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新階層より

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今僕たちは五階層の最奥ーーだと思われていた場所にいる。
というのも、レベル上げを兼ねて五階層の探索に来ていたところ、僕の探知に変な反応が。
擬似神の力で道中の魔物を蹴散らしながら最奥まで来てみるとそこには変に機械質な扉が。
神になった今だからこそわかるが、これは神代…つまり早希がいた時代の扉だということがわかった。
元は自動で開くようになっていたようだが今はその機能を停止していた。
仕方がないので腕力でこじ開けた。
神になった僕には、それこそステータスで測れない強さがある。
無理やりステータスで表すと全ステータス約30万近いだろうか。
普通の(?)人間時代で一番高かったステータスの速度でもほぼ三倍の上昇率。
一番低かった防御など、六倍は上昇しているだろう。
恐ろしい上昇率だ。
ただ、これでも神の中ではまだ弱い。極々下位の神と言えるだろう。
まぁ、それもそうだろう。なんて言ったって神になりたてなのだから。
名ばかりの刀神だったそれに、張りぼての実態がついてきただけのこと。
力は大きくなったが、まだまだ調子に乗れる事ではない。
その点、魔神は上位の神と言えたかもしれないが、封印が解けた直後で僕とほとんど同じ土俵まで力が落ちていた。
技はあったが威力は全盛期のそれに比べれば目も当てられないレベルだろう。
それでも、神としてほぼ完成された魔神は強かった。
それを考えれば、少しは胸を張っていいかもしれない。
だいぶ話が逸れたが、その筋力30万を以ってしてもその扉は開き辛かった。
土魔法で鑑賞すれば一発だったことを思うと、その扉を開けた時に見えた景色に興奮した気分が一発で萎えた。
土魔法は土と言いつつ、その実、石でも金属でも干渉できる。
それはたとえ神代の素材だったとしても変わらない。
試したらできた。
それに錬成と同じとまではいかないが簡単に変形させることもできる。
実はかなりの便利魔法なのだ。
また話が逸れたが、扉の向こうの景色はなかなかに壮観だった。
一歩踏み出そうとした早希が地面がないことに気付かずそのまま落下して行った時は肝が冷えたが。
思わず本気の速度で壁面を下って助けに行くくらいには焦った。
実際のところノータイムで長距離転移ができるので割と焦る必要はなかったりする。
地面までもだいぶ長かった。1キロはあるんじゃないかな。
それだけあれば地面の10メートル手前まで落ちたところからでも本気で走れば助けられる。
速度30万と魔力強化に、スキルの効果は馬鹿にできない。
具体的に言えば一瞬あれば1キロぐらいは走破できるということだ。
かなりの頻度で話が逸れるが、なかなかどうして、神代の景色は現代よりも綺麗に見えた。
白ーーと言うよりは水晶のようなものでできたかなり高い建物に、翡翠でできたような蔦が絡まっている。
あの蔦だけでも相当な値打ちがあると見た。
まぁお金にはさほど困っていないけど。
どこから来ているのかわからない天使の梯子が降りてきているのも綺麗に思わせる一つの要因だろう。
さらに、天使の梯子の光が水晶の中で乱反射して淡い光が建物たちを薄く包んでいる光景は神々しさすら覚える。
そんな光景が目の前に広がっていた。
生憎と僕に写生の技術はない。
ただ、今回は一応執政院からの依頼できている。本当はもう少し後に確認しにくる予定だったんだけれど。
執政院の人たちも最奥のさらに奥があるなんて情報を疑っていたみたいだし、実際僕も信じていなかったからね。
夜中あたりに転移で一人で確認しに来て適当に報告すればいいやと思っていたのだ。
まぁ、一応記録のための水晶は貰っているけど。
記録水晶はその名前の通り、景色などを記録することができる。
これで最奥の景色を記録して執政院に提出すれば依頼は完了だったんだが、いかんせん探知の範囲が広すぎた。
余計なものに気づいてしまった。
まぁ、かなりの報酬が貰えるし、悪い仕事ではない。
それに現代でも見れないような景色が見れたことは悪くはない。
かなりの高所だからか吹き抜ける風はかなり清涼だ。
神々しさすら覚える景色と相まってなかなか心が落ち着く場所だろう。
それを見れたことを思えばこのタイミングで気づいたことも悪くなかった。
とりあえず探索は後回しにして、この景色を記録水晶に収めた。
…いや、少しだけ探索していこうかな。
手始めに一番近い建物に転移する。
ん、んん?
なんだか転移がしにくい。
『魔法、および魔術を中和する魔法が使われているようだ。私達以外では魔法および魔術を使うことはできないと思っていい。』
頭の中に少女の声が響く。
魔神との戦いの際に僕の刀に同化…というかその身を犠牲にして僕に神の力を与えた少女。
名前は一応あるらしいが、モリビトの名前は恐ろしいほどに長い。
僕は人の名前を覚えるのは得意な方だが、それでも覚えきれていない。
かの有名な画家にも長すぎて自分の名前を覚えていないという人がいたはずだ。
彼女は覚えているようだけれど。
『へぇ。神代には面白い魔法があるものだね。それはキミと僕で一緒に術式を組まないと魔法を使えないくらいかい?』
『ユウイチロウ。何度も言うが、私のことはキミではなく…シルフィと…呼んでほしい…のだが…。』
照れたようにそう言ってくる彼女は、口調こそほとんど変わらないが生前の高慢さはない。これがクーデ…げふんげふん。
というか半分同化しているので『言う』というよりかは『伝わってくる』が正しいか。
『はいはい。シルフィと僕で術式を組まないと中和魔法は破れないぐらいかい?』
『いいや、そこまで強力なものではないようだ。ユウイチロウ一人でも神の力を使えば破れなくはないはず。』
『神の力を使わされるのは望ましくないね。魔法は極力使いたくないけど…』
それだと美奈代と優里が割と真面目に何もできない。
いや、優里は多少なりとも短剣で援護ができる。…が、美奈代は本当に何もできない。
もちろん杖術を教えていないわけではないが今美奈代が使っている杖は龍鱗を組み込んであるとはいえただの硬い杖だ。
ダメージは期待しない方がいいだろう。
まぁ、味方に向かってきた攻撃をいなすくらいはできるかな。
即席の盾役として頑張ってもらおう。
早速向かってきた魔物の一匹を斬り捨てる。
なんの抵抗もなく通り過ぎた刃が魔物を真っ二つに切り裂く。
顔が豚で体がゴリラで背中には触手が付いている。
見た目がかなりキツイ魔物だが、警戒はしなくてよさそうだ。
いや、僕の見解は参考にしない方がいいか。
なんせ神だしね。僕の刀に抵抗できるような魔物がいたらそれこそ警戒しなければいけない。
まぁそんな魔物がいても神の力を防ぐようなら防御一辺倒で間違いないだろう。
そんなチートみたいな魔物がいたらここら辺の魔物は狩り尽くされているだろうし。
神代だしそういう魔物もいるかもしれないけれど。
絶対にないと言い切れないのが新階層を攻略するときの怖さだね。
まぁなんにしろ新階層の景色は収めたことだし一度帰ってもう一度来ようかと思う。
----
執政院に帰って新階層の報告をしたあと酒場で新階層のことを肴にして酒を飲んでそのまま酔い潰れて寝た。
少し羽目を外しすぎたようだ。
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みんなの感想(7件)

Void
2018.01.03 Void

嫦娥よ、見てるか!?

解除
2017.06.29 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

新世界の神
2017.07.03 新世界の神

ありがとうございます!残念ながら完結となってしまいましたが、私はまだ番外編で行き足掻くつもりです。
つまらない作品ですが、睡眠のお供にでもどうぞ。

解除
ななみ
2016.12.11 ななみ

すごいですね
私もがんばってみます

新世界の神
2016.12.15 新世界の神

いえいえ、そんな…
ありがとうございます。
私も、もう少し頑張ります。
ななみさんも、一緒に頑張りましょう。

解除

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