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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その167

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あ、足首が痛え!

こんな鉄靴で走るなんて、痛くない訳がない。しもべに、スポーツシューズにでも替えてもらう必要があるな。

そうしたら、逃げ回るつもりかなんて言われそうだよな。

そうだよ、逃げる必要があるんだよ。

俺を百戦錬磨の戦士と見込んでこの世界に呼び寄せたのなら、失敗だぜ。

スニーカーだ。

俺にはスニーカーが必要なんだよ!



ズンッ!ズンッ!



ズンッ!ズンッ!



この巨人の歩く振動が地面を伝って俺の心臓に届く。すると、つられて俺の心臓も壊れそうなくらい高鳴ってくる。

もっと静かに歩け!この非常識迷惑巨人がっ!

街の奴らはこの巨人に気づいてないのか?

もし見えてたら、遠くから総攻撃しても構わないぞ!

ただし、ピンポイントで狙えよ?おおよその位置で飛び道具使ったら、俺まで巻き添え食らうからな。



「!?」



50m先くらいに何かの建物があるな。そして、それを囲む壁。その壁に不自然に張りついている折れた大木が見える。



ズンッ!



ズンッ!



巨人の歩く速度が遅くなった?

あそこの建物までがこの道の行き止まりだから、もう逃げられないと思っての事か?

俺が乗り越えられない壁じゃない、その先まで、ギリギリまで逃げてやる!

でも、あの壁で少しはもたつきそうだ。もっと速く走って、巨人との距離を稼ぐか。



はーっ!



はーっ!



はーっ!



はーっ!



「!?」



巨人が追ってこなくなった!?

様子が変だぞ。

人形みたいに、全く動かなくなった。

追いつけなくて極限の失望に達したんだな。

そして、今度は俺を笑わせるために力を注ぐ訳だ。

茫然自失を体現してみました、か?

ははは、いいぞ。

俺は走りにくい鉄靴で走ったんだからな、そこも忘れるんじゃねえぞ。

あ、今度は両手をついて土下座かな?参りました、って。

えーと、足を一歩引いたな。

何か何処かで見た事がある姿勢だな。

何処だったかな?

あー、そうそう。

陸上だ。

クラウチングスタートとか…。

そんな、名前。



「え…!?」



まずい、走れ!走れ!



ダダダッ!



ドォンッ!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



やっぱり、走ってきやがった!!

あああ、速い!?

くそっ!もう建物の壁は目の前、壁に束ねてくっついたりしてる大木を階段みたいにして駆け上がってれば、何とか追いつかれずにあの壁の内側に!

その後は?

わからない…!

あの中に追ってくれば、戦うまでだ!

俺は巨人と違って、剣を持ってる。俺が負けるなんて決まってる訳じゃねえんだ!



はーっ!



はーっ!



はーっ!



はーっ!



壁の高さは5m足らずだ。このまま走って、壁にある大木を駆け上っていくぞ。

壁は所々壊れてる。その穴を補うために大木がくっついてる様に見えるな。

この壁の囲いの中の建物に、裸眼が住んでるのか?



ズンッ!



ズン…!



ズ…。



「!?」



この巨人、明らかに動きが悪くなったぞ。こいつ、何かの事情でこの壁の向こう側に入れないんじゃないのか?

俺も疲れた…。

あまりムキになって人を追うもんじゃないんだぜ?別に俺に対して、怨みもないだろうが。

俺は、お前に対してできたぞ。

脅かしやがって、走って足が痛くなったじゃねえか。

でも、壁の向こう側に行くとするか。

この巨人が意表を突いて、また追ってき始めないとも限らないからな。



タッ!



タンッ!タンッ!



「へへっ!軽い、軽い。こんな壁、余裕で乗り越えられるぜ」



ターンッ!



ザッ!



くそっ、足が痛えな。まぁこのくらいなら、少し経てばまた治るかな。

しかし、何だここは?

色んな花が綺麗に咲いている。

葬式みたいな街並みから少し外れたこの場所に、心が安らぐ様な場所があるなんてな。

大きな花びらを広げて、たくさんの花が敷地一杯に咲いている。

奥に和風の建物があるな。見覚えがある様な形だ。

あれは多分、神社の拝殿か何かじゃないのかな。大きく開けた部屋は天井からの金銀の装飾が垂れていて、その奥に何か祀ってる様な物が並べられている。

でも、建物の外観は、壁を突き破ってる場所や何かが強く引っ掻いた跡があったり、ボロボロじゃないか。



「ん?」



花畑に人がいる…?

あれ?最初からいたかな?

細長い冠をして、模様の入った白くて高そうな服を着てるな。

首にたくさんの銀装飾…。

誰だ…?



何だ、熱いぞ。

体が熱くなって…。



ボォォオッ!!



ボボボボボボボォーッ!!!



「うわぁあぁっ!!?」



ボォォオオオオッ!!



花畑が一瞬にして火の海に…!?

熱いッ!

俺の背丈ほどまで火柱が立って、周りが見えづらいぞ!?

火に囲まれて、動けない…。

この場所から逃げないといけないのに、花畑だった外側の方が火が強過ぎる様に見える。どうして、こんなに火の回りが早いんだ!?

くそっ!足から火が吹いてる!熱くて焼けただれる!は、早く消さないと!



「!?」



人が近づいてくる!?

あ、熱い!助けてくれよ!?



「聖域に踏み入る悪しき者よ。業火に焼かれ、滅ぶが良い…」



あ、あ…ぁ。



ボォォオォォッ!!



「裸眼…かっ?」



「…これで良かったのかも知れぬ。滅びの扉を叩くお前に、引導を渡すとしよう」



お前はッ、誰なのかって、当ててほしかったんだよな…!?

お前は。



「お前は、街が作られる前からいた、神か仏なんだろ…!?」



「私が誰かなど、もはやどうでも良い…。聖域を穢すお前に、砂一粒の慈悲すら無用だ」



ボォォオッ!!



足の感覚がなくなってきた。も、もう、この足は使いものにならなくなっているのかも知れない…。

足先から火が上がって、膝まできている。このままだと、死ぬ。



「お、お前は、何がしたかったんだ…?俺の前に何度も現れて、俺に何をしてほしかったんだ!?」



「もはや、何一つ語る必要もない。逝くが良い」



ぁ…あ!生きたまま焼かれるなんて、イヤだ!

イヤだ!

死にたくない!!

イヤだっ!



「!?」



「何…?」



地面からたくさんの蔓が伸びて、俺の両足に巻きついていく…!?

逃げられない様に、か?

蔓から大量の水が滴り落ちていく。鎧が高温になっているから、水に反応して金属音が鳴っている。

うう…。



「何者だ…」



また、名前かよ!?テテって名乗ったから、怒ってるのか?もういいだろう、そこまでして、俺の名前を知りたいか?

え?これは…。

蔓の大量の水が俺の周りの火を消していく!?

俺を、許してくれた…?

あ、足の感覚が戻ってきている。

良かった、俺の足はまだ生きている!



「…そうか。ならば、もう用などない。早々に立ち去るが良い」



え?許してくれるのか?

火の海の勢いがなくなっていくぞ。

これなら、出られる。

気が変わらないうちに、ここから立ち去らないと。

俺に何か期待してるのかと思ったけどな。

二度と来ねえよ、胸くそ悪い。

もう二度と、俺の前に現れるんじゃねえぞ!?

蔓が地面に戻っていく。不思議だ…。やけどの痛みがほとんどなくなった。



ザッ!



ザッ!



ザッ!



追ってこなそうだ。良かった…。



「勇者様、死にそうだったねえ?」



「え?」



「周り見回しても見えないよ、イクトちゃん。心の中で話してるんだから」



「しもべ!?しもべなのか!?」



「その名前が定着している事に憤りを覚えるのだよ、勇者くん」



「ゆ、勇者くん?お前も、しっかりバカにしてきてるけどな!」



「冗談だよ、イクトちゃん。隙を見て、イクトちゃんの視界を共有してみたら、どういう訳か、そこは第5大陸だね?」



「おお…。よくわかったな。もしかして、さっき助けてくれたのか?」



「まぁね…」



「もし、そこから第6大陸のギルロ様の城に行こうとしてるのなら、無駄に終わる。いや、むしろ今のイクトちゃんの実力じや、死ぬだけだよ」



「え…?ギルロの体と魂は?」



「ギルロ様を探すなら、真っ先に探す場所だろうと、バカでもわかると思うけどねえ…。もう、私が探し終えてるんだよ。残念でちたね、イクトちゃん!」



あ、ムカつくな、こいつ。てめえの一方的な交渉に応じてやってんのによ。



「勇者様、聞こえるんだよね。口に出しても、心の声で出しても、同じ声として!でも、イクトちゃんにとって、異世界の愉快な旅をしながらギルロ様の体と魂を探して、元に戻すなんて、ちょっとした遊戯なんだから、おもしろいでしょう?」



「愉快だと?ふざけんな!毎回、気分悪い奴らと出会って、死にそうになって、何処が愉快なんだよ!?さっきのも見ただろうが!…ちなみに、ギルロの体と魂、探すだけじゃダメなの?」



「うん。魂が逃げちゃうからね」



「逃げちゃうの??何で?探されたくないの?」



「いや、逃げるというか…。お散歩しちゃうからね」



「え…?」



「いや、大丈夫なのだよ、勇者くん。君はギルロ様の魂を探す事もできるし、見つけたら、特別な事をしなくても、ギルロ様の体に戻せる」



何でだ?前も、それに近い事を言っていた様な気もするけど。

何で、俺が?



「話を戻すと、第6大陸には行かなくてもいいからね。あと、しつこい様だけど、女神アンメイレンには会っちゃダメだからね」



「わかったよ。何だよ、ゴールは近いと思ってたのによ」



「もう時間がないから、行くよ。そう何度も隙を見せてくれないから、またいつ接触できるかもわからないけど、一つ警告しておくからね」



「何だよ?」



「この場所には凶悪な魔力を感じるんだよね。ギルロ様の体と魂が見当たらなさそうなら、早くこの場所を離れるべきだね」



「あ!オーロフ族のハムカンデとか、古球磨ごくま族で黒眼こくがん五人衆の…」



「そんな小さな話じゃないんだよ、イクトちゃん。もっと大きいものを言ってるんだよ…」



「え?小さい…?」



じゃあ、さっきの裸眼…か。あいつ、凶悪なんだな。それはそうだよな、特に何もしてないのに、俺を焼き殺そうとしたんだから。



「先ほどの者でもないよ、イクトちゃん。向こうから会いに来ても、まともに話しちゃ駄目だからね。怒りに駆られた抜け殻が起こしているだけで、会話にならないよ」



「え、そうなの?」



「じゃあねー、勇者様!」



「ああっ!!待てって!?」

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