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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い
その84
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パルンガは、体を縦に高速回転させながら、地面を蹴って、女に攻撃していく。
この戦いは、俺のために仕掛けられたものだ。
もう少し、大剣を握る手の力を抜けないか。こんなに手の骨が浮き出でるほど力が入っていると、まともな振り方ができない。
女は右手の甲を右こめかみに持ってきて、右前腕を水平に保ち、左腕は前に伸ばし、手は両手とも手刀。
女の構え、右手は一見、防御の手にも見えるけど、右脇腹への攻撃に対して防御に回る時、間違いなく対応が遅れる。
それなら…。
うーん。
何だっけ?
何か、思い浮かんだ様な気がしたけど。
とりあえず、パルンガの攻撃の休みに、俺の大剣の一撃を食らわしてやるか!
「テテ!」
「わかってる!」
パルンガが女と相打ち気味になった時、俺は大剣を女の肩を狙う様にして、水平に剣を振った。避けづらいだろうと思って。
でも、やっぱり肩に力が入ってるんだ。振りがぎこちない。だから、女にバク転で飛び退かれてしまった。
腕が攣りそうになって、痛て、そう声を漏らしたら、少し横に離れたパルンガが、厳しい視線を俺に送ったのを感じた。こいつ、本当に使えねぇな、とかそんな類の事を、思っただろうな。
最悪なのは、女が俺の大きな隙をついて、俺の背後を取り、喉元に手の鋭い爪を突き立てた事だ。
おかげで、パルンガが下手に女に攻撃ができなくなった。
人質…。
女は俺の背後を取った状態で、耳元で囁いた。俺が度々口にした言葉を気にしていたんだと、知った。
「生きるために、やっている事さぁ…。君もわかってるはずだよねぇ?弱いと、死がすぐそばで囁く、君はもうすぐ死ぬんだよ、って。何も守れもしない。そして、仲間と呼べるものは、誰一人、いなくなったのさぁ」
何言ってるんだ?それは、お前が人を裏切る様な事ばっかりしてるからだろ。
「…自業自得だ」
つい、本音が口から出た。女は癇に障り、俺の喉元の爪をさらに食い込ませる。情けねぇ。俺は、お荷物にしかならないんだから。パルンガにまた、不幸を届けちまう事にならないか、それが気がかりだ。
「私達の生活を逆転させようと思えば、前なら簡単だっただろうさぁ…。一度、この星を壊せばいい。そうしたら、神々が星の復元を試み、また原始に近い状態から領土の争いを始め、地位を逆転させればいいんだ。今は、大型獣化した状態で争いを起こせば、神法罰が発動して、その身は一瞬にして業火の炎に焼き尽くされるだろうけどねえ」
「…わかってるよねぇ?この世界に、これ以上の星の破壊は起こらない様な状況はできても、住人達の平和を望む神は、この世界からいなくなった。要は、ただ強い者だけが生き残る様に仕上がってるのさぁ」
女の声はあざ笑いながら、言ってる様に聞こえるけど、でも、その声の中に、少しだけ、怒りや憎しみの感情も混じっていた様な気もした。
でも。
奪われたから、失われたから。
だから、奪って、失わせるのか?
誰も、幸せにならない。
そうだよな。
お前達は、そんな感じだ。
お前も、いつか。
お前よりも強い奴に出くわして、殺されるんだ。
その時に、お前は誰を思い浮かべるんだ?
お金か?
心に恨みが生まれたその相手か?
昔に信じていた仲間か?
誰なんだろうな…。
俺は…?
俺は、そうだな…。
「俺には、家族や仲間がいるんだよ…」
「フフフ…。良いねぇ?じゃあ、君が魔力を奪われて死体に変わった姿…。見られない様に、土に埋めてあげるからねぇ?」
何だ、こいつ…。
意外な一面を見せたな。
こいつ、もしかして…。
本当は、そこまで悪い奴じゃないのか?
お前、うさ耳オヤジのキリングみたいに、元々は、悪い奴じゃなかった?
それでも、お前は害のない奴らもたくさん殺してきたんだろうなって、感じるよ。
悲しいな。
もう、戻れないんだろうな。
お前の背後は、パルンガが捉えてる。
お前は感情的になり過ぎて、気づかなかっただろう。
何故だか、俺の姿と、この女の姿が一瞬、重なって見えた。そんな要素、あったか?
やっぱり、一緒になんか、されたくねぇな。
そう思っても。
でも、俺は少し、涙を流していた。
女はそれに気づいて、乾いた笑いをして、バカにした様に俺の頬に流れた涙を舐めたんだ。
…。
「…君は、自分の状況に、絶望したから。だから、泣いたのかにゃ?」
「ああ、そうなのかもな…」
「本当かにゃあ…。でも、本当の涙なんて、まだ流す住人がいたなんてねぇ」
「え…?」
「夜の森は、草の丈より上に見えない様に、仰向けでいるのが当たり前にゃあ…。君は、本当に、変わり者だねぇ…」
「え?」
「フフフ…。その涙の味は、私が昔、流したものと同じ味にゃあ…」
「…!?」
「次に会ったら、次こそは、君の首を折って、魔力を頂くにゃあ。メルシィーニ、私の名に誓ってねぇ…?」
「…?」
「フフフ…。涙を、ご馳走様。もう私と会わない幸運を祈る事だねぇ…」
この戦いは、俺のために仕掛けられたものだ。
もう少し、大剣を握る手の力を抜けないか。こんなに手の骨が浮き出でるほど力が入っていると、まともな振り方ができない。
女は右手の甲を右こめかみに持ってきて、右前腕を水平に保ち、左腕は前に伸ばし、手は両手とも手刀。
女の構え、右手は一見、防御の手にも見えるけど、右脇腹への攻撃に対して防御に回る時、間違いなく対応が遅れる。
それなら…。
うーん。
何だっけ?
何か、思い浮かんだ様な気がしたけど。
とりあえず、パルンガの攻撃の休みに、俺の大剣の一撃を食らわしてやるか!
「テテ!」
「わかってる!」
パルンガが女と相打ち気味になった時、俺は大剣を女の肩を狙う様にして、水平に剣を振った。避けづらいだろうと思って。
でも、やっぱり肩に力が入ってるんだ。振りがぎこちない。だから、女にバク転で飛び退かれてしまった。
腕が攣りそうになって、痛て、そう声を漏らしたら、少し横に離れたパルンガが、厳しい視線を俺に送ったのを感じた。こいつ、本当に使えねぇな、とかそんな類の事を、思っただろうな。
最悪なのは、女が俺の大きな隙をついて、俺の背後を取り、喉元に手の鋭い爪を突き立てた事だ。
おかげで、パルンガが下手に女に攻撃ができなくなった。
人質…。
女は俺の背後を取った状態で、耳元で囁いた。俺が度々口にした言葉を気にしていたんだと、知った。
「生きるために、やっている事さぁ…。君もわかってるはずだよねぇ?弱いと、死がすぐそばで囁く、君はもうすぐ死ぬんだよ、って。何も守れもしない。そして、仲間と呼べるものは、誰一人、いなくなったのさぁ」
何言ってるんだ?それは、お前が人を裏切る様な事ばっかりしてるからだろ。
「…自業自得だ」
つい、本音が口から出た。女は癇に障り、俺の喉元の爪をさらに食い込ませる。情けねぇ。俺は、お荷物にしかならないんだから。パルンガにまた、不幸を届けちまう事にならないか、それが気がかりだ。
「私達の生活を逆転させようと思えば、前なら簡単だっただろうさぁ…。一度、この星を壊せばいい。そうしたら、神々が星の復元を試み、また原始に近い状態から領土の争いを始め、地位を逆転させればいいんだ。今は、大型獣化した状態で争いを起こせば、神法罰が発動して、その身は一瞬にして業火の炎に焼き尽くされるだろうけどねえ」
「…わかってるよねぇ?この世界に、これ以上の星の破壊は起こらない様な状況はできても、住人達の平和を望む神は、この世界からいなくなった。要は、ただ強い者だけが生き残る様に仕上がってるのさぁ」
女の声はあざ笑いながら、言ってる様に聞こえるけど、でも、その声の中に、少しだけ、怒りや憎しみの感情も混じっていた様な気もした。
でも。
奪われたから、失われたから。
だから、奪って、失わせるのか?
誰も、幸せにならない。
そうだよな。
お前達は、そんな感じだ。
お前も、いつか。
お前よりも強い奴に出くわして、殺されるんだ。
その時に、お前は誰を思い浮かべるんだ?
お金か?
心に恨みが生まれたその相手か?
昔に信じていた仲間か?
誰なんだろうな…。
俺は…?
俺は、そうだな…。
「俺には、家族や仲間がいるんだよ…」
「フフフ…。良いねぇ?じゃあ、君が魔力を奪われて死体に変わった姿…。見られない様に、土に埋めてあげるからねぇ?」
何だ、こいつ…。
意外な一面を見せたな。
こいつ、もしかして…。
本当は、そこまで悪い奴じゃないのか?
お前、うさ耳オヤジのキリングみたいに、元々は、悪い奴じゃなかった?
それでも、お前は害のない奴らもたくさん殺してきたんだろうなって、感じるよ。
悲しいな。
もう、戻れないんだろうな。
お前の背後は、パルンガが捉えてる。
お前は感情的になり過ぎて、気づかなかっただろう。
何故だか、俺の姿と、この女の姿が一瞬、重なって見えた。そんな要素、あったか?
やっぱり、一緒になんか、されたくねぇな。
そう思っても。
でも、俺は少し、涙を流していた。
女はそれに気づいて、乾いた笑いをして、バカにした様に俺の頬に流れた涙を舐めたんだ。
…。
「…君は、自分の状況に、絶望したから。だから、泣いたのかにゃ?」
「ああ、そうなのかもな…」
「本当かにゃあ…。でも、本当の涙なんて、まだ流す住人がいたなんてねぇ」
「え…?」
「夜の森は、草の丈より上に見えない様に、仰向けでいるのが当たり前にゃあ…。君は、本当に、変わり者だねぇ…」
「え?」
「フフフ…。その涙の味は、私が昔、流したものと同じ味にゃあ…」
「…!?」
「次に会ったら、次こそは、君の首を折って、魔力を頂くにゃあ。メルシィーニ、私の名に誓ってねぇ…?」
「…?」
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