とてもおいしいオレンジジュースから紡がれた転生冒険!そして婚約破棄はあるのか(仮)

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第一章 オレン死(ジ)ジュースから転生

その26

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俺は辺りを、目を凝らして見回した。

急に、人の気配が感じる。いや、俺が意識しているせいか?どんなに小さな生き物でも、見逃さないぞ。

とは言っても、見える気配は全くない。何か、少し離れた別の場所からも、声がし出したな。

残念だが、やっぱり幽霊…か。

俺の苦手なヤツだな。

俺が小学生の頃、今とは違う古びた木造のアパートに住んでいた。親が共働きで、いつも家に1人で夕方6時までいる事が多かったが、そういう時間帯の夕方過ぎに、奴が現れる。俺がテレビを観ていると、後ろの空気が変わるのがはっきりとわかる。流れていない空気が、突然流れ出すというべきか。もしかしたら、奴が部屋の戸を開けて入ってきたからなのかも知れない。奴とは、白い着物姿のお侍。何かに魂を抜かれたかの様に、ゆらゆら体を揺らしながら、漠然と俺の方を見る。視点は合っているよな、合っていない様な、そんな感じだ。それを見た俺は、体が石になった様に固まり、呼吸困難。俺との距離が2mくらいになった時、奴はふっと消えて、それでその日はおしまい。でも、小さな子供には、それだけでも心は恐怖で埋め尽くされる。

夜になる前に、この街を出た方がいいな。

「どうしたんだい?顔色が変わっているね。何か、恐い事があったのかい?」

そう面白そうに言うシュティール。大丈夫だ、心身共にお前以上に恐いものなどいるはずないじゃないか。極悪の心と不死身の体を持ち合わせたシュティール君。

「この街って、沢山の人が死んでる街だったりするのかな」

平然を装って聞く俺。

「いや、虫1匹すら死んでいないんじゃないかな」

とぼけた顔をして言うシュティール。嘘をつけ!虫1匹以上、確実に死んでいるはずだぞ。こいつ、本当に信用ならない男だな。もはや、詐欺師レベルなんじゃないか?

「ガインシュタットの家に行けば、君が不思議に思った事も、わかるはずさ」

さらっと、一言のシュティール。

ああ、そう。じゃあ、とりあえず、そのガインシュタット家の家まで行くとしよう。

噴水を超えて、道をまっすぐに進む俺とシュティール。道中、姿は見えないけど、話し声が微かに聞こえてくる。

囁き程度の声の大きさだから、気のせいと決めつけて進んだ方がいいのかな。



殺す…?



え!?



死んでしまえ…?



そ、そんな。



生きる価値がないんだよ…?



そんな、事をして…
何になる?



「おい!!」

いい加減、キレそうになるぞ、このバカシュティール!

殺すあたりから、全部このバカが俺を恐がらせようとして言っている言葉だ。心の腐敗がリミットを振り切っているシュティール。お前がこの世界にいるだけで、この世界も先がないな。

「僕には、そう聞こえたんだよ。恐いね、イクト君」

俺の名前を呼ぶんじゃない。お前の口から発する声で俺の名前を呼ばれると、穢れるだろう、シュティール君。

街中で聞こえる声は(シュティールの声除く)、明るい声も混ざっている。この声は、本当に幽霊が発しているのかな。

姿が見えないから、多分そうなんだろうけど。

ステンドグラスの窓のある家に近づいた時、子供の声である名前を言ったのを耳にして、思わず声が漏れた。

俺は少し戸惑って、自分の顔を触った。

「ガインシュタット家の人達って、ギルロの事、恨んでいるんだよな?」

俺は不安に感じながら、シュティールに聞いてみた。

シュティールは、少し間を置いて、そうだと答えた。

「そうか…。わかった」

俺はそう返事をした。

今、聞こえた子供の声は…、

あ、ギルロ様だ!

そう言っていたけど。

ギルロは、この街に来る男なのか?ギルロの正体も正直、わかっていない。もし、最悪の男だったら。そして、その仲間がこの街の何処かに潜んでいたとしたら。このまま、ギルロを恨んでいるガインシュタット家の家に行って大丈夫なのか?

まぁ…。

大丈夫だろう。

そう、考えるのが面倒臭い。そして、よくわからない事が多過ぎるから、一々考えていられない。ハゲるから、止めておこう。



ギルロ様は、死の淵でお前を呼んでいるんだよ…?



と、バカシュティールが囁く。

うるせー、バカ!バカシュティール!



目の前には、ステンドグラスの家。ガインシュタット家の家だ。

ステンドグラスの窓から家の中の様子はわからない。戸の上部に、木彫りでライオンの頭が描かれている。完全に金持ちの家じゃないのか?

俺は緊張しながらも、慎重に戸をノックしようとしたら、シュティールがいきなりノックなしで戸を開ける。驚きのあまり口から飛び出したであろう心臓を目で探す。心臓…心臓。



家の中で、パチパチと音が鳴っている。奥に伸びる薄暗い廊下の、手前と奥側で、それぞれ左側から弱い光が入っている。部屋があるんだ。

シュティールは、手前の光がある場所へ入っていく。俺は焦りながらも、奴の後を追った。

暖炉がある。薪に火をつけて部屋を暖めるタイプだな。こんな物、映画でしか見た事ない。パチパチと鳴らしていた音は、ここから?でも、今は薪に火がついていない。気のせいか。

その部屋には、イスが3つに、低い机が1つ。高級そうな絨毯が敷かれているけど、高そうだな。

ある声は、突然聞こえてきた。俺は、思わず声を上げてしまった。窓際まで行って、ステンドグラス越しに外を眺めていたシュティールに、人差し指を口に持ってきて、シッ!と声を出された。黙れって事ね、ハイハイ。



『もうこんな時間か。うたた寝をしてしまった様だ。あの人が来るというのに』



『…そうだ。我がガインシュタット家の秘宝をお貸ししたままなのだが、まだ成果が出ていないのかな。もうそろそろ、返して頂かないといけないな』



『シーペルはまだ帰らないのか?困った奴だ。きっとまた、ケインズの瓦礫の山の所まで行っているのだろう。まあいい、そのうち戻るか』



『ああ…。ギルロ様、例の計画はうまくいってますかな』



『え…?存在する力?何を言っているのですか。どうしましたかな。いつもの貴方らしくない』



『止めろ!何をするのだ!?どうして…。貴方はおかしい!もう、帰って…く…。ぅわぁぁぁあぁぁあ!!!!』



この声が、ガインシュタット家の声?

「ガインシュタット家の人から、話が聞けただろう?こちらから質問はできないけれどね」

シュティールは、目に浮かぶ怒りを隠す様な感じで目蓋を半分閉じて、少し笑みを浮かべながらそう言った。

「…ガインシュタット家は、ギルロを恨んでいるって言ってなかったか?」

俺がそう聞くと、

「恨んでいるのさ。今の声は、ガインシュタット家の当主。誰かと話している感じはあったと思うけれど、その相手の声は聞こえていなかったはず」

シュティールはそう返した。

「ギルロ?」

「いいや、彼の奥さんの方さ」

まだ、生きているのかな?だから、相手の声が聞こえないって事?

「この街の人達はね、ギルロによって存在を消されたんだよ」

シュティールは、そう言って部屋を歩いた。

「え?死んだっていうのか。やっぱり」

俺は戸惑いながら、シュティールを目で追った。

「そうなのかな?いいや、違うね。その存在する力を奪われたのさ。だから、魂というものがここに残っている訳じゃない。彼らの記憶が、ここに留まっているに過ぎない」

シュティールは、部屋から出ていってしまった。

存在する力を奪われた?そんな事をしてどうするんだ。そんな事、どうしてできるんだ?やっぱり俺の常識なんか、まるで通用しないって事が改めてよくわかったよ。

ガインシュタット家の奥さんと、シーペル?って人を探せば、もう少し話がわかってくるのかな。

しばらくすると、また同じ声が聞こえてきた。



『もうこんな時間か。うたた寝をしてしまった様だ。あの人が来るというのに…』



シュティールは、家の外に出た。そして、俺も外に出たんだ。もう、この家で聞く事はないのかな。シュティールは、この街の状況を俺に知って欲しかったのか?何故か、そんな気がする。
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