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1章

14話 魔物の危険度

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「本日からエクス様と同様にアリアさんの指導に参加するわ。
名前は【付与師】ドリス・エーストン、よろしくね。

私の呼び方はなんでも良いけど、長く付き合う可能性のある相手に、様付けされるのは嫌いなの。
とりあえずは【付与師】さんかエーストンさんで良いよ」

「あ、は、はい。
よろしくお願いします、【付与師】さん」

私の目の前には、昨日の女の人が立っていた。
そんな女の人を、エクス様は嫌そうな顔で見ていて、エステールさんは私達に合流してからずっと空を見ていた。

そんなエクス様やエステールさんを見て、笑顔で言った。

「別に嫌がったりするのは構いませんけど、文句なら私の参加を決めた領主様か簡単にバレる様な表情を作ったエステールを責てくださいね、エクス様」

「はぁ~、責める気はない。
元々、即日知られてもおかしくは無いと思っていた。
1週間持っただけマシだ」

「いえ、1日目からエステールが参加していましたし、目は付けていましたよ。
ただ基礎が出来てない子に教えるのはつまらないので、参加しなかっただけで」

エーストン様がそう言うと、エクス様はエステールさんを見つめた。
エステールさんはエクス様の視線に気づいたのか、体をエクス様から逸らして、ずっと空を見ていた。

「エステール」

「う、す、すみません」

「はは、エステールが私に隠し事をするなんて無理ですよ、エクス様。

それは、それとしてアリアに魔物共の暴走について話してないとか、それは何故です?」

「アリアはあくまでも俺の弟子だ。
しかも魔法使いになる弟子だ。

そんな貴重な弟子が関わる可能性の少ない事に関して、わざわざ伝える必要もないという判断だ」

「なるほど、実にエクス様らしい回答ですね。
ですが、今回はアリアに伝えておいた方が良いと思いますよ?」

「何故だ?」

「先程騎士達が、危険度15と思われる国難想定の魔物を発見して、現在は騎士達が領主様に報告しているはずです。

であれば先に伝えておき、冷静に判断出来る土壌を作っておく必要があるでしょう?」

「ちょ、ちょっと待ってください。
しゅ、主任、危険度15の魔物ってほんとうですか!?」

「エステール、声が大きいよ?
それに、さっき騎士達の会話を【風】属性の魔法で拾った情報だから、間違いないと思うよ?」

【付与師】さんの言葉にエクス様は顔を顰め、エステールさんは顔を青くした。
私も魔物の事は学校で習ったので、おそらくエステールさんと同じような顔を、しているだろう。


魔物は危険度別に呼び方が変わる。
危険度が1~3で個人想定、4~6で町村想定、7~9で都市想定、10~12で領土想定、13~15で国難想定、16以上で埒外想定と呼ばれる。
こう呼ばれる理由は、その危険度の魔物がもたらす被害の度合いを想定した呼び方が、最も分かりやすいからだ。

例えば4~6は村や町全体に被害が出るような魔物の危険度であるという事で、領土想定の魔物でも、危険度が2桁になる魔物を相手にする時は国軍が動く事が多いと学校で習った。

この辺境を襲う魔物の多くは危険度が1~6までの魔物がほとんどで、7~9は極稀に混ざるくらいだとも習った。
ただし魔物の暴走と呼ばれるものが起こると、普段よりも多くの魔物が城壁に攻撃してくる。
その中には、危険度が2桁に達する魔物も居る事もあり、危険度が13を超えると城壁外で仕留めきれない事があるので、頑丈な建物の地下にある施設に避難しなければならない。

そして、この辺境は危険度15を超える魔物に襲われた時、辺境は全滅の危機に瀕した事があるらしい。
その時は騎士と兵士全員の命と引換えに、なんとか撃破したものの、人だけでなく城壁内の建物にも甚大な被害が出たのだとか。


そんな事を学校で習っていた為、私はこの町はどうなるのだろうと思った。
しかし私と同じ様な表情だったエステールさんの様子を気にせずに、エクス様とドリスさんは会話を続けた。

「危険度15の魔物か、だがお前が悠長にしていられるくらいには、速度が無いのだろう?」

「ええ、どうやらタートル系の魔物だそうですよ。

ですので、速度はありませんが防御は桁外れ、危険度15の魔物なら攻撃力も桁外れでしょうね。
加えて言えば、いくら速度が遅いとは言っても通常の馬車よりは早いでしょうから、今から住民の避難は厳しいと思いますよ」

「そもそも危険度15の魔物なら、ここから避難した所で、ここよりも防御に適した城壁は無いのだから、周辺の町では簡単に落とされるだろう」

「まあ、確かにそうですね。
今回もエクス様と私が鍵になりそうですね」

「はぁ、せめてお前の変態性さえなければ、純粋に頼れるんだが」

「変態性って、失礼ですね。
少しだけエクス様の髪の毛が欲しいと言っただけじゃないですか」

「お前、それを言ったのが赤子の頃の俺に向けてだと言う事を忘れたのか?」

「あの時は興奮していたんですよ。
それに2度目は5歳くらいになってからじゃないですか」

「そもそも髪の毛が欲しいと言うのが異常だと理解しろ」

「少しくらい良いと思うのですがね。
まあ、それは追々貰うとして、多分今回の暴走は1体だと思うのですよね」

「1体?
危険度15の魔物が移動しているのに、その魔物から逃げる魔物が居ないと?」

「ええ、多分ですね。
危険度15の魔物では、どう考えも近隣の魔物や植物に含まれる魔力の量だけで食事が足りるとは思えません。
そうなると雑魚は1体残らず喰っていると考えるのが妥当でしょう」

「ああ、そういう事か。

確かに強く大きい魔物ほど生命活動に必要な魔力量が多い。
それなのに足が遅いせいで、魔力の確保が難しい。

しかも、『魔物の森』の中心の方が魔力の濃度が濃いのに、魔力の濃度が薄くなる外側への移動となると、より魔力の確保が難しくなる。

そうなると、より多くの食料、つまり魔物が必要になる。
危険度15の魔物とはいえ取り巻きはもちろんのこと、その魔物から逃げで移動する魔物も逃がしては貰えず、こちらに来る事がない、という事か」

「ええ、今回は1体倒せば終わる、簡単な暴走ですね」

「はっ、その1体で国も危ういだろうに」

「あは、まあそうですけどね」

エクス様と【付与師】さんは、最後には苦い顔をしつつも、少しだけ笑っていた。
だから、つい質問してしまった。

「な、なんで、笑えるんですか?」
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