上 下
120 / 438
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その54

しおりを挟む
「私の事を嫌いにでもなりましたか…?」












「それでも、構いませんよ」













「ところで、貴方の倒れていた場所に、この剣が落ちてましたが、所有者は貴方なんでしょうね。…不思議な事ですが」








剣…。これは、しもべがくれた剣だ。俺がこの世界で戦える様に。そのうち、俺に合った剣に変わるとか言ってた。切り株街の女戦士が、剣の鋼材が特殊とか言ってたけど、重いだけじゃなくて、意外と貴重なものか…。









「幾重もの封印がされている…。私の解析魔法も跳ね返すほどの封印」









封印がされている…?そんなものは、知らない。










「パラグロンタリー鋼の剣が珍しいという事もありますが、私が気になるのは、そこではありません…」









もしかして、しもべは、本当に俺に期待してたのか?俺を殺して、この世界に転生させて、ギルロの体と魂を探してほしいって…、本当に俺が、それができると思っていた?この剣には、何かギミックがある。だから、この剣の形状が後々、俺に合ったものに変わるって、言ったのか?









俺を転生させたのは、ギルロの体と魂を探してほしいだけじゃないって、言ってたよな?








何か秘密がある。しもべは、前に、今は第4大陸にいるって言ってた。なら、この第2大陸には、もういない?旅の支度をしたあのしもべとの部屋は、この第2大陸じゃなくて、別の空間に繋がっていた?だから、一度あの街に戻ってしもべに会おうとしても、会えなかったんだ。






第4大陸まで行ける気がしない…。そこで話をしようって、言ってたよな。そこにたどり着くまで、ギルロの体と魂を探してほしいとも言ってた。







無理だ。









もう、俺に何も期待しないでくれ…。










今、俺は生きてるのだけで、奇跡なんだ。この世界で何かをやれるなんて思えない。








「貴方、もしかして、リョウマ族ですか…?」










リョウマ族?












「…何か違いそうな反応をして見せましたね。まぁ、私にとって、どうでも良い事。答えなくて結構ですよ」












俺…。死にたくなくて。死ぬのが、とても恐くて。俺の人生には、まだずっと、先があると思っていたから。









今は、何も見えない…。










俺の街、近潮ちかしお町に帰れない。戻りたくても、戻れないんだよ…。この世界で人目につかないところで生きるのが精一杯…。そして、寿命がきて…。












死ぬんだ…。











「そうそう、貴方を救った者の1人は癒しの神フレージアですが、彼女はやはり相当な闇を抱えていた。狂気に満ちた行為をして、その結果、貴方を救ったもう1人の方が、今、この場にいられなくなったのです。だけど、必ずこの場所に戻ってくるので、しばらくその湯に浸かったまま、私とお待ちなさい」












フレージア…?湧き水の欠片を持っているフレージア?神…。










神が、暗殺者の方を持った?ラグリェの様な、心を持たない悪魔の…。









「最後に、一つだけ聞きましょう。…貴方、この辺りで何をしていたのですか?このゴフルオーターは、《冬枯れの牙》などの得体の知れない者共が散見され、今は危険な場所です。腕に自信がないのなら、この場所を通る事は避けるべきだったのに…」









ブル…ッ。












ラグリェ…。











「…《冬枯れの牙》にやられたのですか?何か因縁を持った様ですね。彼らは執念深い…。貴方の今の力量では、恐らく…」











…やられる。












「貴方にも仲間と呼べる者がいるのなら、共に立ち向かうしか手はないでしょうね。貴方が誰の下についているか、私に教える事はないのでしょうけど。せめて、あの方には命を救われたのですから、礼ぐらい言ってから、立ち去って下さいね」











あの方って、誰の事だよ…?また、強い奴と出会って、そして、俺を油断させて、利用して、最後に結局、殺そうとするんだろ?冗談じゃない…!もう、誰とも会いたくねぇんだよ…!











「…傷が癒えたのですか?あの瀕死の状態からもう?確かにフレージアの癒しの効果は絶大な様ですね。まぁ、それは貴方の体の驚異的な回復力があっての事でもありますが。まだ、湯から出ようとしない方が良いでしょう」













「俺の事なんか、ほっといてくれ…!」








ザバァッ!










「ホホホ…。救ってくれた方に礼を言わず、この場から去ろうとするのですか?それもまた、貴方の人生…。私は構いませんよ、それが貴方の宿命なのでしょうから」











ザクッ!













「これは貴方の剣でしょう?さぁ、この剣を地面から抜きなさい」















「俺なんか、気にしないでくれ…!」











「そうですか。では、この剣を抜きなさい…」













剣がないと、身を守れない…。やっぱり、俺は死ぬのを恐れている。剣がないと、生きていけない。













「貴方を救おうと、フレージアの元へ運んだ方は、フレージアが封印したはずの癒しの魔法を使うかわりに、彼女からとても不愉快なものを貰いましてね…」













「憤怒の神フューリーのナイフを刺された彼は、怒りに駆られた魔物共を寄せ続ける。ナイフが満足して解放してれるまで戦い続けなければならなくなったのですよ。だから、この場を離れたのです」












「俺には、か、関係ないだろ…」













「ええ。相変わらず、その様な発言を続けていますね。ただ、あの方が命を懸けて貴方を救ったのに、それを蔑ろにする行為を目の当たりにして、見過ごすほど、私も甘くはありませんよ」











「…え?」











「フホホ!…あの方には、貴方は助からなかった、そう伝えておきましょう。さぁ、剣を地面から抜いて、そして構えなさい」














「…元々あのまま死んでいたはずの存在なのですよ、貴方は」













「私が、引導を渡して差し上げましょう…」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?

来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。 パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」―― よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。 ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...