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こちらに向かってくる2つの足音が聞こえてきた。関口が先生を連れてきてくれたのだろう。
保健室の目の前の廊下の電気が付いたのと同時に5時間目の始業の本鈴がなった。
「待たせちゃってごめんね」
予想通りやってきたのは保健医の湯澤先生と関口だった。
「篠原くんは、来室カードを書いて熱も測ってね。関口くんは授業に戻って大丈夫だよ」
「はい。篠原をよろしくお願いします、先生」
関口は会釈をして保健室を出て行った。
ぼくはテーブルの上からまず体温計を取る。体温計立ての横にあった銀の入れ物からアルコールに浸された脱脂綿を取り出し拭いてから脇に挟む。
体温計が鳴るまでの間に来室カードを1枚とって先の丸くなりかけている鉛筆で項目を埋めていった。
『今の症状』の項目を書いている途中で、脇の下からピピッと小さな機械音が聞こえてきた。
表示されている数字を確認すると、いつもより少し高い体温。
「何度だった?」
パソコンに向かっていた先生が、その影からひょこっと顔を出して問う。
「37度2分でした」
「少し高いめかな。篠原くんはオメガだったよね。フェロモンの数値もちょっと計らせてもらうね」
湯澤先生は後ろの棚の引き出しから非接触型温計に似たフェロモン測定を出してぼくの項に翳した。
簡易測定機のため一瞬で結果は出た。数値が表示されている画面を見ると、定期検診の時より僅かに高い数値が表示されている。誤差の範囲内といえば範囲内なのではあるが……。
「フェロモンの数値は高くないから発情期の前兆とは言えないと思うけど……、確か篠原くんは通常時の数値が低めだったよね? 健康手帳は持ってる?」
健康手帳とは、オメガの定期検診の記録がされているものである。体質についてのあれこれや、抑制剤の処方箋、アレルギーや体質に関しての注意事項などが記入されているので、普段から持ち歩くことを推奨されている。
「鞄に入ってます」
「じゃあ、授業が終わったら取ってきてもらえる? ベッドはこの個室の方を使ってちょうだい。呼ぶ時はベッド横の呼び出しボタンがあるから」
湯澤先生はそう言って、ぼくをオメガ専用のベッドルームに押し込んだ。
ぼくはオメガである事を公言していないので、知り合いにこっちのベッドルームから出てきたところを見られたらどうしようと考えると、少し落ち着いていた気分がまた悪くなってきた。
ベッドに横になると、マットに染み付いているらしい誰かのフェロモンが微かに香る。他人のフェロモンなんて嗅ぎ慣れてないものを吸ってしまったせいで、妙な高揚感を覚えた。なんだか良くないようなことの気がして、慌てて起き上がり頭上にある小窓を開ける。
オメガの安全のため完全に開くことのない窓の隙間から入って来る外の風を肺いっぱいに吸い込むと少し落ち着いた。
他人のフェロモンが染みついたマットにもう一度横になる気分になれず、ぼくはベッドの淵に腰を下ろし、気を紛らわせるようにAIと対戦できるオセロをして時間を潰すことにした。
保健室の目の前の廊下の電気が付いたのと同時に5時間目の始業の本鈴がなった。
「待たせちゃってごめんね」
予想通りやってきたのは保健医の湯澤先生と関口だった。
「篠原くんは、来室カードを書いて熱も測ってね。関口くんは授業に戻って大丈夫だよ」
「はい。篠原をよろしくお願いします、先生」
関口は会釈をして保健室を出て行った。
ぼくはテーブルの上からまず体温計を取る。体温計立ての横にあった銀の入れ物からアルコールに浸された脱脂綿を取り出し拭いてから脇に挟む。
体温計が鳴るまでの間に来室カードを1枚とって先の丸くなりかけている鉛筆で項目を埋めていった。
『今の症状』の項目を書いている途中で、脇の下からピピッと小さな機械音が聞こえてきた。
表示されている数字を確認すると、いつもより少し高い体温。
「何度だった?」
パソコンに向かっていた先生が、その影からひょこっと顔を出して問う。
「37度2分でした」
「少し高いめかな。篠原くんはオメガだったよね。フェロモンの数値もちょっと計らせてもらうね」
湯澤先生は後ろの棚の引き出しから非接触型温計に似たフェロモン測定を出してぼくの項に翳した。
簡易測定機のため一瞬で結果は出た。数値が表示されている画面を見ると、定期検診の時より僅かに高い数値が表示されている。誤差の範囲内といえば範囲内なのではあるが……。
「フェロモンの数値は高くないから発情期の前兆とは言えないと思うけど……、確か篠原くんは通常時の数値が低めだったよね? 健康手帳は持ってる?」
健康手帳とは、オメガの定期検診の記録がされているものである。体質についてのあれこれや、抑制剤の処方箋、アレルギーや体質に関しての注意事項などが記入されているので、普段から持ち歩くことを推奨されている。
「鞄に入ってます」
「じゃあ、授業が終わったら取ってきてもらえる? ベッドはこの個室の方を使ってちょうだい。呼ぶ時はベッド横の呼び出しボタンがあるから」
湯澤先生はそう言って、ぼくをオメガ専用のベッドルームに押し込んだ。
ぼくはオメガである事を公言していないので、知り合いにこっちのベッドルームから出てきたところを見られたらどうしようと考えると、少し落ち着いていた気分がまた悪くなってきた。
ベッドに横になると、マットに染み付いているらしい誰かのフェロモンが微かに香る。他人のフェロモンなんて嗅ぎ慣れてないものを吸ってしまったせいで、妙な高揚感を覚えた。なんだか良くないようなことの気がして、慌てて起き上がり頭上にある小窓を開ける。
オメガの安全のため完全に開くことのない窓の隙間から入って来る外の風を肺いっぱいに吸い込むと少し落ち着いた。
他人のフェロモンが染みついたマットにもう一度横になる気分になれず、ぼくはベッドの淵に腰を下ろし、気を紛らわせるようにAIと対戦できるオセロをして時間を潰すことにした。
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