上 下
207 / 451
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その135

しおりを挟む
いてて…。

野宿の癖がついてんのか、鎧のまま寝てしまった。

宿の意味が全くないな。

パルンガは、隣りのベッドの、その下で寝ている。前に野宿で俺の隣りで寝ていた時、俺を襲って、噛みついてきたから。その時は無意識にだろうけど、一応、俺に気を利かせて視界から外れる様にして寝てるんだろうな。

パルンガの様子はその頃から変わってきている。今の幼獣の体がもたなくなってきているみたいな事を言ってたからな。体の皮の張りが出てきてるし、さらに体が膨らめば、風船みたいに破裂しそうだ。

俊敏さも力も、特に衰えている感じもしないから、破裂して、今すぐに死んだりはしないと思うけど。

パルンガの生き残るための本能が、何かを食らって魔力を体内に吸収して、成獣となろうとしているんだ。そんな本能の衝動から、俺を襲ったんだと思っている。

パルンガのためにも、ベルダイザーの居場所がわかればいいんだけどな。



「テテ」



「うおっ!?…起きてるのか、パルンガ」



「起きてるど、テテ」



「チェックアウトまで、まだ時間があるのかな?」



「う?まだ、出る時間じゃないど。まだ夜中だど」



あ、そう。何を頼りにそう言ってんのかな?地下1階だから、窓から外の状況がわからないけど。



「テテ」



「何だ?パルンガ」



「テテは、もう知りたい話は聞いたのか?」



俺が知りたい情報?ギルロの事とか、夢魔操エイジアの事だな。ギルロをよく思っていないのは、あのメベヘの反応からしてもわかる。第2大陸でも、嫌われ者な感じだったからな。この大陸でも、嫌われてんだろう。東角猫トーニャ族の女に聞くタイミングも見失ってたな。ヘタに無理矢理聞こうとして話の腰を折って、その他の情報も聞けなくなったら困ってただろうし。

夢魔操は魔力をゲージいっぱいに入れたら、夢が叶うという箱だ。魔力を吸収する魔闘石ロワの話が出たついでに聞く…ってのも、難しかったな。野心を持ってる奴が狙いそうな物だからな。話してみて、変に敵意を持たれない様な相手がいれば、それが一番いいんだけど。

お前の知りたがってたエズアの事は聞けたんだけどな。お前には聞かせられねえ。酷過ぎるからな。

ベルダイザーの事は、多分、あの女にもわからないんだろうな。

街を出たらさ、もっと北に行って探せばいいじゃないか。

とりあえず、この街を出る事が先だ。

そのためにも、あの宝酷城ほうこくじょうに招かれてみようじゃないか。

危険は覚悟の上。

俺達に選択肢は、そうないだろう。

俺があまり考えないだけか?

気持ちに余裕もないしな。



「テテは、成獣か?」



成獣…。俺は獣じゃないからな。要するに、成人してるかどうかって事かな?幼獣が、人間で言うと、どのくらいの年齢に当てはまるのかわからないけど。



「まだ大人って訳じゃないよ。幼いっていう言葉も当てはまらないような気もするけどな」



「う?」



「成獣…っていう事はないよ。おれはまだ未熟だ。体も、心も」



「オデと同じ幼獣か?」



俺のお話聞いてました??別に俺はお前みたいに幼くはないよ。言葉もお前以上に話せるしな。知恵もお前より上だろう。お前が勝ってるのは、鼻の大きさと、負けん気の強さだ。

強さ…か。

力の強さと精神的な強さは、お前の方が上なのかも知れない。

俺は弱いよな。

お前に縋ってる事もなくはない。

なら、俺も幼獣扱いでもいいのかもな。

この世界で、俺の存在は無に等しいんだ。

そして、もう1人の俺の方が、その存在を知らしめている。

あの《冬枯れの牙》ラグリェを退けたんだから、矢倉郁人やぐらいくとの名前はお前のもんだ。

俺は、名前を否定して、命乞いをして、見逃してもらったんだ。

笑えるよな?

それでも、今の俺はそうしてでも生き残って、元の世界に帰りたいんだ。

俺はこの世界では、そよ風のままでいい。

帰れれば、それでいい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...