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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その48

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やられる…。












このカラス野郎に殺されて、そして…。








俺は、どうなるんだ?









もう、終わり…?















俺は、何もしない…まま?















それでいいのかよ?












また、同じ事を繰り返すのか?


















…古池の時もだ。











俺が古池をハメようとしたと勘違いして、古池が俺を殴った。俺は正直、傷ついたんだ。それもあって、謝るのはあいつからじゃないと筋が通らないと思ってた。








日が過ぎて、仲直りしたそうにあいつが遠目から俺を見ているのに気づいていた。相変わらずの、臆病者。お前は、無実の友達を殴ったんだ。









誤解で、大変な事をしたって。謝っても、許してくれないかも知れないって、あいつは思ったのかも知れないけど。











ただ、勇気を振り絞って、謝って欲しかった。俺を大切な友達だって、思ってくれてるんなら。でも、あいつは中々、俺に声をかけてくれなくて。











だから俺は無視し続けて、古池からの謝罪の言葉を待った。次の日も、そのまた次の日も。












でも、そのまま、中学を卒業するまで、口も利かず、仲直りをする事もなかった…。















本当は、もうとっくに許していたのに。















今も、仲直りはしていない。
















父さんは、いつも俺を失望の目で見てくる。期待通りに、思い通りにならなかったから。俺に対する厳しい言葉が多くて、思いやりの言葉だと感じた事は、あまり記憶にない…。










俺をあまり好きじゃないんだと、思った。











操り人形みたいに思い通りに動けば機嫌が良かったのか、わからないけど。俺は、自分の考えを持った人間なんだよ。本当に必要な事なら、俺にだって、わかるんだ。でも、言葉足らずで俺に命令して、やる意味もわからない。 








ただ。










通じないとわかってはいても、父さんと向き合って、自分の言葉で話した事は、あまり記憶にない。何を言っても、言い返されると思っていたからだ。上から抑えつける様な言い方で、俺にとっては、とても不快な時間だった。








父さんは、何故かいつも怒っていた。だから、俺は悟った。何を言っても、ムダだろうって。









親なんだから、全てを話さなくても、わかるだろって、そう思っていたのも事実。そう、俺は少しは、期待していた。











母さんと父さんの間にいた俺が、もう少し何とか父さんに自分の思いを話したりしていたら、もしかしたら、俺の考えを理解して、父さんは無理矢理、言う事を聞かそうとしなくなって、そして家を出る事もなかったのかな。











そもそも、父さんが、気持ちに余裕がないのは、何故なんだろう。











理由なんて、知ろうとも思わなかった。自己中なんだろうと思って。











今となっては、わからない。














俺に何を言っていたのかも、思い出せなくなっている。






















右手から炎が現れた。だから、俺はまた、圧倒的な力が手に入って、相手を倒せる気でいた。そう、期待した。でも、もう、あの白い空間の人の力がない…。まだ、戦いが終わってないっていうのに。












俊敏な動作も、そして驚異的な動体視力もない。












そして…。












このまま、俺は。死んでいくのを、何もせずに、ただ待つだけ?











自分から、何もやらなくて、ただ待つ事しか、相手に期待する事しか、できないって言うのか?












古池が臆病者だなんて、最初からわかってた…。そして、俺は釣り糸に重りつけたりするのが得意じゃなかった。手先が器用じゃないのかな…。古池と一緒に釣りに行った時、あいつは、古池は黙って、俺の釣具の釣り糸に重りをつけてくれた。









小学校からの友達だもんな…。俺の事、よく知ってる。













俺も、知ってたのに…。











お前の事…。











友達なのに…。
















父さんも、父親だから、子供に与えてくれるものだと、俺は思っていたのかな。何か、俺の知らない事で、イライラしていたのかも知れない…。











俺から歩み寄れば、矢倉家は壊れなくて済んだのかな…?













白い空間の人も、俺に逃げろと言ってくれた。そして、それをするだけの力は貸すと、言ってくれていたのに。












俺は、言う事を聞かなかった。せっかく、力を貸してくれたのによ…。














でもよ、俺はこのカラス野郎との戦いを選んだ事には、後悔してないんだ…。












人の心を卑劣な手段で闇に落とした、こいつのやり方が気に入らねぇ。











そうだ…。












俺は、この世界に存在する。













息をしている…。













まだ、終わらす訳にはいかねぇ。

















へ…、へっ。















情けない奴、だけどよ…。













俺はまだ、死んじゃいない…。













俺は、矢倉郁人やぐらいくとだろ。












そうだよな。












母さん…。













俺は、この世界に存在している。













矢倉郁人だ。
















少しでも、足掻け…。













俺の気持ちがまだ少しでも諦めたくないと思うのなら、諦めるなよ…。









友達を失っても、平気だった訳じゃない。











家族を失って、強がっても、ずっと、後悔してる。











超人の、力を失った。俺はあまりにも力不足、失格の烙印を押されたんだよ。











だけど、この戦いは、負ける訳には…いか、ねぇ…。















この世界で、俺はまだやらなきゃならない事があるんだ…。













古池とまだ仲直りしてねぇし、父さんに、ひと言でも伝えてやらないと。












母さんにも、元気を出して欲しいしな…。
















「目の光に陰りが見えているぞ…。クククッ…!素晴らしき光景だぞ、矢倉郁人やぐらいくと。さぁ、この惨殺剣術コルト・カラングラシェの本幕の刺突により導かれ、死への階段を下ると良い!」











死の階段…?そんなもん、まだ俺には…見えねぇ。













…カラス野郎が腰に手を当てた。剣を抜く。



















一瞬、カラス野郎の持つ剣の、黒塗装の一部剥がれた刃が日の光で輝いた。だけど、そこまでしかわからない。このカラス野郎の抜剣から刺突までの一連の動作が速過ぎる。今の俺の動体視力じゃ、その動きを捕える事ができない。










ビヒュンッ!











…くそっ!














剣の軌道が、見えない…!?














カラス野郎の剣の切っ先が、ふと俺の目に映った。だけど、そうした偶然も好機なんかには繋がらない。見えたカラス野郎のその切っ先は、俺の胸辺りを突き刺そうとする寸前だった。











ズシュッ!!











「ぐぅうッ!!!」












ぐぁぁッ!!…ぃ痛いッ!












ポタッ…。











がぁッ!











息が、しづらい…!













がはッ…あッ!













はぁ…!は…ぁッ!













ポタッ…。












胸の鎧に穴が空いている…!刺された…。











その穴から血が流れ出ている…。うう、痛い…。














「クククッ…。痛みと共に呼吸もしづらかろう。お前の呼吸器は壊れ始めた。だがもう少し、私の惨殺剣術に付き合ってもらうぞ」










はぁ…。












は…。











俺はこれだけ刺されて、呼吸が乱れてるのに、このカラス野郎は平然としてやがる。










正直、実力の差が、あり過ぎる。











白い空間の人も、俺を諦めた。もう、あの力は手に入らない。











もう、絶望…か?


















だけど、俺はまだ、大剣を離していない。諦めてない。











まだ、諦めていないんだ…。












俺はこの世界に転生したんだ。魂はそのままでも、この体は、日本人の体じゃないはずだ。









この世界の体なら、これだけ刺されても、まだ立ってられるのも、当然だと思うしかない…。












諦めなきゃ、まだこのカラス野郎との戦いには、続きがある。











まだ、諦めるな…。












今度は、諦めるな…。












「クククッ…。矢倉郁人やぐらいくとよ、その目つきでを私をまた見てくるとは。良いぞ、もっとだ。もっと、無残に死ねる様、計らうべきだと伝えてきたのだろう。その望み、今すぐに、叶えてやる…」










右手がじんじんしてきた…。このカラス野郎に、 籠手こてを引き剥がされて、直接、剣の握りを手にしてるから。








呼吸をする毎に、肺がズキズキ痛む…。











もらっちゃいけない場所に剣を刺されたみたいだ…。当然だ、胸辺りを刺されたんだ。











はぁ…。














はぁ…。











信じられないけど、まだ体は、何とか動きそうだ。












もう、うまくかわそうなんて、思ってもムダだ。次元斬を、このカラス野郎に放つ事だけを、考えるんだ。












恐いという感情に、負けるな…。













考えても、仕方がない。













次元斬を、カラス野郎に当てる事ができれば、俺は、負けはしない…。











こいつを、













こいつを。













倒す…!













「矢倉郁人…。己の蒼白とした顔色に気づき、死期を悟ったか。良いだろう、これ以上、無様な姿を見続けるのも、無用というものか。特別だ、矢倉郁人。惨殺剣術108箇所の刺突、最後の刺突、エリクリュプスを貴様の胸に突き刺してやろう」













カラス野郎が、またすぐに腰に手を当てた。この野郎、少し声が弾んでやがる。もう俺に、勝った気でいるんだ。勝手に気分良くなりやがって。









次の一撃、もう、俺はお前の剣の軌道なんて、気にしたりしない。














俺は、俺の一撃に集中する。















次元斬だ。













はぁっ…。













はぁっ…。













体が、海の奥深くまで引きずり込まれてるみたいに、体が重い…。さっきより、呼吸が苦しい。













次の一撃で決着させないと、もう俺に勝機はない。












もう、後はやるだけだ。後悔はしない様に。
















「矢倉郁人よ。お前との戦いも、僅かな時を残すのみ。言い残したい言葉があるのなら聞いてやる事もできるが、どうだ?」














得意げに言いやがって…。ふざけるな、この人でなしがよ。













「手元が…狂わない様にな…。じゃないと、死ぬのは、お前の方…だぞ」















「クククッ…!永遠に眠るが良い。忌々しき存在、矢倉郁人…!」











ザッ!!













今の俺に白い空間の人の力は宿っていない。だけど、御影三叉霧蔵みかげさんまたきりぞうから伝授された次元斬は、お前を斬るには十分の技だ。











当ててやる。












お前の心臓まで、届かせてやる!












「さらばだ、矢倉郁人!惨殺剣術コルト・カラングラシェ最終極死点さいしゅうきょくしてん、エリクリュプス…!至極の一撃を、その身に受けるが良い!」













剣を抜いたな!?














カラス野郎の剣の刃が、黒とは違う…!?マグマみたいな高熱を感じさせる色に変わりやがった!











何だ?剣の刃がはっきりと見える!?それでも、かわされる事なく、トドメを刺せる技って事なのか?












ヤバそうな気がする…。












いや、怯んでる場合じゃねぇ!













大剣を水平に構えて、次元斬だッ!










ザッ!











傷の痛みがズキズキして、意識が朦朧としてきやがった。











ザザッ!

















カラス野郎、今さら後悔しても、遅いぞ!?勝負だ…!












お前の死の境界線…!この目にみえているぞ!?











「クククッ…!」













カラス野郎が俺の間合いに入った!!ここで、勝負だぁぁッ!!










「ぅ…うぅおおお…ッ!」














俺の力、この一撃だけでもいい、やり切らせてくれ!!











これが、お前をあの世へ導く…











「カァッ!カァッ!くらえ…!エリクリュプスッ!!」















くらえぇえッ!!

















「…次元斬!!!!!」
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