上 下
186 / 440
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その115

しおりを挟む
遠くに思えた宝酷城ほうこくじょうは、黒眼こくがん五人衆のメベヘって奴がいた場所から1時間足らず歩くと、目の前に大きく見えてきた。

三角屋根の破風はふっていうものが見える。見た目は、日本の城に近い印象だな。この城も、窓以外は家と同じ様に黒一色に染められている。

5階建てくらいはあるのかな。家の真ん中から上の階は、大きな窓がいくつもついていて、そこから溢れる様な明かりが、近くの黒い家を昼間の陽の様に明るく照らしている。

窓には障子の様な紙が貼られている様に見える。だから、明かりがそのまま強く外に抜けているんだ。

あの城から、たまに太鼓の様な音が聞こえてくるから、何かの催しでもやってるのかも知れない。



「テテ。あの城に行くのか?」



「いや、今は行かない。さっき会った奴の中で、あの城に招待するって言ってた奴がいたけど…」



「じゃあ、明日、行くど」



ええ?決断早いですね、パルンガ大先生わ。お前、死ぬかも知れないのにな。この街は、ゼドケフラーと何かあって、印象が悪いんだよ。情報を手に入れたら、この街を去るのが一番なんだと思うけどな。



「フフフ、おバカなよそ者だねぇ?」



「!?」



「どうして、この街に入って来てしまったのさぁ?大してこの街の事、知らないんだろう?残念な行動力だねぇ?」



恐いな、急に話しかけやがって。何処にいやがる?少しきつめな感じの言い方だけど、20才台くらいの女の声だ。まさか、ここで戦いを仕掛けられないだろうな?ここは城の明かりのおかげで、まだ多少は戦えるのかも知れないけど、この街では、俺は完全によそ者、できれば、この街で争いは一切、したくない。



「テテ、そこの家の屋根にいるど!」



目がいいな、パルンガ!



「良いだろう、無知なお前達に、交渉してあげるよ。その目の前の家の戸を開けて入りな。それしか、お前達がこの街の事、また、この街から出られる方法を知る事はないのさ」



え?何か脅されてるのか?確かに、俺達は何もこの街の事、知らない。

このまま街を出られないなんて事があるのか?この街に入る時に、特別、門番らしい奴はいなかったけど。

いや、門自体が、門番か?

だったら、また何とかうまくしてあの門をくぐり抜けるだけだ。

問題はないとは言い切れないけど、何とか、また抜けてやるよ。

だけど、街の事を多少は知っておきたいし、それ以外の事も、少しは聞けたら、俺達の今後の行動がはっきりとする。

でも、これは罠かも知れないし、このまま2人でこの家に入るのも危険だ。

どうするべきか…。

この機会を逃して、後悔しないとも限らないよな。

…。

ようし。



「俺だけが入る。それでもいいなら、交渉してもいい…」



1人は恐いけど、パルンガも一緒になってやられたら、誰も助けは呼べないからな。



「まぁいいけどさ。今は、そう簡単に街中で殺しはできない様になっているから、心配はないさ…」



今は、か。



「パルンガ、街の情報とか、あと、ベルダイザーの事も、聞いてくるからな。外で待っててくれないか」



「テテ、何かあったら、オデを呼んでほしいど」



「わかった。ありがとな、パルンガ」



さてと。この気味悪い黒い家に、入るのか。

今さらだけど、やだな。

でも、行くしかねえよな。



ガラガラ…。



「開けたら、閉めてね。私は、勝手口から入るからさぁ…」



うう…。本当に、罠じゃないとは言い切れないよな。俺の見えない所で、俺を殺す支度でもするつもりじゃないよな?



ピシャン。



家の中。紐で吊るされた大きめの電球みたいなものが、部屋を明るく照らしている。家具も全て黒一色、物は最小限という印象だ。部屋は10畳くらいかな?意外と広く感じる。靴を脱がないと部屋には上がれないから、あえて脱がなくても行ける場所まで行って、待つ。何かあった時、すぐに戦える様にはしておかないと。



「部屋に上がりなよ。まぁ、その鉄靴を脱いでだけどねぇ?」



何処から話しかけてんだ?早く部屋に入って来いよ。



「いや、このままでいい…」



「戸口に近い場所にいられて、他の住人達に聞かれたら、反逆と見なされて、私はハムカンデ様に処刑されてしまうんだよ」



さっきは、外で俺達に話してたのにな。まぁ、周りに誰もいなそうだったからか。危険を背負ってでも、俺と交渉したいのは、何でだ?でも、このままだと、この街の情報が手に入らないまま、明日を迎えると、魔力の買取人との交渉か、その魔力の交渉人の家にいた別の奴と、城に一緒に行く事になる気がする。

それよりも、今のこの機会をうまく利用する方がいいのかも知れない。

ここは、勇気を持つべきだよな。



「わかった…」



カチャ。


カチャ、カチャ。



さっきの宿で久々のシャワーを浴びれたから、足があまり臭くはないな。シャワーを浴びたのは、シュティールと宿に泊まった時以来だったよな。



「…そして、その大きな剣は、その鉄靴の側にでも置いておいたらどうだい?」



バカか?蟹が自ら、自分のハサミを紐で縛って、茹でられるのを待つのかよ。

黙って殺されろと言われている様なもんだ。

近くに剣を置けないんだったら、交渉はなしだ。



「それは遠慮しておくよ。あんたとは、大して親しくない様な気がするからな…」



「…」



まさか、こんな事くらいで怒らないよな?



「そうだねぇ…。じゃあ、その条件を飲んであげるよ」



何だ、恩着せがましい。妥協してやるから、交渉を有利に運ばせろとか、言うつもりじゃないだろうな。

この交渉を持ちかけてくるこいつは、また別の魔力の買取人って事か?それとも、それとは関係ない奴なのか?

街の裏切り行為に近い事をしてまで、俺と交渉したいって、どんな理由なんだ?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

冒険者をやめて田舎で隠居します

チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。 東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。 唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。 ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。 えっ?この街は何なんだ? ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精? ただの村ですよ? ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。 そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。 そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。 そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。 帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。 活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。 ハッピーエンドの予定。 なろう、カクヨムでも掲載

処理中です...