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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その29

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あ…れ?









空に大きな枝がたくさん絡まってるな。枝の向こう側は、青空だ。この空は、日本と同じだよな。雲1つない快晴、こんな時は、出かけたいよな。









何処に?









お金があるかないかで決まるけど、ゲーセンでも行くかな?ははは、外の意味がねぇな。最近は、クレーンゲームに場所食われてるから、大した数のビデオゲームはないんだけどな。










あー、顎辺りが痛い。














多分、俺。











あのクソムカつく、ブサイク召喚獣に殴られたんだろうな。だから、今、仰向けになって倒れてるんだよな。









顔の事を悪く言うと、あの恐ろしいほどの気の短さだ。こっちが気を失うほど、手加減なく強く殴る。










そして、いつもの様に、気を失ってた、か。












…ん?













うーん。













シュティールが近くにいないな。












俺を殴って、気を失ったら、いつもベッドの上までは運ぶのにな。










殴って、放置か。











まぁ、ここだと勝手がわからないんだろうな。まぁいいや。あいつは、本当にムカつく奴だという事が改めてわかったからな。冗談も通じねぇ。まぁ、性格が極悪だし、顔も悪く見えるのは仕方がないだろうな。性格が良ければ、多少はきれいな顔をしてるんだし、ほんの少しはモテるんだろうけどな。寝る前にパックしてるくらいだからな、ははは、その成果は欲しいよな。まぁ、性格が水で表すと、ドブだからな。ははは、まぁ、やっぱり、ブサイクという事にしておこうか。










…ふ。













ふー。












体が…痛ぇ。











何とか立ちたいんだけど、今は自力で起き上がれる気がしねえ。










誰か…いないかな。












…ん?












お、足音が聞こえてくる。











あー、よかった。















「おい、イクト。何だ、久しぶりだな、おい、お前」










浅黒い肌のタラコ唇の男が、俺の顔を覗き込んでるな。頭に髪がないのは、剃ってるからか?ボーッとしてないで、俺を起こして欲しいな。










「そうだ、イクト。お前、戻ってこれたって事は、倒せたのか?なぁ?」










目を少し大きく開けて、興奮気味に俺に聞いてくる。あまり、タコ頭を近づけないでくれ。海に帰したくなる。










しかし、またその質問かよ。一体、何を倒したって?フグイッシュも聞きたがってたし、何かすごい期待されてる感が伝わって、答えにくいんだよな。いや、まだ倒してないんだけど、とか言いにくいよな。









「俺、記憶が…さ。あまりなくて、実際にどうなんだろうな。誰を倒した…?」










おやおや、段々と目が閉じていきますね。失望か?価値がなくなったか?じゃあ、俺を雑巾として使ってくれよ。何処でも、ピカピカにしてやるぜ。







「いや、生きて帰ってきただけで、良かった。お前、死んだかと思ってたから。この街に、お前がいてくれると、助かるよ」











本心か?本心なのか?











まぁいいよ。どうせ、立派な男じゃねぇからな、俺は。










しかし、俺は、誰を倒しに行ったのかな。このボーグン族を脅かす悪い奴を倒しに行ったとか?この辺りに現れる盗っ人を倒しに行ったとか?










お話しライオンみたいな、猛獣を倒しに行ったとか?









うーん。












「イクト、お前の力は、誰もが認めているけどな。でも、お前の優しく包み込む様な性格も、ボーグン族は、気に入ってるんだからな。心配いらないぞ?」












別に心配してないけどな。










でも。













優しく…?包み込む??俺が??












餃子の皮じゃあるまいし。中の具を柔らかくジューシーに蒸すためにか?しかし、本当に俺?それって。











俺も悪魔じゃあるまいし、それなりの優しさはあるんじゃないかと思ってるけど、他人に優しい、って言われるほどの優しさは持っていない様な気がするんだよな。









矢倉郁人、お前は優しさがウリだからな、とか。いやー、ないな!











「しばらく見ないうちに、何か、雰囲気が変わったけど。疲れてんのか?」










疲れてねぇよ!…いや、嘘。疲れてはいる。だけど、俺は、矢倉郁人やぐらいくとだ。先に来たもう1人の俺の事なんて、知らねぇよ。何で、俺がもう1人の俺に気を使わないといけないんだ?俺だって、矢倉郁人なんだよ!何か、演じないといけないみたいで、気分が悪いんだよ。










「お前、俺が高熱で寝込んだ時に、マツバイの実を持ってきてくれたよな。あの時の恩は、忘れないからな。何か問題があったら、言ってくれよ。力になるぜ」










マツバイの実?何処からか摘んできたのかな。まぁ、そのくらいなら、俺でもやるかもな。









「ネヤシキって魔獣の棲むダヤタ高台にある果樹になる実なのに、まだよく知らない俺なんかのために、よく取ってきてくれたよな」











魔獣…か。どうせ、弱かったんだろ?暇潰しに行ってきたんだろ?そんなトコだろうよ。












「今度は、湧き水の欠片かけらを持ってきてやるからさ。水が足りないんだろ?この街にはさ」










いいお使い役だよな。せいぜい、恩に感じてくれよ。













「…ところで、何で道で仰向けになって寝てんだ?」













「…転んだ。できれば、起こしてほしい」












「わかったよ、イクト。借りがあるもんな…」









あ、テメー。まさか、ただ俺を起こすだけで、借りを返したつもりにするのか?何て器の小せえゴミだな。お前を救ってよかったのか、迷うとトコだよな。










いて…。













ふー。













「…はぁ。ありがと。じゃあ、行ってくるよ」













「ああ…。湧き水の欠片を、取りに…だろう?」













何だ?何か引っかかる言い方したな。この街にあまり水が行き渡ってない感じは、街の周辺の乾いた地面とか、並木道の木の枯れ具合、金の蔓草つるくさや、岩の家の庭にあった鉄の花とか、水が必要な植物を、作り物で代用したり、その辺りで何となく気にはなってたけどな。










「何処に、湧き水の欠片を取りに行くんだ?」











何だ、それ?何処に…か。一般的に知られてないのかな?何か、違和感があるな。正直に答えない方がいいのか?













「さあね。まぁ、いかないかもな。俺も色々と、やる事があるし」














「まあ、待てよ。湧き水の欠片と言えば、そうだなぁ…」

















「ゴフルオーター…とか?」















険しい目だぜ、タコ頭。その疑いの目を、正直に俺に向けてくれてありがと。どうしても、そのゴフルオーターに行ってみたくなったよ。そこで、フレージアに会えば、何か答えがわかるだろうからな。











カフクマが、湧き水の欠片をゴフルオーターにいるフレージアからもらってこいって、言った理由を確認してやる。










俺は、矢倉郁人だ。誰が、何と言おうと。











俺は、俺だ。
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