状態が続くのか?

ヘタに怒ったりもできないけど、それはこの街にとって、この世界にとって幸せな事になるのか?怒らなければ、争わないし、この世界みたいに星が壊れる事もない。

それでも、怒りは人の感情の一部でもあるからな。不要に思えて、意外に重要な気もするけど。

この世界にとってはいい事なのか?



「ぐ…が、が」



何かをしゃべってる?何をしゃべろうとしてるんだ。

大丈夫かな?近づいたら、いきなり噛みついてきたりしないだろうな。



「おい、大丈夫か…?」



うっ!?何だ、この臭いは!

何かが腐った臭いがする。

このオーロフ族の男の体からじゃない。何処からこの臭いがするんだ?この部屋のさらに奥の方からか?



バンッ!!



「わっ!?」



急に戸が閉まった!まずい、早くこの家から出ないと!



「動くなよぉ?まだもう少しは生きていたいと思うものだよねぇ?」



「あ…」



家の内側の壁に張りついて、俺の様子を窺っていやがった。



「私を追って来た勇気だけは認めてあげるよ…」



「俺は、別に…!」



「この街で黒眼こくがん五人衆の動きを詮索する事は、即ち死を意味するのさぁ。ねぇ、お兄ちゃん。ここで私と戦うんよ?そこにいるオーロフ族みたいに、空に感情を抜かれるまで、戦おうねえ?」



黒眼五人衆のシブ!?ついてねえ。こいつの後をつけるつもりなんてなかったのに。俺に矛先が向いてんのはわかっていたのに。



「何で、俺はお前と戦わなくちゃならないんだよ。別に、この家から出ていけばいいだけだろう」



「…そう事は簡単にはいかないのさぁ」



何でだ?そうか、俺を逆恨みしているから、俺を殺すきっかけを探していたって事なんだな。



「そのオーロフ族に何かしたのか?」



「その目に見えたままさ。まだ生きてる…。それ以上でも、以下でもない」



「じゃあ、俺はこの家を出る。それでいいだろう」



このオーロフ族は感情を抜かれた。この後、どうなるのかはわからない。もしかしたら、殺す気なのかも知れない。

このオーロフ族、人相は悪い。正直、善人とは思えない。なら、悪人同士、どうなっても俺が関わるべきじゃない。

俺はここで死ぬ訳にはいかないんだ。



「その戸に手を掛けた瞬間、お前は…死ぬ」



ぐぬぬ…。この包帯ぐるぐるちゃんは、何でこんなに根が深いんだ。もういいだろう。お前の顔のケガなんて、何とも思っていないんだからさ。



「俺は、明後日にハムカンデの目の前で力試しをして、奴の下で働くかも知れないんだぞ?俺に手を出したら、ハムカンデに怒られるんじゃないのか?」



絶対にあり得ない話だけど、この場をしのぐには仕方がない。



「キャハハ…。ここで質問さ。ハムカンデ様の種族は、何だと思う?」



「え?オーロフ族…だろ?」



「そこに倒れかかっている男は、何族だと思うんかな?」



こいつ。別に俺に何でも知らせようとしなくても、この場をごまかしてお互いに去る事もできたんじゃないのか?まるで、そこのオーロフ族を空に感情を抜かれる様に仕向けたのは自分だとても言いたげじゃないか。



「さあね。古球磨ごくま族なんじゃないのか?」



「へえ?私と同族と見たんか、お前。いいよぉ?私らに逆らってくるなんて、勇気があって楽しくなるねぇ。殺したくなるのさ…」



もういい加減、嫌気が差してきたな。早くこの場から去りたいけど、こいつは許してくれそうもないし、そもそも、力で及ばないし、戦ってすぐに感情を抜かれて廃人になるのもお断りだ。



「わかったよ、俺が悪かったよ。だから、許してくれよ…」



「私の顔のケガを気持ち悪がった事を認めて、今さら謝ってきたんか?楽しいねえ…。ますます、殺したくなってくるんよ。そういうのってさぁ」



「え?」



「この家の屋根には、家の中でのある程度の怒りの感情を空に知られない魔法が仕掛けられているんよ。だから、うまく戦えば、感情を空に取られる事はないんよ。それが、お前にできるかなぁ?」



「俺は…」



「このオーロフ族は、魔力を摂取し過ぎて、自分の奴隷すら見境なしに殺して暴走していたんよ。いずれ、古球磨族の脅威となるんは、困るからねぇ…」



「わざと、そのオーロフ族の感情を抜かせた?」



「私らは、まだこの街が必要なんよ。極力、オーロフ族には手は出さない。だけど、私らの脅威となる魔力を蓄えた奴は、その限りじゃないんよさぁ…」



オーロフ族がいつか黒眼五人衆に牙を剥くって思ってるんだな。必要としなくなる日が来るって。

虚しい。そんな関係だったのか、お前らとオーロフ族は。絆も何もない。背中から刺されない様に気にした生活なんて、息苦しくて仕方がないだろう。



「黙っていてなんて言うつもりはないよ、最初から。ここで、死んでいきなって、言っているんよ…」



ハムカンデを盾にする事はできないか。ハムカンデを最初からずっと崇めていなさそうだもんな。まぁ、そんなもんだろう、残忍な一族ってヤツだからな。



カチャッ。



剣を構えた。何とか隙を見て逃げられないか?



「じゃあ、始めようねぇ…?」



くそっ!



「ああ、そうかよ。じゃあ、本当の事言ってやるよ!あの時、お前の包帯が取れた時に、傷痕が見えて思ったんだよ…」



「あい?」



「この世でこんな恐い顔した女は、他にはいねえなってな!お前、恐い映画とかに出た方がたくさん金が稼げるぞ!?」



「お、お前ッ!!?」



バンッ!



ダダダッ!!



ほら、家の外に出たぞ!?鮮やかな赤い空が、お前が怒り狂って刀を振るのを今かと待ち望んでいるみたいだぞ?ほら、来れるもんなら、来てみろよ、クソ化け物が!



「待ちなよぉ、お前!」



ヒィイイイッ!



赤いお空さん、ここですよぉ!鬼は俺のすぐ後ろにいますよ!早く感情を抜いて、彼女の心を清めてあげて下さい!



「待てよ、お前!!」



ダダダッ!!



お空さん!!無視ししないでッ!!

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