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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その137

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俺は今すぐこの街を出て、北にある第6大陸への橋を渡る。

そう心に決めた。

決めたと思った瞬間、少し離れた場所から、俺の体を射抜く様な視線を感じる。

ゆっくりと視線の感じる方へ首を回すと、黒い家の続く5軒ほど先の看板の側で腕組みをして立つ東角猫トーニャ族の女。

俺達の動きを先読みして、俺達が宿から出る所を待ち伏せかな?昨日、宿までの行き先を聞いたのが間違いだったか。



「テテ」



これは仕方がないな。昨日の恩を、本人の目の前で突っぱねて、堂々と街を出ていく勇気がない。それに、本当にこの街から出られないとしたら、今のところ、あの女しか頼る人がいないのは事実だ。

でも、あの城に行って、無事に帰って来られる保証はないしな。特に、東角猫族の女の希望は、ハムカンデが東角猫族をこの街周辺から離れられない様にかけた魔法を解く札、それを城から盗めという事なんだ。やれるところまでやっても、ハムカンデに隙がなく、城から手ぶらで帰ってきたとしたら、それでもあの女は俺達が街から出る手助けをしてくれる可能性はあるのか?



「さて、パルンガよ。あの宝酷城ほうこくじょうに招待された、昨日の魔力買取人の家に行くべきか迷うところだけど、どう思う?」



「ど?」



そうだな、俺が夜に魔力買取人の家の前で、その中にいた魔力買取人を装った気味の悪い奴と話をしてた時に、こいつは意味もなく、隣りの家を見てたんだよな。

そうなると、判断するのは俺だよな。

恩を仇で返すのも、俺の主義じゃないか?大して立派な生き様を見せてきたつもりはないけど、最低限の事はしてみせるべきなのかも知れないな。



「パルンガ、あの城に行ってみたいか?」



「わかった、行くど!」



決断が早えな。もう少し考えてから言葉を吐けよな?俺は迷いに迷っているんだからよ。

それでも、覚悟を決めるべきか。



「よし。行くぞ、宝酷城に」



同じ黒い家が立ち並ぶ。だけど、看板がある家、その看板の位置も家ごとに違う。看板も、無記入のものから、名前入りのものまである。

何周か街を回った様な気もするけど、あの顔の門から降りてきた長い階段の下辺りを通った時に、記憶を頼りに魔力買取人の家と感じる場所までたどり着く事ができた。

ずっと、後ろから追ってくる視線がまるでナイフの様だった。裏切るつもりか、恩を仇で返すなと、警告でもするかの様に。

この世界の奴らは、そんな事は日常茶飯なんじゃないのか?

だから、手と手を取って、協力しないんだったかな。

魔力買取人の家の前で、声をかけてみようと思ったら、戸が開き、家の中から体を包帯でぐるぐる巻きにした黒い着物の奴が出てきた。



「!?」



包帯越しから胸元に血が滲んでる。目を見ても、昨日の俺達が知ってる魔力買取人じゃない事は明らかだ。

宝酷城への招待は罠か?



「やあ。約束を反故にしないでよく来てくれたねー。あの宝酷城でハムカンデ様が待ってるよ。さあ、行くとしようか?しかし、久々に直でゼドケフラーが見れて幸せだよー。この街はゼドケフラーのお陰でここまで大きくなったんだからね?」



そうかよ?俺の目には、怨みを募らせて殺気立った気持ちを必死に押し殺した目にしか見えないけどな。

こいつ、ゼドケフラーと何かあったな?

この街で死んだエズアと何かあったのか?



「胸から血が滲んでるけど、大丈夫なの?」



「ああ、心配してくれてるんだね?ありがとう、でも大丈夫だよ。俺は今、不死身に近いからねー。本当だよ、ハムカンデ様のお陰でね」



こいつの体から血の匂いがする。出血していて、重傷なんじゃないのか?それでも、傷を庇う仕草をしている訳じゃなく、しっかりと立っている。包帯の血の匂いが強く漂っているだけか?

腰に刀が差してある。鞘の所々の金具の装飾や、鞘自体の黒い艶の質を見る限り、ものが良さそうな気がする。

こいつ、もしかして結構強いのかもな。

垂れた茶色い耳もなさそうだ。だとすれば、オーロフ族じゃないな?

街中で変な力がかかっていて、誰もが感情を出して斬りかかる事はできないんだったよな?

でも、黒い灯籠の先にある宝酷城の近くでなら、俺やパルンガを斬る事はできる、か。

黒い着物を見ると、どうしても黒眼こくがん五人衆を連想しちまう。

こいつは、メベヘじゃない。背丈や肩幅も違う。こいつはもっと小柄だ。

もちろん、ゲルでもない。こんなにしゃべらないしな。

確か、黒眼五人衆の5人の内、2人はエズアにやられていないんだよな?なら、最後の3人目…?



「さあ、時間もないんだ、行くとしようかー。エズアの事も話すと昨日言ったでしょ?魔力も必要なら、買い取ってあげるからさー」



俺達を無闇に殺す理由もないよな?だけど、理由もなく斬りかかってきたのは、黒眼五人衆の2人、メベヘとゲルだ。

陽が出ている中で、周りの目が集まりそうな中で、俺達を斬るなんて事は、ないよな?

いや、それは俺が住んでた世界での事だろう?この世界じゃ、わからない。

どうする?

ついて行くか?

それとも。



「ハムカンデ様が、お待ちなのさあ…」



ハムカンデが待っているのが本当なら、勝手に殺しはしないだろうな。どうする?



「テテ」



「…何だ?」



「オデが守るど!」



パルンガ、お前強えな。少しでも恐いなんて、思った事はないのか。お前の流れる血が、後退りする事を許さないのか?

不安な事ばかり頭に浮かべて逃げ出そうとするのは、男じゃないよな。



「行こうぜ、宝酷城…」
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