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1章

31話 【癒し手】様

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亀の叫び声は長くて、大きかった。

あまりの大きさに、頭が割れれるかと思う程に、うるさかった。
その為、ずっと耳を塞いでいたものの、亀が口を閉じても耳鳴りがしていた。


私は耳鳴りがしていたものの、周りを見回して、周りの人から黒いモヤモヤが見えていないかを確認した。

近くにいた人は、みんな耳を塞いでいたり、煩さから蹲っていたりしている人が居た。
幸いミュディー様とエステールさんには無かったものの、他の人達は、ほとんどが耳の辺りに黒いモヤモヤがあった。
だから、近い人から体に触って黒いモヤモヤを綺麗に消していった。

それをしている途中で、エステールさんの叫び声が聞こてきた。

「『回収班!!
前衛の負傷者を回収し、後方に下がれ!!
繰り返す、回収班!!
前衛の負傷者を回収し、後方に下がれ!!』

・・・、だめです、ミュディー様。
回収班から返答がありません」

「【風】ではなく、【火】で回収班に連絡を取りなさい」

「は、はい、すぐに!!」

エステールさんはそう言うと、急いで何処かに走っていった。
それを見送ってから、ミュディー様が叫んだ。

「『総員、周囲に怪我人が居ないかを確認。
特に耳が聞こえずらい者には、手印で指示を伝えなさい。

敵は【風】属性の魔法を使います。
一度目は許しても、二度目の攻撃を受ける事は許しません。

迎撃準備は密に、何時でも出来るようにしなさい!!』」

ミュディー様がそう言った所で、城壁の外に小さな【火】属性の魔法が飛んだ。
その魔法は4回連続で城壁から少し離れた所で爆発し、その後に少ししてから小さな【水】属性の魔法が飛んでいった。

その後に森の中、『タートル』と城壁の中間地点くらいから、【火】属性の魔法が空中に放たれた。

それを見た所で、目についていた黒いモヤモヤは綺麗にし終わった。
その事に気がついたミュディー様が、私と周りの人に向かって言った。

「アリアさん、これからここに前衛の負傷者を運ばせるから、ここで待機していてね。

他の者の半数は、すぐに被害確認!!
ただし、出来るだけ救護班には物資は使わせるな!!
残りの半数は、ここで待機!!」

「「「はっ!!」」」

周りの人達は短く返事をして、半分程の人が何処かに走っていった。
それを見ていた私には視線を向けずに、ミュディー様は言った。

「ありがとう、アリアさん。
迅速に治療をしてくれたお陰で、こちらも素早く動けるようになったわ」

「い、いえ、お役に立てたなら良かったです」

「でも、ここからが貴女の本番になるわ。

これから怪我を負った前衛を、回収部隊がここまで連れて来るの。
もちろん、治療無しで動ける者は連れてこないから、ほとんどの者が貴女の前に連れてこられる。
そんな者達に、貴女自身の魔力が6割を切るまで魔法を掛けてもらう。

プレッシャーを掛けるけど、貴女が一人でも多くの前線に復帰出来る状態にする事が、この作戦成功にも関わってくる。
だから、お願いね」

「は、はい」

ミュディー様の言葉によって、私は緊張し始めていた。
それでも落ち着こうと、深呼吸をしている内に、城壁の外側から人が上がってきた。

城壁の上に登るには、城壁の内側、つまり街中から壁の中に入る必要があると聞いていたので、その人に驚いてしまった。

しかし、驚いた次の瞬間には、その人が担いでいる人に驚いた。
その人は、私は知らない人だった。
しかし、その人はエクス様やドリスさんと同じような黒いローブを着ていた。
つまり、この人は凄い魔法使いなのに怪我人として、ここに居るという事だ。

黒いローブを着れるほど優秀な人が、既に怪我人として居ることに驚きつつも、私はすぐに黒いモヤモヤを見た。
すると、頭と胴体を覆うように黒いモヤモヤがあるものの、特に背面が黒いモヤモヤが濃かった。

それを確認してから、私は目を瞑って、頭と胴体に魔法を使った。
魔法が終わると、もう一度黒いモヤモヤを見た。
すると、今度は黒いモヤモヤは見えなかった。

だから、私はこの人を連れてきた人に言った。

「とりあえず、もう大丈夫だと思います。
ただ怪我をしていた、頭と胴体に痛みや違和感が無い事は確認するようにお願いします」

「わ、分かりました。
ありがとうございます、【癒し手】様」

連れてきた人は私にそれだけ言うと、怪我人だった人を担いで城壁の内側に降りていった。
私は『【癒し手】様』という言葉に固まっていた。

それから暫くして、再び怪我人が、さっきと同じように運ばれて来た。

なので、再び黒いモヤモヤを確認し、魔法を使用、黒いモヤモヤが無いことを確認してから、連れてきた人に痛みや違和感の有無を確認するように言った。
すると、その人にも『【癒し手】様』と呼ばれ、再び固まってしまった。

それを見ていたミュディー様は、苦笑いをしているだろうと分かる声で私に言った。

「訓練を見ていた私やエクス、ドリスならともかく、それ以外の者には初めて接する【癒し手】。
様付けしてしまうのも、仕方ない事だから、慣れるしかないから、そっちも頑張ってね」

「は、はい」

私がそう返答した所で、亀の爆発が再び始まった。

ただ、今度は2箇所同時であるだけで、爆発の時間的間隔は、さっきよりも長くなっているように見えた。
それを見ていると、ミュディー様は険しい表情をしていた。

「あれはエクスとドリスね、随分と無茶な真似を」

その言葉を聞いて、他の前衛の人は攻撃を受けてしまったのだと理解した。

あの亀の叫び声は、相当離れている私達でも暫く耳が聞こえなくなる程の大きさだった。
そんな叫び声を間近で聞けば、どうなるかというのは、想像に難しくない。

始めの人も、その次に運ばれて来た人も、背中側の黒いモヤモヤが濃かった。
つまり、周りの木や土に叩きつけられたという事?


そんな事を考えている間に、3人目の人も運ばれて来た。
そして、それからは運ばれて来た人を治して、治した人が何処か運ばれて行って、他の人が運ばれてくるのを繰り返した。

ずっと繰り返している内に、私の魔力は6割に近くなった。
そのタイミングで、怪我をした人が運ばれてくるのがなくなったので、顔を上げた。
顔を上げると、最後に見た時よりも近くに来ていて、おそらく最初に見た位置から城壁まで四分の一くらい進んでいる位置に居る亀が口を開けている光景だった。
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